見出し画像

サービスを高速で成長させるためのチーム体制と、開発マネジメントの仕組み

サービスの成長はスタートアップにおいて最も重要な経営イシューの1つです。

いかに自社のプロダクトをグロースさせるか」という問いは、全ての企業が向き合っている問いだと思いますが、「プロダクトを高速で成長させるための環境・仕組みを確立できているか?」という問いについては意外と向き合っている企業が少ないように感じています。

以下は、プロダクトを高速で成長させるための体制が自社で構築できているかのチェックリストです。
以下の問いにすべてYESの方は本noteは基礎的すぎるので、そっと閉じて頂いて別のテーマの時にまた帰ってきて下さい。

もし以下のチェックリストで1つでもNOがあるのであれば本noteは皆さんの事業の成長速度を上げる上で非常に参考になると思います。


以降で、プロダクトを高速で成長させるために具体的にどのように体制やオペレーションを整備していけばいいのかについて解説していきます。


全体像

プロダクトグロースを高速で実現するためのステップとして、ざっくり分けると以下の4ステップです。

  1. Problem Solution Fitの実現(そもそも顧客に強く求められるプロダクトを作るのが前提)

  2. Head of Growthの採用(いない場合は内部指名+外部メンター)

  3. 独立したGrowthチームの立ち上げ

  4. Growthのためのイテレーションプロセスの構築


Phase1)Problem Solution Fitの実現


「Problem Solution Fit」とは、「プロダクトを通して解決しようとしている顧客の課題が本当に顧客が心の底から困っているものであり、かつその課題に対して自社のプロダクトが大きな助けになっている状態」のことを指します。

つまりは、「そもそものアイデアが間違っていないか」という検証ポイントであり、ここが間違っているプロダクトはどんなに優秀なグロース担当者がいても成長させることはほぼ不可能です。

それではPSFを実現できているかどうかを、どのように判断すれば良いかというと、ざっくり以下のような観点で測れると考えています。

【「PSF」達成の判断基準】

ToBプロダクトの場合

プロダクトそれ自体の魅力でプロダクトが売れる状態になっているか? (= CEOや営業リーダーの属人的なセールスによって売れている状態ではなくメンバーレベルでも契約が取れる状態か?)

ToCプロダクトの場合
一部のセグメントでも、プロダクトに熱狂して、それがなくなったら心底困るという人が40%を超える状態を作れているか?(より厳密にはそうしたユーザーのRetentionカーブはフラットか?)

PSFを実現するための方法

上記のようなPSFが実現できていない場合は、以下記事を参考にJavelin Boardのフレームに沿って「顧客・課題・解決法」の検証サイクルを回して必要なピボットを行っていきましょう。


Phase2)Head of Growthの採用


プロダクトの初期はCEOがグロースの責任者として高速に施策を回していくことができますが、一定以上の規模でもプロダクトのグロースをスピード感を持って回していくためには、後述のグロース専門のチームを設置することは欠かせません

そのためにも、「グロース責任者」としてのHead of Growth、VP of Growthを採用や、内部育成を通して設置することが重要です。

Head of Growthの責任範囲としては以下になります。

【Head of Growthの責任範囲】

1. マーケティング戦略の立案と実行マネジメント
2. プロダクトマネジメント
3. ユーザー獲得(※)
4. ユーザーの活性化と維持(※)
5. LTVの最大化(※)

※ プロダクトのステージによって、どこにフォーカスするかは決定


また、Head of Growthに求められるスキルセットとしては下記が挙げられます。

【Head of Growthに求められるスキルセット】

■ Must 
・データ分析力: データに基づいた意思決定と戦略立案
・マーケティングスキル: 顧客獲得と維持のための戦略実行
・コミュニケーション能力: チームとの連携と社内外の説得
・リーダーシップ: チームの育成と成長
・カルチャーフィット

■ Better
・データサイエンティストとしてのスキル
・UX+UIデザインスキル
・エンジニアリングの知識

また、Head of Growthの直属の上司はCEOやCOOなど経営層であるべきです。

「サービスの成長」は経営上の最重要イシューの一つであるため、OKRやKPIなど具体的な目標を設定し、Head of Growthから経営層への定期的な進捗報告が行われ、課題に対して適切に議論が行われることが必要です。


Phase3)独立したGrowthチームの立ち上げ


プロダクトの成長スピードを高めるために、独立したGrowthチームを現状のプロダクトチームとは別に立ち上げるのは必須だと考えています。

プロダクトグロースがうまくいっている組織でそうでないケースをほぼ見ない、という経験則もありますが、きちんと言語化すると、以下4つの理由から独立したGrowthチームは必要です。

なぜ独立したGrowthチームが必要か

  • 責任とコミットメント: Growthはスタートアップにおいて最も重要なものであるが、各機能部門がGrowthを兼務する形ではGrowthの定量的な目標に対して責任とコミットメントを持つものが不在となっていまう。
    ⇒ 定量的なGrowth目標に対して明確に責任を持つ担当者とチームが必要

  • 専門性: Product Growthを実現するためには一定の確立された理論やメソッドが存在しているが、それらは片手間でできるような代物ではない
    ⇒ Head of Growth、Growth Managerの必要性

  • データドリブンな意思決定: プロダクトのGrowthにおける意思決定は、データ分析や顧客調査などを高度な知識とスキルを用いて行い、そこから得られるデータに基づいて意思決定すべきであり、兼務で専門性を持たない人材がそれを担おうとするとデータドリブンからは程遠い意思決定が散発されてしまう

