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声劇:「ドッペルゲンガー【後編】」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は友人であり相方であるしおんさんへの当て書きした〝声劇〟の台本です。…一年前に出して、ようやく「後編」です。

楽しんで頂けると幸いです。

※前編はこちら。


【ドッペルゲンガー【後編】】

作:カナモノユウキ


《登場人物》

瀬木円(二十歳)
探偵役、しがない物書きを生業としている、頭が良すぎる反面、コミュニケーション能力がない。行動力もないので、出かけると言えば作業場にしているカフェだけ。父親は新聞記者。紫苑に煽てられていることを理解しているが、共存関係だと思い受け入れている。カフェと自宅の二重生活だけであれば〝世界と関わらなくていい〟と考えているが実際は違う。〝関わりたいけど怖いからあえて関わらない〟だけであり、その関わる手助けをしているのが紫苑。口では言わないが紫苑が事件を持って来る度に、世間と関われている気がして感謝している。

鳳月紫苑(一九歳)
助手役、帝国大学の学生、頭は良いが詰めが甘い。シャーロックホームズに憧れるが、推理力が全くない為に瀬木を使いその気分に浸るのが趣味。上流階級のような口調だが、たまに荒っぽい言葉遣いもする。瀬木とは小学校からの付き合い、昔から瀬木を煽てては事件を解決させている。父親は大警視で、紫苑も行く行くは大警視にするつもりでいるらしいが、本人は嫌がっている。


