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まだ、足りぬ。|散文

夢をみていた……

記憶のなかに鮮明に残るその部屋は
きっと僕の命が最も寂しくあって
そして、優しさを全身に浴びていた場所

行きたい処がある、そう言った
僕が寝たふりをしているその隣に座って
誰よりも素早く姿を変えていく君に
なにかしてあげたいと夜に駆け出した

時間がない……

ノイズが肩甲骨や腰のあたりから湧いて
暴れるように真ん中へと集まっていく

真っ暗な夜の闇のなかで見つけた灯りに
間に合ったと安堵したのは束の間の愛
振り返れば君は不安そうな笑みを浮かべ

行きたい処がある……
そう呟いて、寂しく俯いてしまった

幾重に重なる君の影が音なく泣いている
静かに歩み寄った僕は戸惑いに揺れた
何かしてあげたいというその想いだけを
いつまでもこの両の手に握りしめたまま

夢をみていた……

記憶のなかに鮮明に残っているその夢は
きっと僕の命が最も切なくあって
そして、幸せを全身に抱いていた瞬間

まだ、まだまだ……
こんなのじゃ、全然 足りていない
もっと、もっともっと深くまで
君のことを愛してしまいたい……

夢をみていた、そんな僕の夢の続きを。

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