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Modern Classic Car Owners

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イギリス『TopGear』誌の香港&中国&台湾版に寄稿した日本のモダンクラシックカーオーナーの記事の日本語オリジナル版。
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#クルマ

「ただ可愛いだけでなく、速さというポテンシャルを秘めているところも魅力です」 アバルト・ビアルベーロ 1000

「ただ可愛いだけでなく、速さというポテンシャルを秘めているところも魅力です」 アバルト・ビアルベーロ 1000

 2020年12月31日、一年の最後の日となる大晦日に東京の崎山自動車サーヴィスの工場は昼から多くの人々で賑わっていた。

 社長の崎山和雄さんが77歳の高齢を理由に、この日を最後に工場を閉めて引退する。それを労うために、顧客と関係者たちを集めて小宴が催されたのだ。働いていた工員たちは、他の自動車修理工場へ転職することも決まっている。

 崎山自動車には、僕も世話になったので工場に駆け付けた。工場

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7000回転でチタンマフラーを震わせるフィアット・アバルト131ラリー

7000回転でチタンマフラーを震わせるフィアット・アバルト131ラリー

 ラリーやレースに出場するために台数を限定して造られる特別仕様車のことをホモロゲーションモデルと呼ぶ。
 最近のものではトヨタのGRヤリスなどが代表格だが、少し前ならばランチア・デルタ インテグラーレや三菱・ランサー エボリューション、スバル・インプレッサWRXなどがバージョンアップを繰り返しながら、造り続けられていた。
 ラリーカーに4輪駆動が常識となったのは1980年のアウディ・クワトロからだ

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ハードトップに恋をして

ハードトップに恋をして

メルセデス・ベンツ 250SE クーペ(1968年型)

 自動車の進化と発展は、各種の規制や法律などの強化と表裏一体で進んできた。排ガス中の有害成分が減ったり、安全性が高まったのは最も喜ばしいことだったが、そうではないものもあった。
 ハードトップというボディ形式がほぼ全滅してしまったのは寂しい限りだ。転覆時の車内空間を確保するための安全規制が強まったから仕方ないのだが。
 ハードトップはソフト

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マツダの“執念とDNA”を乗り継ぐ夫婦

マツダの“執念とDNA”を乗り継ぐ夫婦

マツダ・サバンナRX-7 SE Limited(1981年型)

 2018年10月2日に、マツダはメディアと投資家たちを集めた新技術説明会を東京で開催し、野心的なプロジェクトが進行していることを明らかにした。
 それは、2019年にマツダ独自の開発によるEV(電気自動車)を発表するというものだった。マツダはその一方でトヨタと共同で次世代車を開発中だともすでに発表明していたが、独自開発のEVはそれ

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人を呼び寄せるラッキーチャーム

人を呼び寄せるラッキーチャーム

PORSCHE 914(1974年型)

 デザインイメージと車名を変えずに1964年から造り続けられているポルシェ911
が強烈なカリスマ性を持っていることに誰も異論はないだろう。
 しかし、そのカリスマ性が強烈過ぎれば強烈過ぎるほど、あるいはそのパフォーマンスが秀でていれば秀でているほど、ポルシェ社は911に次ぐクルマをつねに欲してきた。
 たしかに911は実力と魅力にあふれるクルマで経営を支

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挫折の軍用車

挫折の軍用車

ランボルギーニ LM002(1990年型)LAMBORGHINI LM002(1990)

 ランボルギーニ自身によってその存在が告知されていた新型SUV「ウルス」が発表されたのは2018年が開けてのことだった。
 ウルスがランボルギーニ初のSUVではないことは、モダンクラシックカーに詳しいトップギア読者諸氏ならばご存知のことと思う。
 ランボルギーニが1986年から1993年にかけて製造していた

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若者はクルマから離れるのではなく、一体化する

若者はクルマから離れるのではなく、一体化する

ロータス・セブン シリーズ3
LOTUS Seven Series 3(1968年型) 日本では、もうずいぶん前から「若者のクルマ離れ」が指摘されている。
 昔は、男も女も18歳になればほぼ全員が運転免許を取得し、全員と言わないまでもかなりの割合の若者が安い中古車などを購入してクルマを持つことが当たり前と考えられていた。
 地方は今でもその通りだ。移動手段を自分で確保しなければ生活できないからだ

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箱スカGT-Rを25年間1ミリも動かさなかった理由

箱スカGT-Rを25年間1ミリも動かさなかった理由

日産スカイラインGT-R(1971年型)Nissan Skyline GT-R(1971)

