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短編小説「最適」




 郊外だからといって不便ということはない。この場所には修繕工事による喧騒に邪魔されない、静寂が展開されている。その贅沢な静寂を必要とする私の仕事にはここはもってこいの場所である。そして週末の早朝、3歳になった娘と散歩をするには尚更うってつけなのだ。




 「ねえパパ聞いて、さっき本で『死んだ人はまた他の生き物になって生まれる』って書いてあったの。そして、それはつまり世界の魂の数は変わらないって事なんだって」私の前を歩く娘は小さな弧を描いて振り返り、私に得意げに話してくれた。娘の動作に少し遅れる形でワンピース裾がふわりとなびく。「それは本当かな。でも、本当だったすごいね」私は思ってもいないことを口にした。私の答えに満足したのか、娘は笑顔を私にみせると、運動音痴を感じさせる走り方で駆け出した。




 靴の裏に植えられた人工芝の感触は近年になり目覚ましい発展を遂げた。文献にあったものにより近づいている。人工的に管理されたシェルターの中で、日本と言われた国の四季をある程度ベースに組み込みアトランダムに移り変わる人工気候。「魂の総数が変わらないなら、ロボットのお前にも魂が入ってることになるじゃないか」私は顔をあげ健康的な紫外線を浴び小声で呟いた。今私のいるシェルターの外では、もの言わぬ80億を超えるロボットたちが、昼も夜ももなく地球のために働いている。もし、その一つ一つに魂など入るものなら勝手な戦争は必至だろう。




 「お父さん、早くきてよ」亡き娘に似せて作らせたロボットが私を手招きする。私は歩を進めながら汚染された今の地球を救わんと働く80億のロボットがもし人間であったらと考え始めていた。そしてその考えをすぐにやめた。娘も死に、ようやく地球にとって最適な人間の数まで間引くことができた今、余計な思考も最早無駄である。




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