吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㊶最終章3・エピローグ

前回の記事

最終回です。
これは魔法使い化の未来に抗った、アラサー童貞だった者の記録である。


筆者スペック

身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
読者に一言:今まで読んでくれてありがとう

賢しき夜明けと愚かなる数式

朝が来た。

寝息も聞こえないレベルでスヤスヤ寝入っている彼女の隣で、1時間おきに目が覚めていた俺は、死んだ顔で天井を見つめた。

全てが終わり、全てが始まった朝。

そして全てを出し切り賢者となった俺は、目の前の現実に思いを馳せる。

──…。

──……。

──………。

──まあ…こんなもんか…。

断じて飽きたとか萎えたとかではない。

今までの童貞へのコンプレックス、リア充への憎悪、女体への渇望、女性への願望、その全ての燃料を先の一戦で完全に使い切り、俺は一時燃え尽きてしまっていたらしい。

…かつて、俺はこんなことを思っていた。

「心を通わせた女性と、愛情を以て肌を重ねたい」

今になって思うのは、俺が真に欲していたものはそれですらなく、ただ「己にも心を通わせて、愛し合える女性がいる」事実そのものであったということだ。

正直その感覚が味わえるのなら、挿○はおろか○精さえ必要ではない。(いやヤれるならヤるにこしたことはないのだが…性欲と愛情が完全に直結しているわけではないので…)結局俺は愛情が欲しかったのだなあという…。

いや、これは愚かな賢者の戯言だ。過去の飢えた野良犬のような俺が今の俺を見たら、即座に八つ裂きにするだろうと確信が持てるくらいの発言をしている自覚はある。

が、事実として俺は辿り着いた。求めていた場所へ。それが思っていたより高い位置ではなく、求めていた景色とは微妙に違ったというだけの話である。

……

………

まあ、翌日俺の部屋に連れ込んでおっぱじめたんですけどね。

その翌週もおっぱじめたんですけどね。

いつか幻想が終わる日まで

童貞を失うための戦いは終わった。

だが、これで一件落着というわけではない。

これからは、失わないための戦いが始まるのである。

これまでは、セ○○スをするという至極単純な目標のために課題をクリアしていくだけでよかったのだが、今はもう違う。異なるジャンルのレベルに差がある大小無数のクエストが無尽蔵に発生するようになったのだ。

例を挙げるが、愛情表現に対する意識の差というものは、現時点でも割と顕在化している部分である。

彼女は、割と人前でもイチャイチャしたがるタイプだが、俺はその対極に位置している。

上記の際は、もうそうするしかなかったから覚悟を決めたが、その実俺は公衆の面前でハグやキスを積極的にしたいタイプではない。むしろ、人の目を憚らずにそういうことをしているカップルは品が無いと思ってしまう。

さすがにそんな直接的な表現は避けたが、彼女にも一応伝えていることではある。…あまり納得している様子ではなかったけれど。

まあこのように、異なる人生を送ってきた、異なる性別の二人が同じ行動をとりながら生きていくのだから、大小様々な差異に目がつくのはいたしかたないことである。そんな中で、お互いの考えをはっきりと示し、お互いに歩み寄れるようにすり合わせていくことが、付き合う上で肝要なのだろう。

一応断っておくが、俺は彼女が好きである。

だからこそ苦慮することもあるということだ。

とは言え、それを苦痛だとは思わない。

童貞を捨てることだけではなく、捨ててからも戦いだった。

ともすれば、生きること全てが戦いなのかもしれない。

だとしても、俺は前を向こう。

恋は盲目だというのなら、俺は一生全盲でいい。愛が呪いだというのなら、俺は一生呪われたままでいい。

この先に待ち受けるのが何だとしても。

今の幸せが全て幻想なのだとしても。

その幻想が終わる日が来るのだとしても。

何度でも戦い続けよう。

既に俺は、立ち上がり方を知っている。

今一度、地獄の壁をなぞる

改めて、職場のA子に童貞弄りをされてから、俺がどのような軌跡をたどったのか振り返っていこうと思う。

上記が童貞を捨てる595日前の話である。よくやったよ本当に。

ここで初めて女の子(ポメラニアン)とデートしたわけだ。で、最終的にサシで戦ったのは、記事にしていない女の子を含めると実に14名。デート回数の総計は23回。マッチングした数を数えても仕方がないのでまあアレとして、他にも街コンにも合コンにも恋活パーティーにも行きましたね…犠牲になった金は…もう考えたくないです…。間接的な費用を含めると何十万飛んだんだ…?それら全てが今のためにあったと思えば多少は溜飲が下がるというものですがね…。

とのアフターはデートに含まれるのかという話ではある。個人的ワーストがこの子である。

今になって思えば元カノのどこがよかったのかまるで理解できない。

アムウェイ女からは懲りずに飲みの誘いが来る。薄っぺらい御託を並べて。

繁忙期ド真ん中におっぱじめて過密デート組むの頭おかしいんか?

