見出し画像

短編小説:「夏の桜が散るまでに。」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝性別が入れ替わってしまった女性〟の話を書いてみました。
ちょっと爽やかな終わり方をしたと思います。
楽しんで頂けると幸いです。


【夏の桜が散るまでに。】

作:カナモノユウキ


「夏なのに、桜が咲いてる……今日の気温30度超えてるのに。」
いつもは緑の生茂る7月の桜並木、そこにちゃんと桜が咲いていて。
それをテレビ局がこぞって取材に来ている、そりゃ撮るよね……夏に桜なんて変だもん。
「まぁ変なのは桜だけじゃなくて、アタシもだけど……。」


――――――本当にコレ、どうしよう。
今のアタシの性別は〝女〟ではない、体つきは筋肉質になって。
そして股間に、24年間生きてきて無かったものが生えていた。
つまり、今のアタシは正真正銘の〝男〟ということだ……これは確実におかしい。
何故こうなったのか、理由は定かじゃないけど。
今話題となっている〝桜〟と同じタイミングで起きた変化だから。
何かしらの関係が有るに違いない。
まぁアタシに原因を究明することなんて出来そうも無いけど。
「ホントだ、麻美〝男〟になったんだ!」
そう驚くのは、小学校からの幼馴染の林田真梨香。
小顔で髪はセミロングの清楚系、下手に毒されてない感じがたまらない同い歳。
そして何より、彼氏が居ない!
これは女のアタシでも激アツと思う、正に優良物件。
……女だった時は「勿体ないなぁ~。」と他人事のように言っていたけど。
今は男になってしまったせいで、変に意識してしまう。
いや、これは今に始まったことじゃ無い。
アタシは意識しないように誤魔化していたけど、昔から真梨香のことが好きだった。
もちろん〝ライク〟ではなく、〝ラブ〟として。
この男の身体に変化してから、余計に意識してしまい困っている。
しかも今は、アタシの部屋に二人きり!
男子だったら、こういう時どうするんだろう……。
「ねぇねぇ、男の人に変わったらやっぱり色々違うの?」
「うん!下見るとき楽だし、心なしか動きやすいよ。あとね……立って用が足せる!」
「やっぱり試したんだ!いいなぁ~、何か面白そうで。」
「まだ男になって3日だから、不便さは感じてないけどね。」
「麻美から男になったって連絡もらったときは、何かのドッキリかと思ったけど。まさか本当だったなんてね。」
「アタシもビックリだよ、こんなことあるんだね。」
「でも男の声だから、麻美じゃないみたい。」
「あー、確かにそこ変だよね……じゃない、へんだよ〝な〟か。」
「いいんじゃない?中身は変わってないんだし、気にしなくても。」
「そう〝だな〟。」
この3日間、身体の変化に慣れることだけを考えていたから喋り方まで意識していなかった。
確かに声の変化は大きい、喉仏があるせいでこんなに声が低くなるなんて。
会社に休みの連絡をしたときなんて、声が違い過ぎてアタシって説明できなくて。
苦し紛れに「兄です。」って伝えたら、信じられるほどだったし。
この声で、〝真梨香〟て呼ぶだけで……何か変な気分になって来る。
アタシの中身は変わってないハズなのに、身体に意識まで支配されそうになる。
身を任せない様にしないと、気の迷いで大変なことをしてしまいそうだ。
「ねー麻美、せっかくだし私とデートしない?」
「え⁉デート⁉なんでまた‼」
「男の麻美、結構イケメンだし。私って……男の人とデートしたこと無いからさ、麻美だったらいいかなって。」
それはヤバい、本当にそれはヤバい!
もうプチパニックだ、さっきしっかりしないとって思ったばっかりなのに!
真梨香は無防備で無意識だから困る、そんな言葉言われたら舞い上がっちゃうじゃん!
「…いいよ、そしたら明日とかどう?土曜日だし。」
「いいね、丁度予定も何もないし!決まり!じゃあ水族館行こう!」
「すっごい嬉しそうだね。」
「うん!人生初デートだよ!そりゃ大興奮だよ!」
あー、アタシはこのまま死んでもいい。男の身体、ありがとう。
そう思わずには居られなかった。


