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読書の記憶

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#読書感想文

『ヴェイユの言葉』シモーヌ・ヴェイユ/冨原眞弓(みすず書房)

『ヴェイユの言葉』シモーヌ・ヴェイユ/冨原眞弓(みすず書房)

自分の頭と言葉で考えるために。
自分の頭と言葉で考える、そのために。この数年・数か月・数日、我を悶々とさせ世相を混乱させる問題をあざやかに両断する断片がたくさん。おお!おお!と膝を打ち頁を繰る。

支配と権勢と狂信の相対性とか、悪に悪で対抗する愚かさとか。おお!おお!
人に読ませるためでなく、自分の覚書として書かれたものが多いこともあり、決してするするわかりやすい内容とは言えないけれど。

キーワ

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『房思琪の初恋の楽園』林奕含(白水社)

『房思琪の初恋の楽園』林奕含(白水社)

なんとも皮肉な、いや、皮肉?もっと、もっと辛辣ななにかに満ちているタイトル。その言葉を知らないことがもどかしい。

「これは実話をもとにした小説である」に始まり、作者の死で締めくくられた小説。
少なくとも、そのような受け止め方がこの作品を押し上げているはずだ。
新聞で書評を目にして、強烈に、読みたい!と思った。同時に、読みたくない!と思った。スキャンダルのにおいが強すぎて、まっさらで読めるのか疑わ

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『中国怪談集』中野美代子・武田雅哉編(河出文庫)

『中国怪談集』中野美代子・武田雅哉編(河出文庫)



『怪談』でこのラインナップおそれいる。縛りもなく枠もなく、まさしく怪しき談りばかり。
さて。カニバリズム趣味はないけれど、たぶん。それら文字列を目にすると手に取らずにおれない。『人肉を食う』。これが一本目にあることで購入決きめたんだわたしは。
電波系も時代を経ればファンタジー『台湾の言語について』『宇宙山海経』ゆかいゆかい。
『五人の娘と一本の縄』とソフィア・コッポラのヴァージン・スーサイズに

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『きのこのなぐさめ』ロン・リット・ウーン/枇谷玲子・中村冬美(みすず書房)

『きのこのなぐさめ』ロン・リット・ウーン/枇谷玲子・中村冬美(みすず書房)



夫の死、きのこの知識、ノルウェーの社会、きのこのなかま、マレーシアの社会、きのこの体験、などなど、などなど。。。
これらを縦糸横糸に織り上げられてゆくタピスリーのごとき一冊。
しかも、既に織り上がった一枚を観るのではなく、織り上げていく様を観ているような読書感覚。

本書で語られるエピソードは、ランダムに配置されているようにみえるし、時系列や期間についてもはっきりとはわからない。夫の死から始ま

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『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ/小野正嗣(ちくま学芸文庫)

『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ/小野正嗣(ちくま学芸文庫)



この手のは結局難しくて「文字だけ追いました」になってしまうことも多いのだけれど。驚くべき読みやすさであった。もっと観念的な内容を予測していたものの、実際には平易な文章で具体的かつ例証的に論がすすめられるので、しっかり理解しながら読めたと思う。
同意できるところ多数。膝をぽんぽん打つ。
著者の余裕と誇りから生み出された文章であることも痛感する。ページの隅々にまで充満するそれに、煙たさを感じたのも

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『ガン入院オロオロ日記』東海林さだお(文春文庫)

『ガン入院オロオロ日記』東海林さだお(文春文庫)



どれ読んでも同じといえば同じなんだけど、見かけるとつい手に取ってしまう。
あらぬ方向へ行くのがこの人の味ではあるけど、始まりと終わりの乖離がすぎるのではというものもちらほら。しかも尻切れ蜻蛉すぎない?と。

昔みたいにゲラゲラ笑えなくなったのは、わたしも擦れたからか?

