【第14回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第14回
「まもなく終わります」
佐方はそう答えた。少しでも早く事件を調べたいのは、こっちも同じだ。久保の早期釈放と不起訴処分を獲得すべく動かなければならない。
警察官が退室する。
ふたりになると、佐方は久保を見つめて訊ねた。
「事件の詳細は、いまから警察に訊いてみる。そこから調査をはじめるが、その前にお前に確認しておきたいことがある」
「なんだ」
久保が訊ねる。
佐方は声に力を込めた。
「一度しか訊かない。お前は本当に、被害届を出されるようなことはしていないんだな」
久保が佐方の目を見つめ、しっかりとした声で短く答える。
「していない」
佐方は小さく息を吐き、短く答えた。
「わかった」
久保が嘘をついていないことは、最初からわかっていた。久保が女性をひどい目に遭わせるはずがない。しかし、本人の口からはっきりと聞いておきたかった。
佐方は手帳をバッグにしまいながら言う。
「俺のほうで今回の経緯を調べてみる。不起訴に持ち込むにはある程度の時間が必要だが、保釈は早いうちに認められるだろう。まずは相手の女に会ってみるが、今回、女がお前を訴えた理由に心当たりはあるか」
久保が力ずくで行為に及んだわけではないとしたら、女が久保を嵌めようとしたと考えられる。目的は金か久保に対する恨みか。
久保は首を横に振った。
「わからない。だが、ひとつ言えるのは、おれはユウカの恨みを買うようなことはなにもしてないということだ」
「逆恨み、ということもある」
椅子から尻を浮かせた佐方を、久保は睨んだ。
「俺と彼女は、恨みを抱くまでの関係じゃない。店の客とホステスというだけの仲だ」
そうだとしたら、ユウカの目的は多額の示談金か。
(つづく)
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