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【特別連載 第3回】小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)・感染対策・ワクチン篇

前回(第2回)はこちら↓

監 修:笠井正志(兵庫県立こども病院 感染症内科 部長)
著 者:伊藤健太(あいち小児保健医療総合センター 総合診療科 医長)

・本記事は書籍『小児感染症のトリセツREMAKE』(監修:笠井正志,著:伊藤健太)の補訂版として公開します。小児感染症全般についてさらに深く理解したい諸氏は,本編とあわせてご参照ください

・本補訂版は感染症のなかでもとりわけ流動性の高い内容を扱っています。今後の状況の変化やエビデンスの蓄積によって内容に変更が生じる可能性があり,それに伴い修正・加筆が行われる場合があります

・本記事は「小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の後篇です。前篇「診断・治療篇」はコチラです

・参考文献は文中にハイパーリンク(下線部分)にて示します

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【第3回 コロナはカゼか?~社会的観点】

③社会的観点

 さて,今回は社会的観点で小児のCOVID-19とカゼの類似点と相違点を比べていきたい。そして,今回はさらにその前段,なんというか私のこの問題に対するスタンスみたいなことを書いている。
(あくまで日本で働く感染症を専門とする小児科医として,この2年数か月の間に感じたことを2022年1月中旬に記載したので,そういうの良いからという人は飛ばしてね!)

 社会的観点ってなんだよ?! って言ってる自分も思うが,社会に与える影響という意味にとらえていただきたいのだが……これはカゼとCOVID-19では全然違う。何から何まで違い過ぎて比較対照がよくわからない感じである。

 そして,このCOVID-19を取り巻く社会的な状況に関しては,様々な立場によって(あと時期によって……波ごとにこんなに事情が移ろう感染症とかマジないでしょ?)意見もいろいろあるところだと思う。

 誤解を生まないよう前置きがずいぶん長くなっているが,別に分断を生みたいわけではなく,小児を取り巻くCOVID-19の社会的な状況をもし知らない人がいたら知っていただけたら……という思いから筆を執っている。

 COVID-19流行で起きた社会的な子どもの変化としては,たとえば黙食とか,部活動中止とか,リモート授業とか,またいきなり濃厚接触者とか言っていきなり家に閉じ込められたり,感染したらしたで家族と離れ離れになったりと,様々あるが……そんな変化を及ぼすカゼはない。

ナゼその違いが生まれるのか?

 当然,通常のカゼとは言えない重症例や合併症が特に米国を中心に報告されているのは臨床の違い(前篇参照)で指摘したとおり,まずもって

『子どもが感染しないように』だよ!

というのはある。

 日本では今は少ないけども,オミクロン株がワクチンで守られていない子どもにガンガン広がれば,割合は低くとも,医療的な理由で入院する患者や集中治療を要する重症者,MIS-Cなどの絶対数が増加する可能性が十分ある。
 そこを防ぐために社会的にも対応しているんだよ……(さらに言えば,今社会的に超がんばっているから日本の子どもの感染者は少ないんだよ!!)というのは確かに一理も二理もある話だ。

だけども,現時点で,社会でむちゃんこなコストをかけてCOVID-19の対応をしているのは,やっぱり高齢者や基礎疾患のある人々が重症化したり,亡くなったりしないこと,そして重症者が増加して医療を逼迫し,通常の医療ができなくならないようにしよう! というのが一番の理由だろう。
 COVID-19の波が来るたびに成人医療の最前線にいる感染症医や集中治療医・救急医,呼吸器内科医の悲鳴がTwitterで渦巻くのを見ていると,本当に大変なんだなと頭が下がる。

 そして,そういう状況下で,子ども目線で考えてみるとCOVID-19とカゼの社会的な最大の違いは…

『感染症にもかかわらず子どもは二の次になっているところ』

かな? と思う…………。




 いやー,これは言ってしまったな。うん,だいぶ言ってしまった。

 COVID-19は巻き込む(まれた)対象の種類も数も大きすぎて,まさに社会的な問題になっているから,各々の立場で言いたいことは数多あり,逆に私自身あまりポジショントーク的なのは避けてきたのだけれども……言ってしまったな。いや言ってやったな……。

 感染症のわりに子どもより高齢者の方が重症化してしまうっていう性質上ある程度しょうがないと思うし,そこにコストかけるのは当たり前でしょ? という声が挙がるのはそれこそ当たり前だ。

 そして,そんだけ社会的にコストをかけたから,日本では子どもの感染者が少なく,ひいては小児の重症者が少ないという側面もあるというのは先に書いたとおり(この辺はどの対策がどれくらい子どもの感染者増加抑制に功を奏したか? という評価がされないとわからないと思うが……)。

 さらに「子どもだけじゃなく,老若男女問わずみんな社会でコストかけてんだろ! 文句言うなし」という声もあると思う。繰り返しになるがこの状況を見れば子どもよりもまず成人,高齢者でしょ? というのもわかる。

 わかるんだけけども……小児科医として,子どものアドボカシーとしてもあえて言いたい(すでにポジショントークっぽくなってしまうんだけども)。

 様々な社会的対応において,どうしても子どもが二の次になってる感が否めない…と……。

 ということで次回からはCOVID-19流行下において子どもが被る社会的ないろいろについて何回かに分けて簡単に紹介する。

 あと,COVID-19の子どもに関する話をするときに,いつも問題になる『子どもという主語大きすぎる問題』というのもあって,つまり0歳も15歳も一緒くたに「子ども」というのはいささか乱暴であるということである。
 できる限り何歳の子たちという情報は入れ込むけど難しいときもあるので,そのときは『難しかったんだな?』と思ってほしい。

カゼっぽいところ

 ほぼなし。

カゼっぽくないところ

 たくさんありますよ。社会的にカゼと違うところは。
 たとえば休校措置(インフルエンザでも学級閉鎖すんじゃん!!とかは次回以降参照)とか,リモート授業とか,マスク着用とか,家族が罹患したりとか,その影響で離ればなれになったり,人によっては保護者や肉親を亡くしたりとか……。

 子どもが被ってきた社会的ないろいろの健康に対する影響を次回から述べる。
 第4回以降ではまず身体的な健康問題について。
 そしてそれらが片付いたら,次はいよいよ子どもがCOVID-19流行でくらっている最も重要なポイントである,メンタルヘルスのふたを開けてみたい。

次回は2月4日(金)に更新予定です
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著者紹介

監 修 笠井正志(かさい・まさし)
兵庫県立こども病院 感染症内科 部長

著 者 伊藤健太(いとう・けんた)
あいち小児保健医療総合センター 総合診療科 医長

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【 書誌情報 】

・監 修:笠井 正志 著 者:伊藤 健太
・定 価 :5,940円(5,400円+税)
・B6変判・552頁
・ISBN 978-4-307-17073-4
・発行日:2019年4年24日
・発行所:金原出版

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