読書感想文

『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ/小野正嗣(ちくま学芸文庫)

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この手のは結局難しくて「文字だけ追いました」になってしまうことも多いのだけれど。驚くべき読みやすさであった。もっと観念的な内容を予測していたものの、実際には平易な文章で具体的かつ例証的に論がすすめられるので、しっかり理解しながら読めたと思う。
同意できるところ多数。膝をぽんぽん打つ。
著者の余裕と誇りから生み出された文章であることも痛感する。ページの隅々にまで充満するそれに、煙たさを感じたのも事実。この煙たさは、出自や言語といった規模の大きなものではなしに、わたしの極個人的なコンプレックスに端を発するもの。
本書で問題にされているアイデンティティに戻って気になることはひとつ。アイデンティティの定義が同じですすみたい方向も同じくする、しかし打ちのめされたアイデンティティを持つ人の口から同じテーマが語られたらどうなるだろうかということ。

「アイデンティティは生得的なものではない」とか「地域・時代によって変わる」とか「誰しも手放しで認めてもらえるコミュニティへの帰属に憧れる」なんてことは『そりゃあそうよね』なんだけれども、言語化されてみないと案外ぼんやりしてしまうものだ。
ぼんやり生きてたらぼんやり人を殺しかねないのかも。自分も含めて。
こんな頭の重くなること、常に考えてはいられないけど、時々スイッチを入れておく必要はある。

「歴史はどの瞬間にも無数の道を進んでいます。」にどきりとしたのは、本書とはあまり関係ないオタク心のせい。

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