それでもすごいよなー。
年齢でいったら自分のじじばばとさほど変わらないのに。肉フェスいったり、蕎麦食い倒れてみたり、ガングロ

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『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン/上遠恵子(新潮社)

『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン/上遠恵子(新潮社)



耳を澄ますこと、目を凝らすこと、においを嗅ぐこと、手で触れてみること。それらを恐れなく実行できること。

ちょっと落ち込んだ気持ちで本屋に入る。不思議とはまる本が置いてある。
スッと手に取る。

海鳴りというのか、潮騒というのか。聞きたい。
川の音でもいい。
雨の音は飽きたなあ。

(2019.11.30)

『魔女の薬草箱』西村祐子(山と渓谷社)

『魔女の薬草箱』西村祐子(山と渓谷社)



魔女になりたい。と常々言っているのだが、じゃあ具体的に魔女ってなんなの?と聞かれるとちょっと困っていた。のだが、本書に繰り返し出てくる『賢い女』という表現はとてもしっくりきた。
そうだ。わたしは、賢い女=魔女になりたい。

さて、本書。適度に専門書くさく、しかし踏み込もうとすると曖昧なことしかつかめない。まさしく魔術的。
魔女の姿が描かれた図版多数で愉快。ただし、その姿は忌むべきものとしての姿

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『クィア短編小説集』(平凡社ライブラリー)

『クィア短編小説集』(平凡社ライブラリー)



『ゲイ』『レズビアン』『クィア』ときて三部作制覇~。
後半4つの収録作がよかった。
『ティルニー』伝オスカー・ワイルド:完全にBLじゃないかい!とりあえず数百年単位では人間の考える淫靡さとか耽美、エロティックは何ら変わらないのだなということがわかった。現代日本の商業BL作家の手によるものですって言われても違和感ない。古くもないし新しくもない。ただひたすらこういうものとしてここにあり続けるもの。

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『わたしのいるところ』ジュンパ・ラヒリ(新潮クレスト・ブック)

『わたしのいるところ』ジュンパ・ラヒリ(新潮クレスト・ブック)

ジュンパ・ラヒリは好きな作家。
といっても、読書記録によると、なんと、『停電の夜に』しか読んでいないもよう。それでもその1冊が水を飲むようにスゥと滲みこんで糧になったのなら好き以外に言いようがない。

この作品もしみる。今度は滲みるじゃなくて沁みる、か。
登場人物は、「若い」とはもう言いにくい年齢で、独身で、それなりに本人も納得した職を持ち、経済的にも精神的にも独立している女性。イタリアじゃどうか

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『シェリ』コレット(光文社古典新訳文庫)

『シェリ』コレット(光文社古典新訳文庫)

登場人物と舞台設定とテーマだけ見ると、腐臭のしそうな小説なのに。なんとも清々としたもの。
終盤、愛と恋とを自覚して受容したがゆえにかえって、平凡な年取った女になりかけた元高級娼婦のレア。そのレアを立ち直らせるのは、シェリの最初で最後の魂からの告白。ここがこの作品の白眉だと思いますね。
ひとは決して自分で自分をかたちづくってるわけじゃないのね。他人という鏡にうつった自分をみながら自分を成形しているの

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『うちゅうの目』まど・みちお(フォイル)

『うちゅうの目』まど・みちお(フォイル)

美容院の待ち時間に。
まど・みちおの誌と奈良美智らの写真を組み合わせた、ツクリはよくわからん本。

透徹した善と真実(という幻想)に触れるために、詩人には存在していてもらいたいものだ。

『時が止まった部屋』小島美羽(原書房)

『時が止まった部屋』小島美羽(原書房)

2019.10.02読了

ドールハウスが好きです。動機としてやや不純でしょうか。この本を手に取るには。

孤独死の現場を再現したミニチュア作品があることを知ったのは確かネット記事。染み出した体液の表現が強く印象に残りました。その後、新聞の書評欄で書籍化されたことを知り、購入。

スケールを変えて、飽くまで似たケースの総体として再現されたものとはいえ、各作品のインパクトは強い。悲惨だとおもう。一方

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