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いいデザインからデザインを学ぶコラム②

現役プロダクトデザイナーが、良いデザインだと思うものを選定し、どこがどういいのかを文字にし、謙虚な姿勢で「いいデザインからデザインを学ぶ」コラムです。

※前回の記事が想像より反響がありました。ありがとうございます。全然書かない時期も訪れますので気長にお付き合い頂ければと思います。

コラムの目的。

自分自身のデザインの審美眼を養うこと。またそれらから学んだことやデザイナーとしての視点をデザイナーを志す学生や若いデザイナーに共有することで、学校や現場でなかなか学べないことを学ぶ環境を作ってみること。そこからさらに良いアイデアを創出・発展させることを願っています。もちろん自分も。

コラムを書く上でのルール。

・自分や知り合いがデザインしたものではないものを選定すること。
・投稿時点で自分に利害関係にない企業やブランドの商品を選定すること。
・投稿による収益を得ないこと。また、商品の購入サイトのリンクを使わないこと。
・かならず自分で使用し、その証明にコラム中に出てくる写真も自分で撮影すること。
・ジャンルは不問(基本的に物が多くなるとは思います)
・無理して書かない。ネタが無いならネタが入るまで書きません。

つまり、純粋にデザインだけで文字にするコラムです。
※問題になるようなことは書きませんが、それでも何か問題が起きたり単純に嫌になったらその時点でやめます。

今回選んだもの。

グレステンというブランドのステンレスハンドルのペティナイフ(この商品は刃渡り14cm)の包丁です。普段から愛用しているもので、いかに優れているかを今日は語りたいなと思います。

この一本で済んでしまうペティナイフ。

画像3最も目を引くこの外形(輪郭)。何が起きているかというと、刃に対してハンドル(持ち手)がずれて設計されています。このプロダクトデザインで素晴らしいと思う点はここに集約されています。

ペティナイフというカテゴリーの包丁は少し小ぶりでフルーツとかをカットする包丁だと思われがちですが、実際には色んな用途に使えます。実際にもう一丁ペティナイフを所有していますが、そちらの刃渡りは12cm。グレステンよりも2cm短いです。

使用者としての個人的な感覚であれば12cmあればご家庭ではもしかするとだいたいの物はカットできるのではないか。よほど大きな具材をカットすることがなければことたりますし、ましては14cmあれば私は十分なサイズだと思います。そういう意味ではご家庭に一本はある三徳包丁よりも扱いやすく、スペック上ぴったり合っているのが14cm前後のペティナイフなのかなと思います。というか個人の感想として言ってしまえばこの一本で済んでしまうくらいサイズ、使いやすさのバランスに富む包丁だと思います。

日本人(特に男性)はスペックというものが好きな傾向にあります。それは数値的な価値観=ステータスだと考える傾向とも言えますが、これはそうした価値観にはない「ほどよいバランス」を提供してくれている気がします。そしてそのほどよさは、競争という軸から離れるプロダクトデザインですので、長く販売され続ける重要な要素だとおも言えます。

使うことを研究することで生まれたデザイン。

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さて、上記でハンドルのズレのデザインについて触れていませんでしたが、なぜこれはずれているかというと、ペティナイフは刃渡りが小さいため、アゴと呼ばれる刃の一番根本の距離が三徳包丁に比べて短いです。

フルーツをカットしたりするのには良いかも知れませんが、これ一本であれこれ済ませたい場合、かならずまな板の上でもカットすることもあります。というかほとんどそうです。その時にアゴからハンドル(口金)までの距離が短いと指がまな板に当たってしまいます。

それを防ぐためにこうした外形になっています。使うことを研究すれば、こうしたプロダクトデザインを見つけることもできます。あとなんとなくですがデザイナーだけで考えた感じがしない。もっと様々な知見が入った道具のように感じます。前述でかいたように私はこれが誰がデザインしたものか知りませんが、デザイナー、エンジニア、クラフトマン、あとユーザーもチームに入ってたりするんじゃないかなと物とコミュニケーションして感じました。デザイナー不在の可能性も無くもないです。

骨格が新しいプロダクトデザイン。

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自論ですが、プロダクトデザインは三つの構成要素でできていると考えます。人体で言うならば骨、肉、皮膚。言い換えれば構造(骨)、造形(肉)、表面処理(皮膚)です。構造が変化すれば使用性が変化すると言えます。空を飛ぶ生き物は空を飛ぶための骨格をしています。泳ぐ生き物は泳ぐための骨格をしています。つまり構造そのものが変化しています。

プロダクトデザインは一般的に色・カタチで評価されがちですが、実際にはこの骨のところももちろんプロダクトデザインです。この骨格構成を変えることで、人にプラスの影響を与えることができているのが、この包丁なのかなと思ったりします。

ハンドルで語れること。

画像4ディテールという話で言えば、ハンドルはおそらく三徳包丁くらいの大きさのしっかりとしたサイズ感です。少し硬いものとかも力を入れるには良いサイズだと思います。また、ステンレスハンドル(取っ手が木や他の材料ではなくステンレス一体型になっているもの)は割とプロユーザーが多いイメージです。GLOBALというブランドがステンレスハンドルでは有名だと思います。

衛生的だからという理由だそうですが、私の場合も調理後の食器洗いは食器洗い機で行います。ステンレスハンドルになっている場合は、食器洗い機で洗っても問題ありません。木やその他のハンドルの場合は、高温のお湯で洗い、高温で乾燥させるため、刃は大丈夫でもハンドルは少しずつダメージを受けます。

そうした意味でもステンレスハンドルの包丁を選べば、ご家庭用としては一本でこと足りてしまうかも知れません。

料理=作業の方のための総合力のデザイン。

料理が好きな人やプロは別として、料理がそこまで好きではない人や嫌いな人からすると、料理というのは「作業」に他なりません。それは他の掃除や洗濯と近しいひとつの家事に過ぎない。

先日友人がフライパンを買うというので、外観重視で重くて使いにくいものより、「軽くて使いまわしのいいもの」をアドバイスしましたが、包丁も同じく家庭用で何本も違うサイズの包丁を持つ必要はないと思います。少なくとも作業と捉えている方には一本ちゃんとしたものがあればいいかも知れません。道具は人を苦労を楽にするために存在します。

そう考えた時、取り回しがよく、安全に使え、食器洗い機にも使え、もともとの質がいいので長く使える。それを一本持っていればこと足りてしまうなら、それにこしたことはないのかなと思います。一本で足りるということは一つの製品で多くの役割をこなすということなので、プロダクトデザインとしてとても優れていると思います。

いつかこういうプロダクトをデザインできればいいなと思います。

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