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クリエイティビティと美しさのアップデート Vol.1/3

2020年のコロナ禍を境に、それ以前になんとなく感じていた時代の変化が、まるで念押しのように背中を押してきた昨年末。特にクリエイティブ制作の現場視点で、この変化を強く感じ、ザワザワしちゃって落ち着かないので、全3回に渡って、このnoteにぶつけてみようと思う。笑

・価値観のアジャイル化

一言で表現するなら、「価値観のアジャイル化」ということになるのだが、まずは自分が毎日身を置く制作現場の変遷から話を始めていこうと思う。
とにかく受託制作のスピードが早まる一方で、その理由を辿っていくと、結局、企業の事業戦略スピードが加速していることに行き着く。

・アジャイルって?(知ってる人は飛ばし読みOK)
アジャイルという言葉はもう10年以上使われていると思うが、システムやアプリ開発の制作フローを表している言葉で、長い時間をかけて計画して作り込んで完成させるのではなく、スピーディにリリースして、テストを並行しながら短いサイクルで検証結果を次の企画につないでいくようなスタイル。比較対象として、ウォーターフォールという、順を追ってステップを上位から下位工程へつないでいく考え方がある。

弊社は社風的にどちらかというとアジャイルというより、作り込んでパーフェクトを目指すような価値観があり、それ故に、緻密なサイトデザインやUI開発を強みとして実績を積み重ねることができた。当然、社内のワークフローも、転職組がちょっと驚くくらい、デザインチェックの回数が多いかもしれない。

だが私自身、その価値観にここ数年、疑問を持ち始めている。

その疑問発生のきっかけは、2010年あたりからのデバイスの多様化、つまりレスポンシブデザインの出現である。
PC画面での見栄えだけ意識していればOKだった時代は終わり、スマホやタブレットなど、複数の画面サイズにフレキシブルで、ブラウザを伸び縮みさせても美しい見た目を担保させる必要が生じ、そのためには美しいデザインの価値観を変える必要があった。

・ピクセルパーフェクトからの脱却

そこでもう一つ心の中で唱える言葉が、
「ピクセルパーフェクトからの脱却」、である。

ちょっと業界用語みたいになってわかりにくいかもしれない。

・ピクセルパーフェクトって?(知ってる人は飛ばし読みOK)
ピクセルパーフェクトとは、固定された状態の画面内で、1ピクセルレベルの精度でデザインレイアウトを決め込んだ状態を正とする、というような意味合いで、紙のグラフィックデザインをしてきた人に備わっている絶対的な感覚かもしれない。
だが、レスポンシブデザインの世界では、画面サイズがどんな状況でも固定、ということはあり得ない。スマホの機種、PCの設定、タブレットで見る場合など、あらゆるサイズの画面で閲覧しても美しいデザインを担保せねばならず、デザインでこだわるポイントが自ずと変わってくるのだ。
そうなると、今まで神経をすり減らすほど拘ってきた事が、完全に無意味化する。黎明期から続く最も代表的な例が、文章の改行だ。この記事のページもそうだが、濁点や単語の終わりで気持ち良く改行されているわけではないし、スマホで見た時とPCで見た時と、1行の文字数はもちろん異なる。それはコントロールできないもので、15年前くらいによくクライアントに対して汗をかきながら説明した、Web業界あるあるだ。

このように、グラフィックデザインの真骨頂と言えるような、マージンという余白や、微妙なセンタリングや左寄せなど、様々な計画がグラフィックデザインと同じ要領では立てられず、ほぼ無意味化するのがデジタルデバイス上のデザインだ。神は細部に宿る、と言われていた職人技の見せ所に、もはや神は不在である、、。

・新たな価値観にアップデートすべき

だがそれでも、美しいUIを日々追求してきたのが、弊社のようなデジタルデバイス上の表現を得意とするデザイン会社だと思う。この20年以上の歩みで、まさに模索しながら進化を遂げてきたが、冒頭で書いた通り、特にコロナ禍に直面した昨年末からザワザワが止まらない。クライアントである企業側の事業計画は加速し、テクノロジーの進化、社会環境の変化も激しい。さらに、ワークスタイルや労働観の変化も伴い、私自身の価値観も確実に変わってきた。
限られた時間で制作チームへのストレス負荷に注意しながら、最高のデザインパフォーマンスを発揮するには、どうすれば良いのか。もちろん、目の前のプロジェクトだけを成功させれば良いわけではない。この先数十年に渡って、クリエイティブファームとしての実績と評価を蓄積していくために、サステナビリティも踏まえる必要があるからだ。

ダラダラ書いてしまったが、要するに、
「もうそんな長時間かけてスタッフ巻き込んで自己満足みたいなデザインディレクションしてたって、意味ないんだよ!!!」という、然るべき気付きである。

言うまでもないが、クオリティを落とすわけにはいかない。それを落とすと、制作費用の価格競争に飲み込まれてしまうし、それ以上に、私たちデジタル世代がデザインクオリティを諦めたら、この先数十年、いや下手したら100年後の世界が醜悪なものになるかもしれない。大袈裟でもなく、私たちの作るインターフェースは次代に繋がる社会を作っているのだ。

美しさを諦めるわけではなくて、
美しさの価値観をアップデートすべきなのだ。

さらに、ものづくり、デザイン制作の価値観のアップデートである。

ーーークリエイティビティと美しさのアップデート Vol.2/3につづく。

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