吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉜ソロハラ編その2

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これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
テンションの上がった買い物:新しいラケット

登場人物紹介


大学時代の友人で、研究室の仲間。平和なヤツ。
恋活パーティーで作った彼女と同棲をしている。
モノリッド戦後、俺が怒りのあまり消息を絶ったため心配していた。

絵師
大学時代の友人で、研究室の仲間。
あだ名とかじゃなくて本当に絵を描いている。
結婚相談所で成婚退会し、奥さんと新居でイチャついている。
俺は未だコイツに中古のKindleしかプレゼントしていない。

犬も食わぬ童貞のプライドなど

メガトンとの2回目のデートの日、その前に何が入っていたのか?

……

………

読者諸君、覚えているだろうか。俺がモノリッドと出会う前の話である。

業務提携先の士業の先生の姪御さんを紹介された話だ。

当時、俺は「職場にこれ以上借りなんか作りたくねえ!」「マチアプと違ってイチからプロフィール聞かなきゃならんのがめんどくせえ!」「マチアプの子とデートのためにスケジュール空けとかなきゃだから入れられねえ!」とかなんとか言っていたが、姪御さんの連絡先自体は持っていた。

使うことはないだろうと思っていた。思っていたんだよ。(泣)しかしそれも、モノリッドとの関係が爆発四散したことで風向きが変わった。

…俺は重い腰をあげて姪御さんに連絡した。だが、1ヶ月以上塩漬けにしていたものだから、返事が返ってくればしめたもの程度の感覚だった。

それに、童貞のプライドなど犬も食わない。

……

………

返事は返ってきた。

今となっては、返ってこなくてもよかったというのが本音である。

電子の海と現実の山

姪御さんは31歳、元銀行員で、某大企業系列のIT企業にこの前転職したらしい。デジタルから逃げてアナログに転職した俺とは真逆の人生である。

一応、写真も持っていた。画質は悪いが、晴れた都心でBBQをしている。見る限り、穏やかそうな女性だなという印象であった。画質は悪いが。

件の姪御さんとの出会いは、辛うじてリアルの人間関係の中で生まれた側である。故に、電子の海の底の底、謂わば魔境とも呼べるマチアプで、砂漠の中から砂金を探すが如く戦い続けるよりは、ある程度安心・信頼できるだろうというのが社長・上司・後輩くん・その他友人の共通見解であった。

今となっては、親戚からの紹介ほど信用できないものはないとさえ思う。

……

………

モノリッドとの戦いが終わり、心は折れずとも魂がバーンアウトしていた俺は、これに対するモチベーションはお世辞にも高いとは言えなかった。無論、お付き合いしたいと思えれば儲けものという気持ちがないでもなかったが、残弾が消滅して暇になったから社長や先生への義理立てに動いたという要素の方が大きい。くだらないと言えばくだらないが…今後、我が社が業務提携先と上手くやっていけない理由が「俺」であっては断じてならない、と俺は思い直した。

俺「○○先生の姪御さん、今度会おうと思うんスよね」

社長「その話まだ続いてたの?」

え?

…とまあそういうわけで、この程度のテンションということもあって、(完全に自己都合なものの)姪御さんとは円滑なコミュニケーションを期待していた。これにコストをかける気には、申し訳ないが到底なれない。サクッと会ってサクッと解散。好感触ならワンチャン。そんな感じだった。

俺『軽くお茶でもしましょう!どのあたりがお出かけしやすいですか?僕は××に住んでます!』

姪御さん『○○線沿線です!』

──もうちょっとエリア絞ってくれよ…。あなたが会いたいって言ったのが事の発端なのに…。

そもそも住んでいる場所すら知らない。警戒しているのか?それにしたって限度がある。これは極論だが、○○線沿線と回答するということは、例えるなら品川と田端…いや、新宿と小田原、東京と熱海を同時に選択肢に存在させ続けているようなものである。ふざけろ。

一日半に一回程度のペースでしかLINEが返ってこないのに、その返答さえ酷く具体性と能動性に欠けるので、ただでさえ燃えカスしか残っていない俺の恋愛エネルギーが消え去りそうになる。

そこで思い立った。

──メガトンと同じ日と駅周辺にして、昼は姪御さん・夜はメガトンにすればいいんじゃねえの?

俺は、さほど熱量が高くない予定を先延ばしにするのが「傷つかないお笑い」を過剰に持て囃す連中よりも嫌いなので、一気に片付けることにした。

…どうして俺に彼女ができないのか、自分で答え合わせをしているような気がする…。

デッドラバーと梅雨の雲

俺は、初見の女の子相手では絶対に自分から声をかけたくないので、必ず女の子が来るよりも先に待ち合わせ場所にスタンバることにしている。…盛られてたら探しようがないし、「写真と違くね?」となった後に声をかけずに帰る選択肢を自ら封じているのだ。嘘である。ただ面倒なだけである。

──待ち合わせすら満足に出来ねえのか…?