――――――翌日の水族館デート。
アタシは張り切り過ぎて、待ち合わせ場所へ3時間前には到着してた。
「ヤバい……興奮しすぎて一睡もしてない、こんなの小学校の修学旅行以来だ。」
そこから一時間後に、なんと真梨香が現れた。
「おまたせー!麻美早いねー!」
「いやいや、真梨香こそ!まだ二時間前じゃん!」
「ヘヘヘ、楽しみ過ぎて早く来ちゃった。」
そういう真梨香の服装は、夏らしい水色のワンピースに白の薄いカーディガン。
こんなの、もう〝恋〟するしかないじゃない!
「今日の服装、似合う?」
「すっごく似合ってる‼もうめちゃくちゃ天使‼」
「ハハハ、いいリアクションありがとう。さて、じゃあ行こうか!」
そう言って片手を出してきた真梨香……え、手繋いでいいの⁉
「ほら、行こ?」と言う彼女の手を、自然と握っていた。
これは、現実なのか?身体が男になっただけで、こんなに違うものなのか?
混乱しながら、水族館デートが始まった。
水族館の入り口にある、ふれあいコーナーではしゃぐ真梨香。
小魚コーナーや大きな水槽の前で、一緒に写真を撮ろうと笑う真梨香。
途中の休憩コーナーで、ソフトクリームをねだって来る真梨香。
一分一秒が幸せ過ぎる……神様、このチャンスをくれてありがとうございます。
時間はあっという間に過ぎて朝9時にはじまったデートは、もう夕方の6時になろうとしてた。
「いやー、イルカショー凄かったね!」
「真梨香、ちょっと水かぶったろ。大丈夫だった?」
「え?そうだっけ?楽しすぎて全然気にして無かったよ!」
「小さいときからずーっと一緒だったけど、そんな真梨香初めてだったよ。」
「ヘヘヘ、これも麻美が男になったお陰だね~。」
「なぁ……初デート、〝俺〟で良かったの?」
「なんで?当たり前じゃん!ずっと考えてたんだー、麻美が男だったら、絶対デートしてもらおうって。」
〝当たり前〟って、そんなこと言われたら……思わず告白してしまいそうになる。
この気持ちだけは、今は絶対に言えないのに。
「ねぇ!明日もどっか行こうよ!」
「え⁉明日も⁉」
「日曜日だけど、丁度私ヒマだからさぁ。ね!いいでしょ?」
無邪気に笑う真梨香に逆らうことが出来ず、「いいよ。」って言うしかない。
それからは、まるで高校生の夏休みのように、二人でデートしまくった。
日曜日にはショッピングからのカラオケ、月曜日は夕方から映画を観て。
火曜と水曜は居酒屋デート、木曜は家デート。
華金には、何と真梨香の仕事終わりに遠出して温泉!
温泉は少し戸惑ったけど……浴衣姿の彼女がとても眩しくて、それだけで行ったかいがあった。
何やかんやで、初デートからあっと言う間に一週間が立っていた。
こんなのが毎日続いたから、もう〝勘違い〟では済まない所まで、アタシの気持ちは膨らんでいた。


――――――温泉旅行が終わった次の日、それは唐突に知らされた。
『なるほどなるほど、この桜が散ったときに〝身体が元に戻った〟んですね?』
テレビのワイドショーで、この妙な桜と…そこに関係しているらしい〝男女入れ替わり現象〟の取材が報道された。
『この近所の桜が枯れたら、身体が男に戻ったんですよね。』
そう話すのは有名なニュースキャスターだ、ありありと自分の実体験を話している……。
似ているどころじゃない、この人はアタシと同じ体験をしている。
そしてこの人が言っていることが本当なら……。
恐くなってアタシは駆け出していた、どの桜が散ったらアタシは元に戻るのか……そんなことも分からにのに。
住んでいるアパート近くの公園で、引っ越してからいつも眺めていた桜の木。
そこに到着して、散り始めた桜を見つけ、不思議と実感した……多分これがアタシの桜だ。
「あぁ……もう時間なさそう。」
桜はハラハラと落ち始めて、アタシが男で居られる時間も残りわずかだと分かる……どうしよう。
そう思って、直ぐに真梨香に電話を掛けた。
「もしもし、真梨香?」
―「あ、麻美?どうしたの?」―
「あの、ちょっと話したいことあって……。」
―「直接会って話した方がいい感じ?」―
「うん。」と返事すると、真梨香は直ぐにアタシの待つ公園に来てくれた。
「急に呼び出してごめんね。」
「いや全然!どうしたの?何か顔色悪いよ?え?男でも生理来るの?」
「いやいや違うよ!そういうのじゃなくて……。」
アタシはさっきテレビで見たことを話して、その桜が今アタシたちの前にある桜だってことも話した。
「え⁉じゃあ桜が散ったら元に戻るの⁉」
「そうみたい、結構ネットニュースにも同じ記事読んだから……多分本当。それに不思議と実感あるんだ、今ここにある桜が……俺の桜だって。」
「そっか……。」
真梨香は予想以上に落ち込み始めた……、真梨香は〝男〟のアタシの方がいいんだろうか。
……何だか、考えがまとまらない。こういう時、男だったらどうするんだろう。
というか、アタシはどうしたいんだろう。
「え?ちょっと、麻美⁉」
「ごめん、ちょっと……このままで居させて。」
彼女を抱きしめたとき、色々と湧き出た不安とか、色んな思いが吹っ飛んだ。
そうだ、もう時間がないなら……。
いっそのこと、伝えてしまおう。
「真梨香、聞いて。」
「……何?麻美。」
「俺、真梨香が好きだよ。」
「……それは、どういう意味で?」
「〝ライク〟じゃなくて、〝ラブ〟で。」
「……ありがとう。」
そう言って、その日は一言も話すことは無く別れた。
これは……やってしまったかなぁ。
そこから二日ほど、真梨香と連絡が取れなかった。


