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手のひらの 唇の脇の 手の甲の

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連載小説『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』をまとめています。(全11話)
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〈雑記〉あとがきにさえなっていない、書いた側の感想文

〈雑記〉あとがきにさえなっていない、書いた側の感想文

 はい。こんにちは。
 十一日連続投稿していた連載が終わりました。

 あとがきまで読む人は少ないだろうし、僕の小説は筆者である僕ぐらいしか分析を書く人がいないので、僕が書きます。

 連載の日数としては二週間にも到達していませんし、文字数としては四万三千字くらいなので、やっとこさ書いた一編といったところでしょうか。
 これでも僕としては、過去で一番長い小説になりました(連作短編のシリーズを除いて

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(まとめ読み版)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(まとめ読み版)

 連続投稿していたものから加筆修正はしていません(42000字よりちょっと多いくらいです)。
 1話ずつ読みたい方はマガジンへどうぞ。

第1話「狭山さん、左手――見せて下さい」
「左手?」
 僕が結婚していないことはもっと早くに知っていただろうに、何を今さら聞くことがあるのだろうか。とはいえ、新入社員であるミコにとっては初めての出張だ。車内くらいは肩肘を張っていなくてもいいだろう。僕はハンドルか

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(最終話)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(最終話)

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(前のお話)

 昨日の夜もきちんとベッドの上で寝たはずだったのだが、横になると久しぶりに布団で眠れるのだ、という感覚になった。
 隣に京佳さんがいるという状況は変わらないはずなのに、睡魔が強烈に襲ってきたことを覚えている。そのまま、僕は何もせずに朝を迎えた。
「おはよう。ごめん、僕の職場まで通勤にどれくらい掛かるか分からないから、早く起きすぎた」
「んーん。昨日寝るの早かった

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(10/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(10/11)

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(前のお話)

 ずいぶん長く眠ったように感じたが、早朝に目が覚めた。
「おはよ」
 完全な寝起きではない声色の京佳さんが、口の中だけであくびをする。
「外はもう明るい。早いけど、僕はもう行かなくちゃ」
 口で言ってはみたが、昨日見た自分の部屋の光景を思うと、動く気力が湧いてこない。水が引いてからそろそろ丸一日になる。時間とともに、汚らしい床が干からびていく様子まで想像できる。

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(9/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(9/11)

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(前のお話)

 翌日土曜日の朝方になって、僕は目的の駅まで運ばれた。座席で眠りはしたが、停車中の車内で小脇に仕事の鞄を抱えた状態では深く眠れなかった。あるいは姿勢だけの問題ではなかったのかもしれないが、とにかくほとんど寝た気がしなかったのだ。

 駅近くの立体駐車場に歩いて向かいながら、京佳さんと話した。
「無地に着いたよ。駅までは」
「遊悟くん、疲れたでしょう?」
「疲れた

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(8/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(8/11)

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(前のお話)

 僕は京佳さんと平坦な時間を過ごした。
 と、自分では思っている。
 春に桜を見に行ったのは僕が「どこに行く?」と聞いたら京佳さんが「桜を見にいきましょう」と言ったからで、「きれいだね」と言いながら、僕らは写真も撮らずに広い公園を歩いた。
「桜が見たいから」ではなく、春に行くとすれば、ごく一般的だから「桜を――」と京佳さんが答えているであろうと、僕は推測していた

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(7/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(7/11)

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(前のお話)

 助手席に座ったミコが「相談があるんです」と言っていたが、口調からはいつもの彼氏についての相談なのか、取り留めて行う必要のある相談なのか、僕には分からなかった。
「なんの相談?」
「んー、とりあえず今日は仕事疲れちゃったので、一回リセットしてから話していいですか?」
「それは構わない。僕は聞く側だから、ミコの思うときに話せばいい」
「ん。じゃあ、とりあえず、ラー

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(6/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(6/11)

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(前のお話)

 初めて脱がせたときは、ほくろの多い人だな、と思った。
 僕はほくろに対して特段のフェティシズムを感じているわけではないが、やけに目に付いたのだ。すらっと伸びた背に豊かな胸をしているため、もっと他に見るべき場所はあったのかもしれない。しかし僕は、どうも京佳さんのほくろが気になってしまった。

「なんだか恥ずかしいですね」と京佳さんが口元を隠しながら笑うと、隠れた

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(5/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(5/11)

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(前のお話)

 ラブホテルはなんとも都合の良い場所だ。いや、都合が良いというか、人目を気にする必要がないという点においては、常に需要があるから存在しているのだろう。 
「すきい。だいすきい」
「それ言わないと気持ちよくなれないの、おもしろいよな。ただ単に変態なのか、純愛者なのか、僕には分からないよ」
「だってえ――すきい。んっ、気持ちいいんだもんっんっ。すきい――ああっ、んっ

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(4/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(4/11)

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(前のお話)

 特段に目を引くようなプロフィールは設定されていなかった。
 20代後半、女性。
 “よろしくお願いします”
 プロフィール画像の三枚目には、〈ヘンテコなポーズ!〉の手書き文字と一緒に、彼女の思うヘンテコなポーズの写真が設定されていた。
 元々はその画像が気になって、いくらかアプリ内でやりとりをしていた。僕は会話の一つとして意図を聞いた。
“キョウカさんのプロフ

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(3/12)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(3/12)

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(前のお話)

 シャワーを浴び、トランクスだけを履いて、脱ぎ捨てた衣服を整理する。ホテルの部屋で過ごす時間はさほど長くないため、明日のシャツとネクタイをハンガーにかけ、買っておいたミネラルウォーターで乾いていた唇と喉を潤す。
 ブブブッと震える携帯を充電しつつ、適当に寝間着を着てからノートPCを開く。
 数件の連絡が入っており、携帯でのメッセージとノートPCでのメール返信と、

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(2/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(2/11)

(前話)

 ミコは期待どおり、僕の任せた仕事やってのけた。
「はは! 狭山さん、おもしろい新人が部下についたね」
 離席から戻った僕に、開口一番でお世辞ではない声が掛けられる。山口さんの声色が上気する時は気に入った証だ。取引先の営業社員である山口さんとは年が近いため、分を弁えつつもなんとなく友達感覚を持って話している。
 だからこそ、あえてミコを一人にしておいた。
 何の話をしたかと聞いてみると

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『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(1/11)

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』(1/11)

※この小説は、性的な表現を含みます。ご了承いただける方と、未成年の方以外はお進みください。

『手のひらの 唇の脇の 手の甲の』

「狭山さん、左手――見せて下さい」
「左手?」
 僕が結婚していないことはもっと早くに知っていただろうに、何を今さら聞くことがあるのだろうか。とはいえ、新入社員であるミコにとっては初めての出張だ。車内くらいは肩肘を張っていなくてもいいだろう。僕はハンドルから左手を離し

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