【特別連載 第2回】小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)・感染対策・ワクチン篇
前回(第1回)はこちら↓
監 修:笠井正志(兵庫県立こども病院 感染症内科 部長)
著 者:伊藤健太(あいち小児保健医療総合センター 総合診療科 医長)
・本記事は書籍『小児感染症のトリセツREMAKE』(監修:笠井正志,著:伊藤健太)の補訂版として公開します。小児感染症全般についてさらに深く理解したい諸氏は,本編とあわせてご参照ください
・本補訂版は感染症のなかでもとりわけ流動性の高い内容を扱っています。今後の状況の変化やエビデンスの蓄積によって内容に変更が生じる可能性があり,それに伴い修正・加筆が行われる場合があります
・本記事は「小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の後篇です。前篇「診断・治療篇」はコチラです
・参考文献は文中にハイパーリンク(下線部分)にて示します
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【第2回 コロナはカゼか?~感染対策的観点】
②感染対策的観点
カゼっぽいところ
ヒト-ヒト感染,とくに飛沫対策が主な感染経路別対策とするところはカゼっぽい。
そのため,鼻・口粘膜を守るためにはマスク着用が重要になるし,臨床現場ではフェイスマスクやアイガードなどの眼粘膜を守る対応も必要になる。
乳幼児では,一般的なカゼであっても,彼らの分泌物中にたくさんいる原因ウイルスを咳エチケットせず(できず)周囲にまき散らし,それだけでなく,鼻や口を触った手で介護者やあたりを触りまくり……と接触対策も必要になることがある。
たとえばRSウイルスの主な感染経路別対策は,接触対策なのである!(CDC RSV transmission)
COVID-19においても臨床現場では接触対策が追加されているが,きちんと感染対策を行っている医療機関では,この点において普段の対応と大差ないのでは? と思う(感染対策は医療機関ごとに可及的に最良の方法が選ばれればよいと思いますので,あくまで私見です。)
カゼっぽくないところ
COVID-19における感染対策的にカゼっぽくないところは下記の2つがある。
1. 発症1-2日前から感染力がある
いわゆるカゼの原因となるウイルス感染のほとんどが発症時から感染力をもつ。発症時に排泄ウイルス量のピークが来ることも多い。
しかし,COVID-19は発症1-2日前から感染力がある感染症である(ただしインフルエンザも発症1日前から感染力があるため,COVID-19に限った話ではないが)。
発症前から感染力がある(しかも2日!)というのは,すなわち流行が拡大すればするほど,症状がなくとも,だれが感染していてもおかしくないということである。
ユニバーサルマスキングやフィジカルディスタンシングなどCOVID-19対策ING(アイエヌジー)が必要となっている。
2. 条件的空気感染する
「カゼっぽいところ」で書いたが,き・ほ・ん・て・きには飛沫感染・接触感染が重要な感染経路である。それはみなさん再度確認いただきたい。
WHOやCDCなどの公的機関も流行当初はそれしかねぇくらいのテンションだった。しかし,実際の疫学調査などからは,これらの感染経路では説明できない感染事例が起きていることがわかってきた。
現在メディアでは普通に『エアロゾル感染』とか『空気感染』といったキーワードが連呼されるようになった。今では厚労省もCOVID-19ではエアロゾルを介した感染があると明記している。
では,そのエアロゾル感染が起きやすそうな条件は何か? というと,いわゆる三密(密閉・密接・密集)である。
そのためCOVID-19では通常のカゼに加えて,『三密回避!!』と声高に叫ばれている(エアロゾル感染とか空気感染についてや,医療現場における感染対策の考え方に関しては後半に長々しく書いているので興味ある人はそちらをどうぞ)。
3.基本的には飛沫対策・接触対策が重要!