――――――桜は、もうあと数時間で散るところまで来ていた。
「もう、会えないのかなぁ……。」
こんなことなら、伝えるんじゃなかった。
あれから4日間、もう後悔してもし足りない程だ。
何だか自分の寿命みたいに見えて、あれから毎日この桜を見に来てる。
〝男〟である自分の終わりが、もう直ぐそこまで来ている。
……最後に、もう一度この姿で真梨香に会いたかったな。
「何か凄い凹んでるね。」
「……真梨香。」ベンチで項垂れているアタシの前に、彼女が立っていた。
「ごめんね、色々気持ちの整理するのに時間掛かった。」
「……いいよ、こっちこそゴメン。急にあんなこと。ビックリしたよね。」
「ホントだよ!急に〝男性〟に告白されたら、誰でもビックリするよ!」
「まぁ、俺……じゃもう無くなるね。…アタシ、一応〝女〟だけどね。」
「んー、まぁ実際は女とか男とかじゃなくて。〝男〟の姿した麻美だから尚のことパニックになっちゃって。」
「どういうこと?」
「麻美が〝男〟の身体になったからそういう風になったのか、元々〝女〟の頃から好きだったのか…そんな感じ。」
「……元々好きだった。本当は伝えたら駄目だと思ってた、この関係が壊れちゃうんじゃないかって。でも、この体になって真梨香とデートして、一緒に楽しいこといっぱいして。…アタシ一人のものにしたくなって。そう考えたら、もう体が勝手に動いてて。思わず、気持ち伝えてた。……いや、男の子ってやっぱ色々正直だね。気持ちが先走ると、……止まらなかった。本当に、ゴメン。」
「良いよそんなこと、私もさ。本当はあの時〝うん〟て言おうと思ったんだけど、二人の関係が壊れるの恐くて。そこからいっぱい、いーっぱい考えたんだけどね。……多分付き合っても、変わらないよね私たち。」
「……変わらない、かもね。」
「だからね、付き合おうと思うの。〝男〟とか〝女〟とかじゃないよね、ちゃんと気持ちがあるか無いかだもんね。麻美がその体にならないと、私もそういう風にならなかったし。これは、きっと神様がくれたチャンスなんだよね。」
「……じゃあ、アタシと付き合ってくれるの?」
「今言ったでしょ……、これから宜しくね。麻美。」
「こちらこそ、宜しく…真梨香。」
静かに彼女の頬に手を当て、口づけをしたとき。
サクラは散って、アタシは〝女〟の松風麻美に戻っていた。


――――――「ねぇねぇ麻美!今日何処行く?」
「んー、あの表参道のパンケーキ食べに行ってみる?」
「いいね!行ってみよう!」
アタシと真梨香は、恋人同士となり、同棲を始めた。
関係は確かに変わらなかった、だけどほんの少しの変化も起きた。
アタシと彼女は、今はとても〝素直な関係〟だ。
まぁ、真梨香はいつも素直だから。アタシが素直になっただけだけど。
「真梨香、大好きだよ。」
「ヘヘヘ、私も!」
そう、こういう風に素直になりたかっただけなのだ。
……正直、また〝男〟の身体になりたいときもあるけど。
〝心〟も〝身体〟も、〝性別〟も。
素直になれば関係ないと、不思議な桜に教わった。
そんな、ひと夏だった。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

男性同士のシチュボ台本などを書いたことがあるのですが、
〝女性同士〟って書いたことないと思い書いてみました。
ここまで書き続けていると、何だか同じようなオチで書いたような気がしなくも無いので、もし被っていたら変えるかもしれません。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
 そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
 ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。

  1. ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
    ※事前報告、お願いいたします。

  2. 配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。

  3. 自作での発信とするのはおやめ下さい。

尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?