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ショートショート:「チンドン屋が通る」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝ホラーテイスト〟なお話を書いてみたいと思い、「楽し気なチンドン屋がとんでもないものだったら」と思い書いてみました。
楽しんで頂けると幸いです。


【チンドン屋が通る】

作:カナモノユウキ


夜十一時のスクランブル交差点。
そこにいわゆる【チンドン屋】が列を作って歩いていた。
鬼や何かの妖怪のような姿に扮して、皆おどろおどろしい特殊メイクやコスプレをしながら楽器を演奏している。
サックスに和太鼓、トランペットにフルート、ギターに三味線。
果てはミキサーテーブルをリアカーに乗せて、スピーカーを鳴らしながら歩いている者までいる。
総勢何十人という演奏をするコスプレイヤーと、それをはやし立てる者たち。
騒音と片づけてしまう程の爆音でパレードがやって来たのに、皆見つめるかスマホで撮影するだけ。
《警察は、何してるんだろう。》
そう思ったのも束の間、チンドン屋の後方からパトカーが見えた。
でも、警告もしなければサイレンも鳴らしていない。
それどころか乗っている警察官は、みんな笑顔でチンドン屋の後を追う。
《これって警察のイベントか何か?》
更に不思議なことに、パトカー数十台の後方。
車の後ろには一般人の列が見える。
《え⁉一般人参加型イベントなの⁉》
そう驚いて目を凝らすと、サラリーマンや主婦っぽい女性に、はてまた学生服の子供におじいさんおばあさん。
老若男女入り乱れて、真夜中のパレードに参加している。
《絶対おかしい、変なことが目の前で起こっている!》
そう確信したとき、列の中に僕の父親がいた。
「え⁉父さん⁉」
思わずそう叫ぶと、父親はこちらに気づき手を振ってきた。
「おーい‼正孝ー‼お前も来るかー‼」
「父さーん‼そのチンドン屋なんなんだよ!」
「あー、これかー天国に連れてってくれるチンドン屋だとさー!」
「何言ってるのー⁉」
父親が叫びながら訳の分からない事情を説明してきた。
《天国に連れて行く⁉変な新興宗教のパレードだったのか⁉》
警戒心が表情全体に広がったとき、父親が近寄ってきた。
「正孝、お前も来るか?」
「行かないよ、そんな訳の分からないところ。」
「訳わからないは無いだろ、天国だぞ⁉」
「天国なんてこの世の中にある訳ないし、そんなとこ行ってどうするの。」
「どうするもなにも無いよ、現実に疲れたから父さん天国に行くんだよ。」
「いやいや、おかしいでしょ?疲れたんなら銭湯でもサウナでもなんでも行けばいいでしょ。」
「正孝、お前分かってないな。そんなもんじゃもう俺たちの疲れは取れないんだよ。」
「俺たちって、その後ろの警察官もその後ろの人たちも、みんな行くの?」
「そうだぞ、もうこの世の中じゃあどうしようも無いから天国に連れてってもらうんだよ。」
「父さん……なんか恐いよ?」
「恐いことなんてないさ、正孝も一緒に行こう。」
「……母さんは?」
「ん?母さんも…そのうち来るだろ。」
父さんはいつもばつが悪いと鼻の頭に汗が滲む、今滲んでいるという事は、母さんには何も言ってこなかったのか。
最近帰りが遅いし、帰ってきても母さんと喧嘩ばかりで、酒の量も増えていた。
大学生になった今の僕なら、容易に状況は理解できる。
「父さん、行っちゃ駄目だよ。」
「うるさいな正孝は、俺は疲れたんだよ。全部、ぜーんぶどうでもよくなったんだよ!」
「父さん!いい大人が何言ってるんだよ!」
「俺は大人でも何でもない!これから天国に行くいち人間なの‼」
聞いたことも無い子供のような口ぶりで、父さんは後ろのチンドン屋に戻っていった。
チンドン屋の妖怪コスプレイヤーは更に爆音で演奏を響かして、街を横断していく。
それを見ていた知らないお爺さんが僕に近づいてきた。
「君は、行かなかったんだね。」
「…お爺さん、アレ何だか分かります?」
「ああ、分かるよ。…アレは〝百鬼夜行〟さ。先頭で演奏だ踊りだってやってんのは、本物の鬼と妖怪だ。」
「本物なんですか⁉それに、百鬼夜行って妖怪が練り歩く伝承の?」
「そうさ、アレは辛い思いを抱えた人間を、天国に連れて行くと嘘をついてどっかに連れて行くのさ。」
「〝どっか〟って、何処ですか?」
「さぁな、一つだけ言えるのは〝天国〟なんてもんじゃねーだろうな。」
お爺さんにそう言われ、咄嗟に父さんを呼び止めようとしたが。
そのパレードに紛れて、その姿は影も形も無くなっていた。
「可哀そうだが、お前の親父さんもこの百鬼夜行に当てられるほど疲れていたんだ。見送ってやれ。」
列に目をやると、更に人数が増えていた。
スクランブル交差点は、チンドン屋の演奏と、通行を遮られた車のクラクションで五月蠅く賑わっていた。
「……こんなに、疲れた人たちが居るんですね。」
「…ああ、明日は我が身だがな。」
お爺さんと二人で、その列を見繰りながら。
父さんに、ごめんねと呟くしか、僕にはできなかった。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

お話に出した〝百鬼夜行〟って言葉に昔からワクワクして、初めて知ったのが「平成狸合戦ぽんぽこ」の〝妖怪大作戦〟だったのですが、この描写を自分も取り入れたお話を考えたらこうなりました。
実際「ここではない、素敵な場所へ連れて行くよ」と言われたら、自分はついて行ってしまいそうだなと考えたのですが、もしもその先が訳の分からない所だったら…そう考えると、怖くて面白いかなと思いこういうオチになりました。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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