あのね、
ううん、そうじゃない。
いつもいつも、まぶたの裏を見ていたの。
まぶたの裏でキャンバスを描いていたの。
遠いものに手を伸ばそうとしたり、
遠いからこそ望遠鏡が必要だった。
それはいつしか心の中にまで望遠鏡を覗かしてた。
見えないから、見えなくても、見ようとした。
そういう感覚に慣れてしまってからは
遠いものでも、遠い人でも、近くに思えた。
見たくないものもあったけど、綺麗なものが輝いてた。
それは心の支えだったけど、目の前にはない。
見てるだけの一番星。いつも心の中にいた。
そしたら距離感が分からなくなっていくでしょう?
遠くにピントを合わせてしまっていたから、
近くに来られると見えなくなるの。
どこにいるの?今、いた?見えなかった。
その一瞬を見逃してしまうことが後悔の種。
いつも目にしてないと、待機してないと、すぐ通り過ぎるんだ。
それは日常だって、自分にだって、同じだった。
現実を見ようとしない限り、ピントは合わないよ。
ぼやけたままの世界なんてイヤでしょう?
ぼやけたままの自分なんてイヤでしょう?
ベールに包まれながら、守られて、囲まれていた。
でも不思議と夢のようだった。
こっちの方がいいとさえ願ってしまうようだった。
煩わしいものは見なくて済んだ。
好きになれそうな人だけ探しに行った。
そしたら要らないと思うものまで増えていった。
自分だってどこか置いてきぼりでも構わなくなった。
見たいものだけ、好きなものだけ、見て、聞いていられた。
今まではそれでよかった。でも今は……
ほら、目を開けて?
本当はもっとたくさんの人がいたんだよ。
近くにいる人たちがすぐ側にいるよ。
望遠鏡なんて必要ない。
こんなにも近くて、肉眼ではっきりと見える。
怖がらないで、ちゃんと見て?
本当はみんな笑って迎えてくれるんだよ。
手を伸ばせば繋ぐことも抱きしめることもできる。
幸せなんてちっぽけでもいい、近くにだってあるんだ。
もっと気付いて?
自分らしさって思ってるよりたくさんあるよ。
見てくれてる人もいるよ。
ちゃんと好きでいてくれる人だってさ。
言葉がなくても分かり合える。
探さなくてもここに居る。
いつでも話ができる。
逃げなくてもいい、逸らさなくてもいい、
枠を超えなくてもいい、必死にならなくてもいい、
そんな世界を誰よりも望んでいたんだ。
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