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にわとこの実のジャムとムーランとトマトピューレとイタリアのマンマ

ご存知の方も多いと思いますが、ヨーロッパのイギリスを除く大陸側では「甘い朝食」というのが主流で、それをコンチネンタル・ブレックファーストと呼びます。

「朝から甘いもの?」と、イタリアに住み始めてすぐの頃は少し抵抗があったけれど、慣れると朝から塩っぱい食事というのに大きな違和感さえ覚えます。
食というのは習慣に大きく左右されるものですね。


にわとこの実のジャムのコンチネンタル・ブレックファースト

甘いもの中心のコンチネンタル・ブレックファーストでかかせないのはジャム。

個人的な好みでは数あるジャムの中で、「にわとこの実」のジャムは最も好きなものの一つです。でも市販品は極めて希少なので、自分で作るのが一番手っ取り早い方法です。
材料は野原で見つけてきます。
決して難しくはないのですが、ちょっと手間のかかるジャムです。

*****

5月ににわとこの花の食べ方について書きましたが:
https://note.com/kajorica/n/n417a1450c0e1

初めてにわとこの花のジャムを作った時に、嬉しくて「にわとこの花のジャムを作ったの。」とパオラに話したら、「花で?実じゃなくて?」と言われた。

なるほど。普通ジャムは果実で作る。
聴いた事なかったけどそういうものもあるのか。。。
。。。と、早速調べると、もちろんあった。にわとこの実のジャム。

こちらも花同様、実は売っていないので「購入する」のではなく、「野原に取りに行く」
それがまず、なんでもお金と交換という消費主義社会の軌道から外れるみたいで嬉しい。

にわとこの花は長い間咲き続けます。
と言っても一つ一つの花が長持ちするわけではなく、同じ木でも沢山の花が時間差で咲くから。
当然、実も時間差で熟して行く。

ミラノは日本でいうと東北か信州くらいの陽気だろうか?
この陽気で実が熟すのは7月。

不思議な実で、生で食べるとあまり味がしないのに、お砂糖で煮込んだだけで濃厚な味のジャムになる。

こんなに美味しいジャムが商品としてほんの少ししか出回っていないのは、多分実は小さいのに種が大きくて、それを除くのが手間だからだと思う。

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さて、にわとこの実狩り出動。

昨年、もう少しなのに熟れた実に手が届かない、という悔しい思いを何度もしたので今年は花切りバサミの取手にパイプをつけて65cm延長。これなら沢山とれるはず。

差し込むだけでOKの延長取手としてアルミの角パイプを付けました。

最初に行ったのは、5月に花を摘んだ空港近く。
実ばかり見上げながら薮の中に入るとやけにチクチクする。
よく見ると下の方は一面イラクサが生えている。意地悪。
今度イラクサの料理をする時にここに採りにこよう。食べてやる!

イタリア人のレシピを見ると皆パッサヴェルドゥーラと呼ばれる道具で種を除去しています。

パッサヴェルドゥーラと呼ばれる道具は電動のフードプロセッサーが普及していなかった頃に野菜を濾す道具でした。
日本ではフランス語から「ムーラン」と呼ばれているようですが、日本で持っている人はまずいないでしょうから、日本で作るときは荒目の裏漉しを使ってください。

全て「砕いて」しまうフードプロセッサーはこの場合は不向きです。

パッサヴェルドゥーラ=ムーラン(英語でミルの意味)

昨年何度か作った時に、試しに種を漉さずに一瓶作りましたが、やっぱり種がゴロゴロし過ぎてかなり気になるので、やはり種はなんらかの方法で大半を取るようにした方が良いと思います。少しくらい残っても問題はありません。

わたしはこのムーランを30年近く前のある年にトマトピューレを作るために購入しました。
ムーランとトマトピューレとイタリアのマンマの話はレシピの後に。


今年初めてのにわとこの実狩りの収穫。重いなあ、と思ったら3kg近くありました。
でも流石に多すぎるのでレシピの分量は1kg収穫した仮定で書きますね。


<材料>
・にわとこの実  約1kg=枝をとって正味約660g
 更に種を取って 約500gになるはずです。

・砂糖 約170g (好みで加減)
*普通のジャムより多め?と思う方もいらっしゃると思います。
実自体にあまり甘味がないため、砂糖を多めにします。

・レモン果汁 1個分

<作り方>

1・にわとこの実は細い小枝から離し、実だけにします。
これは結構根気のいる作業です。
重要! 熟れていないにわとこの実は若干の毒性があるそうなので、野原で採ってきた中に熟れていない実が混ざっていたら必ず捨てる事。多少混ざってもそれで具合が悪くなることはありません。
今回は2.8kg採ってきて、枝や売れていない部分を除き、約2/3の量になりました。