紫苑
「ふぅ……。」(原稿用紙をテーブルに置く)
瀬木円
「理解できたか?」
紫苑
「そろそろ口で説明してくれないか?推理を披露される度に、小説を読む僕の身にもなってくれよ瀬木くん。」
瀬木円
「俺は言葉足らずでな、こっちの方が何かと都合がいいんだよ。」
紫苑
「それは何となく分かるけどね……まぁいいか、それにしてもこれは本当なのかい?」
瀬木円
「俺の推理が間違っていなければ、これが事件の全貌だ。」
紫苑
「これは、中々に滅入ってしまうねぇ…。」
瀬木円
「まぁ、こんな話…没にしかならないがな。」
紫苑
「どうしてだい?」
瀬木円
「推理する材料が少ない、登場人物も足らない。いいか?推理小説は推理あっての物語りだ。推理をさせない推理小説なんて、ただの空想小説なんだよ紫苑。」
紫苑
「ん?…まぁ確かにな。それに、この話が世に出るのも考え物だな。」
瀬木円
「そうだろうとも。と言う訳で話は終わりだ。出て行ってくれたまえ紫苑。」
紫苑
「まてまて、君の口からこの小説の説明をされるまでは帰れないね。」
瀬木円
「読んだだけで良いだろうが!」
紫苑
「いーや、そんなことじゃ僕の気が収まらないのはいつものことだろう!」
瀬木円
「はぁ…こうなるとテコでも帰らないのが紫苑だからな。」
紫苑
「さぁ、分かったんなら話してくれよ。この小説の真相を。」
瀬木円
「…じゃあ先ず、斎賀幸三殺しからだ。」
紫苑
「それそれ、この小説には何とも面白くない事が書かれていたぞ。」
瀬木円
「あぁ、その通り。事実は小説よりもつまらない。…斎賀幸三を殺したのは、妻の斎賀夫人だ。」
紫苑
「何でまたそんな話になるんだい?目撃者が居るって言うのに。」
瀬木円
「目撃者と言っても、斎賀夫人とメイド長だけだろ?逆におかしいだろ。パーティーの最中で目撃者がそれっぽっちって、逃走すれば必ずもう一人や二人は現れる。」
紫苑
「つまり、目撃者の二人が怪しいと。」
瀬木円
「そう。」
紫苑
「だからって、なんでメイド長じゃなく斎賀夫人なんだよ。」
瀬木円
「お前に調べてもらった事件当時の事情聴取、その中にはメイド長の予定が事細かく書かれている。」
紫苑
「そりゃあ、メイドの長だからな。パーティーなんてあった日にゃ大忙しだ。」
瀬木円
「その通り。」
紫苑
「だからと言って犯人から外すのか?」
瀬木円
「そのメイド長の予定を知って、尚且つ自由に動けるのは?」
紫苑
「…斎賀夫人だと。」
瀬木円
「わざわざメイド長に見つかる様に、斎賀大和が動いた様に見せたって訳だ。」
紫苑
「そこが納得いかんのだ!何で見つかる様に動いて、斎賀大和…〝だいだい〟に罪を擦り付けようとしたのか。」
瀬木円
「それもきっと、斎賀夫人の計画だったからだ。」
紫苑
「どういうことだ?」
瀬木円
「当初は斎賀幸三を婦人一人で殺す計画が変更になったんだろう。」
紫苑
「どうしてだ。」
瀬木円
「先ずはだいだいの母親の死、アレはだいだいによる殺害だ。」
紫苑
「それも納得いかないんだよ、だってあれは自殺だと解決してるはずだろ。」
瀬木円
「デカい豪邸の表門だぞ?縄を掛けて準備するだけで、周囲の人間に見られて止められる可能性がある。」
紫苑
「そうだとしても、現に行われたんだから…。」
瀬木円
「単純な話だ。前もって縄で首を絞めて殺し、死体を表門にぶら下げた。屋敷の関係者なら、表門の状況を把握するぐらいなら簡単だろうからな。」
紫苑
「…小説にも書いていたが、だいだいが恨んでいたのは父親ではなく、母親だったと…。」
瀬木円
「だいだいの母親を殺したのは、だいだい本人。そして斎賀幸三を殺したのは、斎賀夫人だ。」
紫苑
「二人は、何故そんなことを?」
瀬木円
「まず最初にミスを犯したのはだいだいだ。母親の殺害現場を斎賀夫人に見られ、それを逆手に取って夫人が脅した。〝斎賀幸三殺しに協力しろ〟とな。それに逆らえず、だいだいは共犯者になった。」
紫苑
「なるほど、そこで計画にだいだいも加わることになったと。そうなると、犯行動機は一体何なんだろうねぇ~。」
瀬木円
「それは、小説にちゃんと書いているだろ。…妾の子などを入れた夫に、嫌気がさしたという事だ。」
紫苑
「おいおいおい、そんな単純な話で人が殺されて居たら、今頃人類の半数以上が殺されているぞ?それに君はさっき言っていたよな、〝登場人物が足らない〟と。それはこの小説じゃなく事実の物語りの事だろ?」
瀬木円
「…はぁ。そうだな、確かに言った。…そう、この物語には足りないんだよ。納得いくドッペルゲンガーの存在が。」
紫苑
「そろそろ聞かせてくれよ、この綺麗に小説様にあつらえた話じゃない、確信の物語りってやつをさ。」
瀬木円
「…なら、先ず斎賀幸三が引き取ったのはだいだいだけじゃない。」
紫苑
「は?おいおい、またすっとんきょうなことを…。」
瀬木円
「まぁ話は最後まで聞け。だいだいは、双子だ。これは君に調べてもらった病院の出生記録で分かったことだ。」
紫苑
「あぁ。確かに、記載には〝一人のみ、片方は死産〟と記載があったが…実際は生きて居たと?」
瀬木円
「そうだ。」
紫苑
「そうだって、君ねぇ…。」
瀬木円
「だから言ったろ?〝推理する材料が少ない、登場人物も足らない〟と。」
紫苑
「…でもまぁ、瀬木君が言うなら真実何だろうな。それに、まだ続きがあるんだろ?」
瀬木円
「ちゃちゃを入れたのはお前だろ…。」
紫苑
「ごめんごめん。んで?だいだいが双子ってとこだよね。」
瀬木円
「…このご時世でも、まだ双子に対して〝忌み子〟の風習はぬぐい切れない。それが斎賀重工の血を引いているなんて話になれば、ことは大きくなると思ったんだろう。だから、もう一人を死んだことにして母親は密かにだいだいともう一人を育てた。…母親の思惑は想像つくがな。」
紫苑
「斎賀幸三を脅す材料と、いい歳に成ったら売るため…そんなところか?」
