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問わず語り

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私の作品集です。見ていただけると、とても嬉しいです。
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#やさしさにふれて

普通の事だから。【ほぼ実話短編・7308文字】

普通の事だから。【ほぼ実話短編・7308文字】

「こんなの普通だよ」

普通の事。なんて曖昧で、なんて暴力的な言葉だろう。受け取る僕の側の問題だとはわかる。わかるが、それでもやってられない。

「あーあ」である。全くもって「あーあ」に尽きる。



夜勤から帰って来たその足で、すぐに着替えと支度を済ませる。そのまま日の当たらない半地下の部屋を抜け出して、自転車置き場へ向かう。鍵を財布から取り出してガチャリと小気味いい音に少しだけ癒される。

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足りない欠片を集めて。【ショートショート】

足りない欠片を集めて。【ショートショート】

道を歩いていると、粗大ゴミ置き場にロボットが打ち捨てられていた。このご時世、珍しくもない光景になった。目を向けると、まだ微かに稼働音があり、何かを呟いている。

「ワタシ…ナイ…ワタシ…ナイ…」

私?無い?何が?どうしても、足を止めてしまう。

「タリナイ…タリナイ…」

足りない。今度はそう言っている。何が?

「何が?」は、私がそのロボットに興味を抱くのに十分な疑問だった。幸いにして私は機械

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日記の影。【ショートショート】

日記の影。【ショートショート】

noteがサービスを始めて、31年が経った。

noteの1周年の日。父がアカウントを作った。

私が生まれたその日から始められたnoteは、父と母の育児日誌として産声を上げた。

最初の投稿は父の「むすめがうまらた!」だった。テンションがおかしくなった上で誤字をして始まった。

父と母は几帳面な性格で、事細かに私がその日何をしたかの一切を詳細に記事に書き続けた。連続投稿10年の偉業を成し遂げた父

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ダレデモダレカ。【ショートショート】

ダレデモダレカ。【ショートショート】

あーもしもし。もしもし。聴こえますか?

周波数あってる?

この放送誰かに届いてるかな。まぁ別にいいか。届いても届かなくても。届く時は届くし、届かない時は届かない。そんなもんさ。でも届いた方が嬉しいのは確かだね。届いてたらいいなぁ。

まぁ、気にせず始めちゃおう。

誰かの為の誰かを紹介するラジオ番組!!

ダレデモダレカ~!!始まるよー!

この番組は誰かの提供でお送りします。

さぁ、今日は

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旅立ち前のシネマウマ。【ショートショート】

旅立ち前のシネマウマ。【ショートショート】

シネマウマは自分の見た景色を身体に映し出す事ができた。

定期的に行われる池での上映会は、池に住む生物達には大変好評だったが、シネマウマは自分が見た景色を白黒でしか表現できない事が不満だった。

池に住む友達のカメは言う。

「すごいや!世界には僕の知らない綺麗なものがたくさんあるんだね。」

シネマウマは言った。

「だけど色がついた景色はもっと素敵なんだ!」

友達のカメにはまだ言っていなかっ

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