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会計監査と税務調査の違い

両方経験した筆者が思いつくままに書きましたので、ご興味があればお読みください。

目的

会計監査は、財務諸表(決算書)に全体として重要な虚偽の表示がないことを証明する手続です。”重要な”の程度は、投資家の投資意思決定に影響があるかないかで決まります。そして、財務諸表の適正性を会社から独立した立場の監査人が保証します。保証という言葉がとても大事です。重要な虚偽表示を看過した場合(粉飾決算の見逃し)、監査人の責任問題となります。

税務調査は、納税者の申告内容に誤りがないことを確認する手続です(不正によるものも含む)。税務調査を経たとしても、申告内容が適正であることは保証されません。誤りをピンポイントで指摘するだけです。脱税には厳しいペナルティがあるので、税務調査をやっているということだけでも、間接的に適正な納税を促す効果があります。特に査察事案では、大口・悪質な脱税について刑事事件として立件したことを公表することで、一罰百戒的な効果を狙っています。このようなことから、脱税を不注意で見逃しても国税当局が直接的に法的責任を問われることはまずありません

不正の方向

誤りについては、意図しないものなので、利益に対してプラスにもマイナスにも振れるのが通常です。一方、不正については、次のとおり異なります。

会計監査
通常の上場会社を前提とすると、利益にプラスの方向に操作します。というのも、経営者は、投資家である株主から会社経営を任された者(所有と経営の分離→受託者責任)であり、任期満了後の再任や報酬が利益を参考にして決まるからです。

税務調査
非上場会社を前提にすると、利益にマイナスの方向に操作します。通常、所有と経営が一致しているので、受託者責任は問題にならず、経営者は利益をプラスに見せる必要がありません。このため、銀行借入の融資審査のためなどの場合を除けば、専ら脱税を目的として利益をマイナスに操作する誘因が働きます。

手続全般

会計監査・税務調査のいずれとも、大雑把にはリスクアプローチで手続を設計・実際します。

ただし、会計監査では、財務諸表の適正性を保証しないといけないので、一般にはあまりリスクのない普通預金残高についても銀行確認状でガチガチに残高を固めていきます。誤りがないという事実もしっかり文書(監査調書)に残していきます。

一方、税務調査では、前述のとおり、誤りをピンポイントで見つけていきます。誤りのなさそうな勘定残高はほぼ無視です。このため、調査の結果を記録した文書(単に”調書”といいます。)についても、基本的に誤りに関するものだけとなります。

また、それぞれの不正の方向の違いから、会計監査では、主に資産・収益の実在性負債・費用の網羅性に着目しますが、税務調査では、主に資産・収益の網羅性負債・費用の実在性に着目します。ここで、実在性とは実際に存在すること(架空ではないこと)、網羅性とは実際に存在するものが計上されていること(除外していないこと)を意味します。

手続各論

それぞれの目的とはあまり関連しませんが、ここでは、似た手続の相違点を記述します。具体的には、会計監査の基本的な実証手続である実査・立会・確認について比較します。

現金実査
会計監査では、現金を実査するとき、クライアント担当の立会の下、監査人が直接現金を数えます。通常は、きちんと現金を返してもらいましたという意味でクライアント担当のサインをもらいます。

税務調査では、調査日現在の現金を数えることを現金監査といいますが、調査官は現金に触れてはいけないことになっています。これは、かつて納税者との間で盗んだと言われてトラブルになったことがあるためです。隙あらば調査を妨害しようとする者もいるため、最深の注意が必要ということもあります。ということで、現金は納税者に数えてもらい、調査官をそれを横から見るというやり方になります。1、2、3……7、8…あ、あれ…いくつだっけ?なんてこともあります(笑)

棚卸立会
会計監査では、棚卸資産(商品)に重要性がない場合を除いてほぼ必須の手続です。会社の決算日(又はその前後の近い日)に会社が行う実地棚卸の現場に赴き、棚卸の手続に不備がないか(内部統制として機能しているか)確認したり、監査人自らテストカウントを行い、実在性・網羅性を確認します。

税務調査では、決算日から早くても数ヶ月後に実地調査を行うので、実地棚卸の現場を見ることはできません。調査日現在の在庫の状況を確認することもありますが、あまり有効な手続とならない場合が多いです。

確認状
会計監査では、預金残高や借入金残高について問い合わせる銀行確認状、売掛金や買掛金等の残高を問い合わせる債権債務確認状を取引先等に送付するのが通常です。

税務調査では、通常このような確認状を送りません。代わりに不審な取引については、取引先に臨場して取引の真実性を確認します。これを反面調査といいます。

おわりに

思いつくままに書いたので体系立った説明にはなっていませんが、何かの気づきがあれば幸いです。税務調査について詳しくお知りになりたい場合は、こちらの記事(税務調査の話シリーズ)をご参照下さい。


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