仮にカラコンと付き合えたとしても苦労したんだろうな…。自分がバチクソ美人だったからこそ相手にもビジュを求めるような人間だったわけで…。

アルピニスト、愛嬌あったし可愛かったし多分性格も悪くはない。(当時の俺はブチギレたけど

モノリッドは俺史上全一で可愛かったと思うが、惜しいという気持ちはもう無い。俺に矢印向けない受け身な女に興味はないので。ちなみに友人のハンドラー曰く、まだアプリに生息しているらしい。…笑っていいか?

メガトンのセ○○スの光景を覗いてみたい。デブすぎてマジで想像できない。よく考えたらなんで俺コイツと会ってたんだ?(冷静)まァコイツに撮らせた写真を載せた後に今の彼女と付き合ったので、陰の立役者といえばそう…なのか…??別に感謝はしていない。

姪御さん。他はともかく頭は良いのでどこかで上手くやるんじゃねえか。知らんけど。蓼食う虫も好き好きって言うからな。

リターニー。これから彼女との関係がどうなっていくかは、これからの俺次第だと思う。

幸運を。あまねく童貞に敬礼を。

こんなものは所詮ポジショントークに過ぎない。

結局のところ、俺が童貞を捨てることができたのは、たまたままともな家庭にたまたま(比較的)整った容姿で生まれて、たまたま良い友人に囲まれて、たまたま運とタイミングが良かったからであって、俺の努力はそういった下地のもとで積み上げていったものでしかないのだ。

今の俺が童貞たちに「こうすれば童貞を卒業できる」とか、「マッチングアプリで彼女を作る方法」のように、noteのみならず電子の海に跋扈している人らと同じようなことをする気はない。(この連載を読んでくださっている方の中にそういう類の人種がいることは知っているが、その上で敢えて言及させてもらおう。当該人物が感謝すべき読者であるということは、読者自身のパーソナリティを嫌いにならないというわけではないので)

だから、今の俺が童貞へ送るものは、啓蒙でもなければ詐欺でもない。

敬礼である。

俺は、28年と8ヶ月童貞であった。

それまでに学校、大学、バイト先、職場、業務提携先と、本当にありとあらゆる場所で童貞弄りをされてきた身である以上、俺は童貞を愚弄する気も無ければ、侮蔑する気も無い。向ける矛など、最初から持っていない。

時運と環境と機会に恵まれただけのくせに、それを自覚しない愚か者が、そうではない者を嘲笑い、踏みつけにし、尊厳を奪っていく。それがどれほど無知で、残酷で、悪意に満ちているかについて考えもせずに。

カタチだけは多様性を標榜する時代になったとはいえ、生物は生物である。誰がどれほど足掻こうが、その在り方を変えることはできない。本来の生物の流れから逸したものに対する風当たりは、未だ強いままだ。

だが。

「己が童貞である」という現実を前に、どう行動するかは童貞の自由だ。

「どうでもいいさ」と受け入れるのか。

「いい女がいないからだ」と目を逸らすのか。

それとも、「ふざけるな」と抗い続けるのか。

どのような選択を採ろうとも、俺は肯定も否定もしない。

ただ、どうか童貞である己を恥じないで欲しい。他者の戯言など気にする必要はない。童貞と非童貞に上も下もない。本当に己の望むもののために生きられれば、それでいいと俺は思う。

童貞がどんな人生を送り、どんな選択をして、どんな末路に行き着くか。

それは誰にも分からない。俺が何かしてやれることもない。

これは魔法使い化の未来に抗った、アラサー童貞だった者の”記録”でしかないからだ。この記録に読者諸兄の人生を変えるほどの力はないし、それができるほど俺に力があるとは自惚れてはいない。

だから、せめて。

幸運を。あまねく童貞に敬礼を。

同じ空の下に、かつて童貞である現実と戦った人間がいたということを、

どうか頭の片隅に置いておいてもらえれば幸いである。

~「吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。」 完~




この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?