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ショートショート:「人の森に住む」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝人が木に見えてしまう青年〟の話です。
以前〝心〟を海と表現した話を書いたのですが、
「人と人を表現するなら、どうしようかなぁ。」と妄想したときに出て来た話です。
楽しんで頂けると幸いです。


【人の森に住む】

作:カナモノユウキ


僕には、人が〝木〟に見えるときがある。
小さな苗木のような人や、年月を感じる巨木のような人。
僕の友人の良太は、正に苗木のような繊細なヤツで、何でも吸収が早い。
好きなものや興味のあることは、栄養のように取り入れていく。
僕の住むアパートの大家さんは、今年84歳なだけあり、存在感が巨木のようだ。
身体はきゃしゃで、僕よりもひと回り小さいのに。
木に見えると、まるで原生林に根付く木の様で。
その神々しさから、僕は拝んでしまうことすらある。
人が多種多様の木に見えるのは、きっと僕が〝孤独〟を見つめてしまったからだ。


――――僕はその夜、言い知れない孤独感に苛まれた。
会社でのミスをフォーローするのは、いつも自分。
愚痴を吐き出したいときに、横には誰も居ないから、心の中で自分に吐き出す。
嬉しい時も、悲しい時も、自分に話しかけて消化する日々。
そんな日々だったから、まるでゴミ箱のように老廃物が貯まったんだろう。
会社から帰り、電気も付けず、着替えもせず、部屋でぼーっとしていたら。
枯葉が僕の足元に落ちて来た。
暗い天井を見ても、隙間なんて見えないし。
今は夏だから枯葉なんてない、そもそも部屋の天井から落ちるなんてありえない。
「これ、何処から落ちて来た?」
そう思って部屋の明かりをつけると、窓ガラスに木が映っていた。
丁度僕の立っている場所に、カラカラの木が一本。
木には枯葉が付いていて、パラパラと僕の足元に落ちていくのが見える。
「あ、この木……僕か。」と驚くこともなく、受け入れた自分が不思議だった。
自然と理解した後は、それを朝方まで眺めていた。
眺めていて気付いたのは、この木が酷く孤独に見えて。
悲しく見えたのに、涙は一切出なかった。
それはそうだ、この木は僕自身で、こんなカラカラな木から水が出るはずがない。
僕は自分自身の木に、〝孤独〟と名付けた。


――――翌日は休みで、遅く起きた僕は街へ買い物へ出かけた。
食材を買い終えて、駅近くのベンチで行き交う人を眺める。
ぼんやり昨日の部屋で見た木を思い出していたら。
いつの間にか僕は街ではなく、〝森〟に居た。
街行く人々は姿を消し、木々が至る所に立ち。
街の喧騒は、木々の揺れる葉音に変わった。
森と言っても普通の森じゃない、若い木に太い木、ヤシの木と白樺が並んで居たり。
しだれ桜のような木の横に、メタセコイヤが寄り添っていたり。
とにかくあり得ない木の共存が見て取れる。
その中にいくつか、僕と同じ〝枯れ木〟を見つけた。
葉がヒラヒラと落ちている、疲れていそうな木が数本。
その中で一本の枯れ木の横に、生き生きとした木が並んでいるのを見かけた。
見た時に気付いてしまった、横の木に栄養を取られているんじゃないかと。
それを見て怖くなった僕は、その場から逃げるように自宅に帰った。
ハッキリと見たくないものを見た気持ちだ。
僕たちは〝木〟でそれぞれが〝孤独〟なのに、他人の栄養を吸い取る孤独な木が存在する。
その事実は僕にとって、正に恐怖だった。
だってそれは、人が人を食い物にしているってことだろ。
頭では理解していたことでも、こうして具現化されると、こうも怖く感じることを痛感した。


――――僕はしばらく会社を休み、この変な現象を拒絶した。
なるべく外に出ず、人を見ないで。
些細なものを見たと自分に言い聞かせたけど、ダメだった。
そして一週間が過ぎ、有給が底をつく最後の日。
父さんが僕を心配してやって来た。
「大丈夫か?」と一言だけ言った父さんは、荒れ放題の僕の部屋を片付け始めた。
僕は片親で二人家族。
中高と僕を育てながら仕事をして、相当苦労したと思う。
そんな父さんに心配を掛けまいと、単身上京をして自立をしたはずなのに。
僕が調子が悪いときには、自然と会いに来てくれる。
その姿に、涙が出そうになったとき、父さんが〝木〟に見えた。
その木は、とても逞しくて、安心感を与えてくれた。
緑の葉が生い茂り、その肌は強く、頑丈そうに見えて。
これが同じ〝孤独〟なんだろうかと、錯覚してしまう程に。
「どうした?」という父さんの声に、ハッとした。
目の前には逞しい木じゃなくて、いつもの父さんが見えた。
部屋の片づけをして、料理を作ってくれた父さんと夕食を食べている最中。
僕は自分の身に起きた不思議な体験を話した。
すると父さんが「お前が見たのは、きっと素直な人間の姿なんだな。」と言ってくれた。
僕たちは皆、孤独だけどしっかりと地に根を張って生きるしかない、孤独な木々なんだと。
だけどお互いに栄養を与えたり、支えたりして生きている。
僕が本当に怖かったのは、その事実じゃなくて。
自分が誰かに吸い取られていると、そう思うことが怖かったんだと理解した。
でも父さんが教えてくれたんだ、「〝吸い取られた〟じゃなく、〝分け与えた〟と思え。」って。
色々な出来事に耐え忍び、それでも僕を育ててくれた父さんの言葉。
その言葉こそ、僕に〝分け与えてくれた栄養〟なんだと思った。
――――翌日、父さんを見送り会社に行った。
長い休みで迷惑を掛けたのに、皆は心配してくれたみたいで。
その言葉の栄養で、僕は今枯れずに生きている。
ガラス窓に映った僕の木は、枯れ木ではなく、青々とした緑が生える木に成っていた。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

自分自身、若干のHSP気質で悩んだ時期もあるんですが。
それを思い出した時に、漠然と〝孤独〟を感じることが多かったんです。
その孤独って今思えばとても分かりにくくて、「何で自分は…」と卑屈な考えで自分自身を苦しめたりもしたのですが、「そういう孤独感がもっと分かり易く見えたらなぁ。」と思い返したら、こういう話になりました。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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