瀬木円
「だろうな。どちらにせよ、材料であったこと、稼ぐための道具だったことには変わらない。」
紫苑
「…小説には、だいだいの母親が佐賀幸三を脅して金を強請り取ろうとしたことに耐えかねてと書いていたが?」
瀬木円
「実際その線で間違いはないが…もう一つ、〝もう一人の子供を返せ〟とも脅してきたんだろう。」
紫苑
「なるほど、その材料ってことか…。そんな母親からだいだい達を救い出したのが斎賀幸三だった。そしてだいだいはそんな父親を守りたかった…と言う訳か。」
瀬木円
「それは、少し違うだろうな。」
紫苑
「どういうことだよ。」
瀬木円
「母親を殺したのは、恐らく双子の片割れだ。」
紫苑
「何でそう言い切れる?」
瀬木円
「だいだいは、虫も殺せない程の善人だ。そして、それは変わっていは居ない。」
紫苑
「…何か根拠でもあるのかい?」
瀬木円
「今回のそもそもの話だ。〝ドッペルゲンガー〟…これは斎賀夫人の計画には含まれていない出来事だ。そして、そのアリバイを作った張本人こそ…だいだい…大河大和だ。」
紫苑
「小説には、斎賀夫人がだいだいに扮してわざとメイド長に見つかる様に動いたと書いていたが…。」
瀬木円
「実際は双子がメイド長の目を引き、そのアリバイを作る予定だったのだろう。」
紫苑
「つまり…片割れと結託して斎賀幸三を殺したのは斎賀夫人で。その計画から片割れを守るため、だいだいがパーティー会場に登場、自らアリバイ作りを行ったと…そう言う事か?」
瀬木円
「そう、それこそが斎賀幸三殺しの全貌だ。」
紫苑
「なぁ、じゃあこの事件の全貌はどうなっているんだい。」
瀬木円
「…ここからは、俺の憶測だ。話半分で聞いてろよ。」
紫苑
「あぁ、もちろんだとも。」
瀬木円
「だいだいと片割れは母親から迫害されて生きて来た、行く行くは金になる材料としてな。そんな中で陰ながら双子を支えていた斎賀幸三は、二人が十六歳になるまで待ってから双子を迎え入れた。母親から半ば強制的に奪う形でな。そうすることで、母親を戒めたかったんだろう。」
紫苑
「それでも、母親は屈することなく恐喝する手段に出て…片割れはそれに耐えかねて殺した…ってことか?」
瀬木円
「恐らくな。そして、その全体の話を良しと受け入れていなかった斎賀夫人が居た。斎賀夫人は双子を迎え入れた段階から、斎賀幸三に敵意があっただろう。子供が出来ない当てつけ。更には妾の子を迎え入れて、それを後継人するなんて…貴婦人のプライドが許さなかった。」
紫苑
「…それが、片割れの母親殺しが切っ掛けになり加速したのか。」
瀬木円
「あぁ。自分のプライドを傷つけた夫と、その忌み子達を根絶やしにするためにな…。双子はある程度の自由は有れど、片割れは軟禁状態だったんだろう。周囲から目を付けられない様に。交代に日ごと自由に動けるようにして、屋敷内でも〝斎賀大和〟の名前一つしかないのはその為だ。だが、パーティーの日だけは違った…斎賀夫人と片割れが斎賀幸三殺しを遂行することをだいだいは知った。それを止めたかったが、もう間に合わないと悟ったんだろう…。せめてもの抵抗で、だいだいはパーティー会場へ行った。少しでも、事件をかく乱させるために。」
紫苑
「確かに、〝推理する材料が少ない、登場人物も足らない〟だね。」
瀬木円
「それも屋敷内を探せば、きっと片割れかだいだいが見つかるはずだ。凶器も一緒にな。それで、この事件は真の解決に向かうだろうよ。」
紫苑
「だいだいの計画は見事成功したが…昔馴染みの瀬木円君だけは、欺けなかったと。」
瀬木円
「お前がこの話を持ってこなければ、こんな推理しなくて済んだんだ。」
紫苑
「まぁ…それはそうだね。」
瀬木円
「さぁ、もうこの話は終わりだ。とっとと帰れ。今直ぐ帰れ。即刻帰れ。」
紫苑
「何だい、随分と冷たいじゃないか。」
瀬木円
「いつもの事だろ。」
紫苑
「それはそうかもしれないが。…まぁ、君の気持ちも分からなくはないがね。」
瀬木円
「どういうことだ、お前ごときに俺を推理できるというのか?」
紫苑
「あぁ出来るとも、事件の推理はからっきしだが、君を推理することは僕にしか出来ないからね。」
瀬木円
「ほぉ、なら聞かせてみろ。お前の推理とやらを。」
紫苑
「こんなもの推理でも何でもないさ…悲しいんだろ?だいだいのこと。」
瀬木円
「……。」
紫苑
「確かに、僕も悲しい。昔馴染みのだいだいを、僕たちは何も知らなかった…。君の推理は恐らくほぼ当たっている、だからこそ…だいだいは兄弟すら失うことになる。…それが悲しいんだろ?」
瀬木円
「…ふん。」
紫苑
「君もだいだいに負けず劣らず優しい、だからこそこの喫茶店という狭い世界だけで完結しようとしている。」
瀬木円
「…いけしゃあしゃあと、得意げに言ってくれるじゃないか紫苑。」
紫苑
「フフフ、僕は君の親友であり助手!僕がワトソン!君がホームズだからね!」
瀬木円
「お前は本当にそれが好きだね。」
紫苑
「僕たち二人が居れば、解けない謎は無い。そう言ったのは君だろ?瀬木君。」
瀬木円
「そ…そう、だったかなぁ…。」
紫苑
「あぁ!だからこそ!君が早くこの喫茶店という繭から羽化してだね、一緒に世中の謎を解きに行くことを僕は心待ちにしているんだよ。…だから、そろそろ外に出ないかい?」
瀬木円
「またその話か……まぁ…そうだな…考えておく…かもな。」
紫苑
「え!?今なんて言ったのかな瀬木円君!」
瀬木円
「な、何でもない!さぁ終わりだ!黙って出ていけ!」
紫苑
「あ!マスター!アイスコーヒーおかわり!」
瀬木円
「おかわりするな!」
紫苑
「嫌だね!僕はまだここに残り君と話したいのだからね!」
瀬木円
「放すことは終わった!いいから出ていけぇー!」
紫苑
「出るなら一緒に出よう!瀬木円君!」
瀬木円
「出ていけ紫苑!」