  • 一定のリズムでの施策リリース: Growth専門チームを設けずに単一の開発チームしか持たない場合に、大きな粒度の開発項目や緊急度の高い開発項目などで開発リソースが埋まってしまい、週次などの一定のリズムで改善とグロースのための開発を行うことは難しくなる。

やはり通常のプロダクト開発チームとグロースチームでは、同じサービス開発でも求められるスキルも向き合う時間の流れも大きく異なるため、チームは分けた方が良いです。


Phase4)Growthのためのイテレーションプロセスの構築


Growthのイテレーションをしっかりと回すためには以下の2つの要素が必要です。

【Growthを高速で回すための2つの要素】
1. 適切な会議体
2. イテレーションサイクルに基づいたカンバンボード

適切な会議体

グロースの施策を高速で回しながら、中長期のサービスの成長にも向き合うためには、向き合う抽象度と時間軸の異なる以下の3つの会議体を組み合わせることが重要です。

  • Weekly Growth Meeting

    • 目的:週次目標の進捗確認、課題共有、次週の実装項目の決定

    • 頻度:毎週

    • 参加者:CEO、Growthチーム全員

    • 主なアジェンダ:

      • KPI進捗の確認

      • 先々週リリースした機能の1週間の数値レビュー

      • Head of Growthからメンバーへ情報共有

      • 各メンバーの進捗報告

      • 課題共有と解決策の検討

      • 次週の実装項目の策定

  • Monthly Growth Review

    • 目的:月次目標の達成度確認、課題分析、長期戦略の策定

    • 頻度:毎月

    • 参加者:経営層、Growthチーム全員

    • 主なアジェンダ

      • 月次目標の達成度確認

      • 直近1ヶ月での実行施策の振り返り

      • 課題分析と改善策の検討

      • 主要KPIの分析

      • 次の1ヶ月の注力施策の認識合わせ

  • Quarterly Town Hall

    • 目的:全社へのGrowthチームの活動報告、情報共有

    • 頻度:四半期に1回(全社MTGの中で1セクション持つイメージ)

    • 参加者:全社員

    • 主なアジェンダ:

      • Growthチームの活動報告(注力KPI、実施施策、改善効果)

      • 今後の成長戦略

      • 質疑応答

  • 【Optional】Morning Standup

    • 目的:各自のタスクの認識合わせ、進捗確認、障害の除去

    • 頻度:毎朝

    • 参加者:Growthチーム全員

    • 主なアジェンダ:

      • 各自のタスクの確認

      • 進捗確認

      • チームや各自のタスクの障害になっていることはなにか?


イテレーションサイクルに基づいたカンバンボード

グロースの施策を高速で回すためには、最初に「イテレーションサイクル」というものを設定することが必要です。

「イテレーションサイクル」を例えば1週間と設定すると、グロースチームは1週間で施策の球を実装し、毎週特定の曜日にリリースするということを意味します。

そして各イテレーションサイクルは、下図のように

  1. 分析・施策立案

  2. 要件定義

  3. デザイン

  4. 開発

  5. リリース後データ収集

  6. 事後分析

の工程に分割でき、それぞれで使用するリソースが変わるため、下図のように各イテレーションサイクルの工程をずらしながら常にあらかじめ決めたイテレーションで施策をリリースし続けれられるようなオペレーションを構築します。


そのためには、イテレーションサイクルで定めた期間(例えば1週間であれば週次)のカラムを持つ下記のようなカンバンボードを作成して施策の管理を行うことがオススメです。

▼ カンバンのフォーマットは下記参照

サンプルはこちら ⇒ https://posts-tokyo.notion.site/Weekly-Product-Planning-Board_Sample-5d63e64a3ba14ee88891d6d1280ccc72?pvs=4


また、カンバンの各アイテムは以下のフォーマットで記述していくことをオススメします。

目的
- この施策の結果として期待する効果を書く
- この施策の結果として期待する効果を書く

データと仮説
- ◯◯◯◯というデータから◯◯◯◯という仮説が考えられる

施策詳細
- 施策の詳細説明を書く
- 施策の詳細説明を書く
- 施策の詳細説明を書く

KPIと判断
- どのKPIがどうなったらこの施策が成功したと言えるかを書く

このフォーマットに沿って各施策を整理することで、仮説/データドリブンで施策を立案し検証していくことが自然とできるようになります。

仮説/データドリブンでの施策実行について詳しく知りたい方は下記noteをご参照ください。

以上、プロダクトグロースを行う上でかなり基本中の基本の内容でしたが、多くの急成長スタートアップでも本noteの内容を徹底できている企業はかなり少ない印象なので、ぜひ参考にしてみてください。

さいごに

『生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方』という書籍を日経BPから発売いたしました。

10社以上での生成AI領域の企業顧問や、これまでの新規事業づくりサービスづくりの経験を全てつぎ込み、生成AIを活用して強い事業と組織をつくるための方法を実際の事例、オリジナルのフレームワーク、未来予想などてんこ盛りで書き上げた渾身の一冊になっております。

ありがたいことにAmazonのランキングで全ビジネス書中1位も一時取れたり発売前増刷も決まりましたが、まだまだ多くの方に届けたいと思っています。
生成AIを通した事業づくり、事業成長、組織改革に興味がある方はぜひ以下からご購入頂けますと幸いです。


いいなと思ったら応援しよう!

梶谷健人 / 新著「生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方」
AIやXRなどの先端テック、プロダクト戦略などについてのトレンド解説や考察をTwitterで日々発信しています。 👉 https://twitter.com/kajikent