「元記者」の実力
池内恵・東大教授(国際政治学)が昨日、「元記者」のテレビコメンテーターに怒っていた。
そのコメンテーターは、「日本は選挙の供託金が高い」という例のテロリストのご意見を、肯定するようなことをたぶん言ったのだろう。
池内氏によれば、それは無知から来る誤解だという。
日本以外では立候補しても「政見放送」を全国放送で好き勝手言わせたりしてくれないし行政が各戸にチラシ入れたり選挙ポスター貼る場所用意してくれたりので、立候補しても金がなければ誰もに終わる。何億円も用意してテレビCM打たないと選挙を自己宣伝の場にできない。
行政が各戸に政見配布してくれてテレビCMまで打ってくれるのだから供託金が安すぎるんですよ。全部自前でやるのが海外。お上に選挙活動を世話してもらうお子様民主主義。
「海外は供託金はない」という人は「政見放送廃止」を同時に言わないとダメでしょう。ちょっとは考えてからコメントしろよテレビコメンテーター。たいてい元記者なんだよなこういうの。専門性は日本のテレビ業界をうまく泳ぐことだけ。
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私は選挙の供託金について論じるほどの知識はないけれど、「元記者」の能力について、思い出したことがあった。
もう20年以上前のことだ。
私は編集者をしていて、アメリカのホワイトハウスについて、事実を確認する必要が生じた。
資料がなくて困っていたところ、ワシントン特派員をしていたという、ある新聞社の論説委員を紹介してくれる人がいた。彼なら知っているだろう、と。
それで、その論説委員のところに行って、ホワイトハウスの内部について聞いた。
「ウエストウイング(西棟)の中の位置関係を聞きたいのですが・・」
と私が言うと、
「ウエストウイング、って何?」
とその論説委員に聞き返されたので、私は驚いた。
大統領執務室があるウエストウイングを知らないのである。まさか、と思うだろうが、これは実話だ。
他にもいろいろ聞いたが、結局この元ワシントン特派員は、ホワイトハウスに行ったことがないか、行ったが全て忘れたか、どちらかであることがわかった。
その後、私はこの論説委員に会うことはなかったが、噂では、さすがに論説の質がひどすぎて、左遷されたらしい。
しかし、新聞社をやめた後は、有名大学の教授になり、アメリカ政治を講じていたというのだから、あきれるほかなかった。
もちろん、優秀な新聞記者もいるだろうし、大学の経営が厳しい折、昔のように「元記者」に甘くはないだろう。
だが、全世界で読まれる可能性がある英語圏の記者とは違い、日本の新聞記者はしょせんガラパゴスで、外国のことを知らなくてもバレないから、勉強していなくても通用するのである。
池内氏の言うとおり、「元記者」の専門性とはその程度で、業界を「泳ぐ」能力さえあればよかった。
私も新聞社に少しいたから、がっかりすることが多かった。新聞記者はインテリで、暇なときはデスクで洋書や外国の新聞を読んでいる、みたいな話を聞いていたからだ。私は、そんな「インテリ」は1人も見なかった。どこぞの過激党派の機関紙を熱心に読んでいるのはいたが・・
しかし、質が落ちているのは、記者だけではないかもしれない。
吉田茂は、首相になっても、葉巻を吸いながら外国紙や洋書をよく読んでいたらしいが、その孫の麻生太郎がそんな姿を見せるとは思えない。
供託金のことはともかく、世襲でいろいろと劣化しているのは、テロリスト様に教わるまでもない。芸能界に2代目、3代目が多いのは知られているが、実はマスコミのいわゆる報道部門でも2代目、3代目は多い。
政治家の質も、記者の質も、同じように落ちて、ちょうどよく釣り合っているのだろう。
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