 東北地方のイベントに怖ろしく程度の良い箱スカGT-Rが現れたという噂は、2016年秋頃から耳にしていた。
 箱スカとは、ご存知の通り、日産スカイラインの通称だ。まるで箱のように四角く見えることから、“箱のようなスカイライン”が縮められ、親しみを込めて呼ばれるようになった。今では、英語圏のマニアの間でも“

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この地域で震災前から現存しているのは、このセリカだけなんですよ

この地域で震災前から現存しているのは、このセリカだけなんですよ

トヨタ・セリカGT-FOUR(1994年型) 東日本大震災で被った被害の大きさは、百万言を費やしても語り尽くすことはできないだろう。
 とりわけ、太平洋沿岸部への津波の被害が甚大だった。津波は、あらゆるものを破壊し、押し流し、剥ぎ取り、奪い去るだけでなく、同時に大量の瓦礫やヘドロをぶちまけ、押し付けてきた。
 宮城県気仙沼市に住む薬剤師の武田雄高さん(42歳)が乗っているトヨタ・セリカGT-FOU

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手間が掛かるクルマは馴染んでいきます

手間が掛かるクルマは馴染んでいきます

Range Rover(1991年型) 鹿肉はヘルシーでありながら栄養分が豊富で滋味深いことから、近年、日本で急速に注目を集めている。
 牛肉と較べて、カロリーは3分の1、脂質が100分の1しかないのに、その反面、たんぱく質は1.38倍、鉄分は2.3倍も含まれているのだ。
 ジビエ料理レストランが東京を始めとした都市部に造られ始めているが、兵庫県丹波市に、地元で仕留められた鹿の肉と野菜を使ったフル

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往年のHONDAイズムに想いを馳せる三兄弟

往年のHONDAイズムに想いを馳せる三兄弟

HONDA 1300 77S(1969年型)

 兄弟が揃って健康で、仲が良ければ言うことはない。
 神奈川県横浜市に住む佐伯隆夫さん(77歳)は3人兄弟の真ん中で、兄や弟と今でも仲が良い。共通の話題はクルマだ。
 始まりは、67年前にまで遡る。佐伯さんが小学校3年生、10歳の時だ。近所の人が「陸王」というオートバイに乗っていた。
「ガソリンの匂いとVツインエンジンの排気音がなんともたまらなくて、

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ランボルギーニを10台持つ男は、サンタガータの本社へ単身乗り込んだ

ランボルギーニを10台持つ男は、サンタガータの本社へ単身乗り込んだ

 最近のランボルギーニ・ジャパンは、顧客向けのイベントを精力的に開催している。
 富士や鈴鹿で各種のサーキットイベントを頻繁に行うだけでなく、ランボルギーニを運転して歴史的な土地を訪ねるツーリング『LAMBORGHINI GIRO JAPAN』を日本各地で実施している。関西地区の顧客を対象とした同イベントに同行してきた。
 大阪をスタートし、淡路島から香川県へと瀬戸内海沿いの風光明媚な道を走り、有

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日本登録第一号の45年前のレンジローバーはお寺のファーストカーだった

日本登録第一号の45年前のレンジローバーはお寺のファーストカーだった

 十中八九、あのレンジローバーはもう存在していないだろうと思っていた。15年前に初めて見せてもらった時でさえ、すでに立派なビンテージカーだったのだから、きっと乗り続けられてはいないだろう。
 訪れてみて、仮にそのクルマが無かったとしても構わない。それでも、再び訪れてみたくなったのは、それが日本で最初に登録されたレンジローバーで、その来歴が実にレンジロバーらしいものだったからだ。
 箱根から御殿場の

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ゴルフGTI  親の苦労を見て育ったから、ゴルフは家族の絆そのもので、きっと大きな実を結ぶことだろう

ゴルフGTI  親の苦労を見て育ったから、ゴルフは家族の絆そのもので、きっと大きな実を結ぶことだろう

 フォルクスワーゲン・ゴルフが世界の自動車に与えた影響の大きさは計り知れない。
 日本では、日本車よりも先にユーザーがそれを感じ取っていた。
 黒豆で有名な兵庫県丹波の近くに、ゴルフに魅せられ続けている家族を訪ねた。
 中上元(38歳)さんが中心人物で、現在は初代ゴルフGTIに乗っている。元さんも弟の牧人さん(31歳)も独立して家を出ているのだが、父親の武男さん(73歳)と母親の百合さんが住む生家

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