こんな色の熟れていない実は小枝と共に除きます

2・1をよく洗います。野原から摘んでくるので虫などが混ざっていることもありますので、入念に洗いましょう。

3・2を鍋に入れに水を入れずに、弱火で煮始め、水分が出てきたら中火にし合計で10分程度蓋をして加熱します。
*この工程はムーランにかける前に実を柔らかくすることが目的です。

4・2の火を止め、少し冷めてきたらムーランにかけます。
*普通ムーランは濾す大きさを加減できるように3種類のディスクがついていますが、中間くらいがちょうど良いと思います。種を完全に除去する必要はなく、大半が除去できればOKです。

この作業中、種がとても多いので途中何度かディスクを取り出して種を捨てる必要があります。

5・4の作業が終わったら、再び鍋に入れ、砂糖を加え、中火で焦げつかないように掻き回しながら煮込み、濃縮させます。

6・お皿に垂らして傾けてみて、下方に流れなくなれば適度な濃度、ということで出来上がり。火を消す5分前にレモン汁を加えます。
*目安として今回は砂糖を加えてから30分程度煮込みました。


出来上がりジャム


<保存法>
・作ったジャムは清潔な容器に入れ冷蔵保存。

・2瓶程度なら、一つは冷蔵保存、一つは冷凍保存で良いでしょう。

1・それ以上作る場合。プレゼントなどにしたい場合はジャムを作っている間に保存容器を煮沸消毒します。

2・出来立ての熱いジャムを入れて蓋をキツく締め、伏せて冷まして、蓋が凹んでいたらOKです。この方法で約半年保存可能。

もっと長く保管したい場合は煮沸消毒したビン詰めをもう一度、煮沸して完全密閉する方法で脱気殺菌します。(私はそこまでしません。。。)

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ムーランとトマトピューレとイタリアのマンマ

フランス語だとムーラン・ア・レギューム、moulin à légume イタリア語のパッサヴェルドゥーラ passa verduraと同じ「野菜濾し」という意味になります。(余談ですがイタリア語でlegumi=レグミとは豆類の事。フランス語ではlégumeは野菜、となるのですね。)

トマトピューレというと思い出すのは、90年代の事務所の隣の大工さんのディ・ヌッゾさんの奥さんが、毎年秋の初めに旦那さんの大工工房にやってきて、ディ・ヌッゾさんの露天のガレージで、仕事用の帆のない赤いトラックの荷台を大きなテーブル代わりにして、荷台一杯になるほどのトマトピューレの瓶詰めを作っていた様子。赤、赤、赤でとても印象的な光景でした。

ステファニア・ジャンノッティのレシピ本「粉砂糖」でも、トマトピューレの量を検討する際に冬の間にどのくらいの量トマトピューレが必要かを計算するページがあります。

ロンドンの英語学校で知り合った南イタリアのカラブリア出身のコンチェッタはファッション・デザイナー。表面の今風の装いに反して中身はかなり古典的な価値観の持ち主だったけれど、本当はシャイな性格を隠すために無理して軽薄に振る舞うことも多かった。
そのコンチェッタのお母さんは、一人暮らしの彼女の為に、すぐ使い切れるようにビールの小瓶に詰めて長期保存可能にしたトマトピューレを大量に送ってきた。
ミラノはイタリアで一番一人暮らしの多い町。今では一人暮らし向けの量の食材がスーパーマーケットにも並ぶようになったが、当時そのようなものはなく、いかにもマンマ(母親)らしい気遣いに、他人事ながら微笑ましかった。

彼女らに限らず、友人のお母さんたちは皆自家製のトマトピューレを作っているようだった。

そしてある年、思い立ってイタリアのマンマ達の作る自家製トマトピューレを自分で真似てみようと思い立った。無謀だ。

トマトピューレを大量に作って冬用にストックしようと計画。

まずはムーランを購入。

それからメルシェにトマトを吟味しにでかける。
もちろんステファニア・ジャンノッティのような緻密な計算などせず行き当たりばったりの量を買った。3、4キロだったか、5キロだったか、多過ぎず少な過ぎず、という量だった。

初めて使うムーラン、トマトが周りに飛び散った。
まあそれは慣れてしまえばさほど悲惨なことにならず継続できたかもしれない。

問題は出来栄え。苦労して作った自作のトマトピューレは市販のものより水っぽい出来上がりになり、かつ、ミラノのトマトの値段では、市販のものの美味しい物よりだいぶ高いものになってしまったので、経済的にも質的にも継続する意味は無い、と決めた。

一度使っただけのムーランはその後30年近く、引っ越した後も、長年キッチンの吊り棚の一番奥に眠ったままだった。

その後フードプロセッサーを購入したので、クリームスープなどにこの道具を使う事もなく、こんな風にまたこの道具を使う機会がやって来るとは想像もしていなかった。

捨てなくて良かった。

断捨離という言葉をよく耳にしますが、やはり何かをするための「道具」は必要になることもあるので捨てない方がいいのでは、と思います。

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