紫苑

これは後日談だ。
瀬木君の推理で斎賀邸の家宅捜査が行われ、推理通り軟禁状態の双子の片割れが発見された。だがそれは生きた状態ではなく、だいだいに瓜二つの自殺死体となって発見された。そして、全ての幕引きを見つかった死体に擦り付ける形で、事件は解決した。〝ドッペルゲンガーに会ったものは、命を奪われる〟その伝承通り、机上の空論に現れただいだいは一人になった。今残っている〝だいだい〟は、はたしてどちらの〝だいだい〟なのか…それを知るすべは、もう無いのかも知れない。瀬木円君の推理以外には…。だからこそ、彼は外の世界に出るべきだ。少しでも早く事件を解決し、悲しい結末を防ぐためにも。世界には彼の力が必要なんだから…。その思いを胸に秘め、今日もまた彼に会いに行く僕なのである。

紫苑
「やぁ瀬木君、事件を持ってきたよ。」
瀬木円
「またかい紫苑…仕方ない、執筆のネタになるなら聞いてやろう。さぁ今日は、どんな事件なんだい?」


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

…めっちゃくちゃ書くの遅れた。
言い訳じゃないのですが、じっくり書きたかったのと。
やっぱり解決編と言う事もあり、丁寧に考えたかった。

そしてそれをするための時間が無かった…。

しかし、今の僕には時間がある。

ということで完結しました。

何かレトロな探偵ものの空気間だけでも出てたら嬉しいな。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

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