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『THE LAST OF US』にあって『アイアムアヒーロー』にないもの

ゲームが原作の『THE LAST OF US』がHBOでドラマ化され、U-NEXTで見ることができる。パンデミックとかゾンビっぽい敵とか、よくある設定のファンタジーだと決めつけないで、トライしてみてほしい。そこには『夜と霧』のような、限りなく自由が失われてしまった世界でも「美しく生きる」という自由はまだ残されているという、クリエイターの意思のようなものを感じることができる。

よくあるゾンビや地震や巨大噴火のような天災を主人公の物語上の障害に設定した作品というのは、困難を乗り越えて主人公が成長するに従って、獲得すべき「新しい日常」が壊れていくので、その獲得にカタルシスがない。だから『ドラゴンヘッド』や『AKIRA』のラストにもカタルシスはなくて、抽象的な作家の脳内世界が展開して物語が終わっていく。最近だと『アイアムアヒーロー』はカタルシスのまるでない平凡な日常のラストになった。こういう物語の終わらせ方はとてもむずかしい。

一方で『LAST OF US』がうまく行ったのは、細菌による感染で人間が狂っていく(ゾンビ化と言ってもいいかも)ところから、あっという間に20年の時間を進めて、世界が壊れたところから物語が始まったから。いったん完璧に世界を壊してしまって、そこから「よりよき世界」を獲得することを主人公の目的にできている。

愛しいことに理由はない。ひとの命は続いてゆく。ただ残念なことに、ひとが「La Vita e Bella - 人生は美しい」と感じられる頃には、身も心もスリ傷だらけだ -佐野元春

だから『LAST OF US』を見ると、佐野元春さんのこの言葉を思い出す。人を守ってくれる「いい意味での権力」さえ失われた世界で、傷だらけになりながら人生の美しさを探す物語。3話で、リンダ・ロンシュタットのカセットをかけながら車で走り出す場面からのエンディングが美しすぎた。

ゲームもぜひやってみたい。

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