読書感想文

『きのこのなぐさめ』ロン・リット・ウーン/枇谷玲子・中村冬美(みすず書房)

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夫の死、きのこの知識、ノルウェーの社会、きのこのなかま、マレーシアの社会、きのこの体験、などなど、などなど。。。
これらを縦糸横糸に織り上げられてゆくタピスリーのごとき一冊。
しかも、既に織り上がった一枚を観るのではなく、織り上げていく様を観ているような読書感覚。


本書で語られるエピソードは、ランダムに配置されているようにみえるし、時系列や期間についてもはっきりとはわからない。夫の死から始まるきのこ生活について書かれていることはわかるのだが、「わたしは何をよんでいるんだっけ?」という手探りにはじめ戸惑う。けれど、手探りを諦めず読み進めるうちに徐々に地平を見渡せるようになる。
読み手に見えるものが増えるにつれて、著者の悲しみも徐々に癒えてゆく(『癒える』といっていいものかは少々気を遣うところだが)。著者が前向きになるにつれて、読み手は著者に受け入れてもらえたように感じられる。
書かれたものを読むという、それぞれ一方的な行為をしているにすぎないのに、著者と、いや、本と話が通じるようになってゆく。
当然、この本がどんどん面白くなる。


生きるために必要なパーツは決して一つではない。

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