つまりマスク着用と手指衛生である。
そして,換気が悪い場所や多量の飛沫が発生する状況を共有する場合は,空気感染に準じた対策が必要となる。そしてそのような状況が起きやすい三密は回避するべきとなる。
たとえば三密が他の感染症伝播でも重要か? ということは,従来あまりそういう目線では語られていないので判然としないのだが,たとえばRSV感染症は同居家族が7人以上(crowding)だと感染しやすいといわれている。
またCOVID-19以前にオランダの集団集会イベント(カーニバル)がある場所とない場所で同時期のインフルエンザ入院の違いを見た研究では,カーニバルがあった地域ではカーニバル1週間後に入院のピークが到来しており,普通に関連するやん……という感じである。
このようにCOVID-19に対する感染対策は,すべからくいわゆるカゼの感染対策にもなっている。
そのためCOVID-19流行により,世界中でRSVやインフルエンザなどその他の流行性疾患の疫学が変化しているのはみなさんもご存知かもしれない。
つまり感染対策は,大は小を兼ねる的にカゼと大きくは違わない。
しかし,感染対策はする/しないだけでなく,どれだけするか? という量的な観点が必要である。
ヒト-ヒト感染する感染症に罹らないために,最大限の感染対策を行おうとすれば,それは家から一歩も出ないことである。しかしそれには社会生活の犠牲が不可欠になる。
この社会的な生活の犠牲の程度こそが,カゼとCOVID-19が最も大きな違いであり,次回で語りたいポイントである。
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以下興味ある人は読んでねゾーン
基本的に感染経路と感染対策はセットであり,空気感染か否かというのは医療現場に与える影響がめちゃくちゃ大きい。
ひとたび空気感染となれば,医療者はN95マスクなどの特別なマスク装着が必要になるし,患者は陰圧個室などの特別な環境で管理しなくてはならない。
N95マスクはフィットテストなどの正しく使えるかどうかの評価が必要であり,陰圧個室が十分にある医療機関は多くない。このようにメディアで扱われるほど,軽く使えない言葉が『空気感染』なのである。
そこに来て,さらに『エアロゾル感染』である。
エアロゾルってなに? と思う人も多いことだろう。
これまで感染対策に従事してきた人々は,「エアロゾルとは?」と聞かれれば,鼻高々に
『5μm以下の微粒子で空気中を漂うので,空気感染は広い範囲に拡散されるのさ。飛沫とは違うのだよ,飛沫とは』
と説明してきたものだ……。
基本的には空気感染はエアロゾルを介した感染経路という認識であった。にもかかわらず,TVやSNSではエアロゾルについて『空気感染とは違うのだよ,空気感染とは』なんつう話が流れてきたものだから,ぶっちゃけ困惑しましたよ,私……。
こういうときは初心に戻ってみようと『日本エアロゾル学会』なる学術団体のウェブサイトを覗いてみた。そこには,
と説明があり,要は浮遊する物体の大きさには特にこだわりはなく,まあ「ぷかぷか浮いている何か」という感じである。感染経路を決める言葉としてはかなりあいまいな感は否めない。
医療現場においては特に,感染経路は感染対策とセットであるため,『エアロゾル感染』という感染経路には,どんな対策をすべきかを決める必要があり,頭を抱えてしまう。つまり常に空気対策が要るのか? ということである。
今のところ答えは『ノー』で,エアロゾルによる感染リスクが高まる状況があれば空気対策,そうでなければ飛沫接触対策という,なかなかにグラデーションがかっている。
する/しないのラインが明確な方が『楽な』医療現場とそぐわないのである。
しかし対策は行わなくてはいけないので,その『エアロゾルによる感染リスクが高まる状況』というの状況にも定義みたいなものを決める必要がある。
そのため一応下記のようなものが日本環境感染症学会『医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第4版 2021/11/22』や厚生労働省『新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第6.0版 2021/11/2』などから提示されている。
このように公的機関から出ている状況もちょっとずつ違うし,歯科口腔処置全例にN95マスク着用するかどうかなど,一つ一つ当事者と感染対策の責任者でその実現性やスタッフの理解度,情熱,個人防護具の在庫管理なども含めて検討して決めるしかないな,という状況である。
そのため,結局は病院ごとである程度決めて,対応しているの現状だと思う(だから誰が正しいとかそういう話ではないし,同じ施設内でも侃侃諤諤の議論が起きてしまうのである)。
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次回は1月28日(金)に更新予定です
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著者紹介
監 修 笠井正志(かさい・まさし)
兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
著 者 伊藤健太(いとう・けんた)
あいち小児保健医療総合センター 総合診療科 医長
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【 書誌情報 】
・監 修:笠井 正志 著 者:伊藤 健太
・定 価 :5,940円(5,400円+税)
・B6変判・552頁
・ISBN 978-4-307-17073-4
・発行日:2019年4年24日
・発行所:金原出版
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