【第7回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第7回
新宿警察署は、都内で一番規模が大きい。そんな大規模な署から、小さな個人事務所の弁護士への連絡など滅多にない。いったいなにがあったのか。
電話をかわると、受話器の向こうから若い男の声がした。刑事課の安田と名乗る。安田は佐方のところへ連絡してきた理由を述べた。
「さきほど逮捕した男が、佐方弁護士事務所の佐方貞人を呼んでほしい、と言っているので連絡しました」
なにかしらの容疑で逮捕された被疑者は、弁護士を呼べる権利がある。弁護人依頼権という憲法で保障された権利だ。その際、ふた通りのケースがある。
ひとつ目は、弁護士会から弁護人を派遣してもらうものだ。弁護人依頼権により、被疑者は一回だけ無料で弁護人に相談することができる。警察官に「弁護士を呼んでほしい」と訴えると、警察官はそこの地域の弁護士会に連絡し、その旨を伝える。そうすると、その日に待機している当番弁護士が接見をしにやってくる、というものだ。逮捕された被疑者が最初に会う弁護人は、この当番弁護士のケースが多い。
ふたつ目は、弁護人を指名するものだ。被疑者もしくはその関係者が、知り合いの弁護士や刑事事件に強い弁護士に依頼をする。弁護料が発生するが、自分で弁護士を選択することで被疑者は心の安定が図れる。
このふたつのケースで多く用いられるのは、前者だ。法曹関係者ならば別だが、そうでなければ弁護士に知り合いなどいないのが一般的だ。のちに刑事事件に長けている弁護士を探し出して依頼することはあっても、逮捕直後に指名などできない。
安田は、さきほど逮捕した、と言っていた。逮捕直後に佐方を指名してきたならば、被疑者は佐方が知っている男ということか。
(つづく)
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