シンプルに迷子になったのか、それとも俺と同じ思考だったのか、あれほど事細かに説明して場所の写真まで撮ったのに「分かりません笑」と返事が来た。「笑」じゃねーよオメエはよ。

この日の俺は全体的に機嫌が悪かったのだと思いたい。

……

………

姪御さんは身長が俺よりも高かった。
多分173cmくらい。

いやそれは別にいい。というかそこに関してジャッジをするのは俺ではなく姪御さんの方なので俺がとやかく言うことではない。俺?好きだよ高身長女子。アプリの高身長女に相手はされねえけどな。

問題はそこではない。

──何年前の写真だったんだあれ?それとも画質が粗くて分からないだけか?

実物は…おーん。顎ちょいタプっとしておりまするわね。2重とまではいかずとも、1.5重くらいのもちもち顎である。安西先生…恋愛がしたいです…。

そして、「穏やかそうな」という言葉は姪御さんには必要なかったらしい。

……

………

カフェに入った。

姪御さんの頼みたいものを聞き出し、俺がカウンターで注文する。カフェで別会計になるのもスマートではないので、俺がまとめて支払って、後で徴収しようと思っていた。思っていた、のだが…。

姪御さん「ありがとうございます。ご馳走になっちゃって」

俺「…!?…いいえ~」

姪御さんはあろうことか、財布を出す素振りさえ見せなかったのである。

姪御さんは31歳。俺より2~3歳上である。いや常識的に考えて、姪御さんが歳上だろうとそうでなかろうと、自分が飲み食らう分の金を人に出されたのなら、一度は自分の分を出そうとするパフォーマンスくらいはすべきだろう。無職ならまだ話は違うかもしれんが、多分アンタの方が稼いでるよ。しかも俺は奢るつもりなど微塵も無かったので、もはやお話にすらならない。しかしまあ…誠に遺憾だが、先んじて俺が奢ったことにされてしまった以上、後からそれを撤回する気にもならなかった。渋々席に座る。

……

………

──お、おもんねえ…。

こういう場合、楽しませるのはむしろ女の子ではなく男のロールだとされがちだし、実際に俺もそう思っている。ただ、男は女を楽しませて然るべきだと思っているような姫思考の「当たり前女子」は撲滅すべきだとも思う。

そういった諸々を差し引いてもおもんない。相手は銀行員からシステムエンジニア、俺はシステムエンジニアから税金関係という職業事情であることから、ある程度お互いの業界について理解しており話もできる。良い大学出たんだろうな、いっぱい稼いできたんだろうな、と知性と能力を感じさせるような言動も端々から感じ取れる。

だからなんだってんだ。

何が悲しくて休日に女とNVIDIAの株の話しなきゃなんねーんだよ!!

何で俺がお前の喋ってることを全部知ってる前提で話が進むんだよ!!

何でずっと目線外して喋ってんだよ!!

何で意思決定を全部俺に委ねてくるんだよ!!

何でお前が聞きたがってることを俺が店員さんに聞かなきゃなんねーんだよ!!

貴様は今日初めて人里に降りてきたのか!?!?!?

実際、この出会いは、姪御さんにとっても義務感マシマシであった可能性は高い。叔母の仕事の付き合いで一緒になった相手。「会いたくない」とは言いづらい状態ではあるだろう。(まあ、忙しいとか今は恋愛はいいとか、迂遠な断り方はいくらでもあったとは思うが)

俺が姪御さんにとって魅力的な男性ではなかったセンも否定はできない。なんせ自分より身長の低い男だ。俺には、「食指が動かなかったからこんなノリだったのだ」と言われたら閉口せざるを得ない程度のステータスしかない。

それに、俺とてハナから半ば消化試合のつもりで臨んだ。だがこれはいくらなんでもあんまりだろう!?マチアプの女の子の方がよっぽどマシだったぞ!?

しかし、早く帰りたがっているのかと思えば、いつまで経ってもドリンクを飲み切らない。意味が分からない。焦れに焦れ、悠久とも言える地獄を耐え、ついに終焉の時は来た。

一応お礼…というか、社交辞令のLINEは送った。

俺「今日はありがとうございました!都合があえばまたお話ししましょう!」

姪御さん「ぜひお願いします!来月は忙しくて予定が空かなさそうなのですが…」

知ったことか。

俺は疲労困憊しながらメガトンとの戦いに向かった。

一兎も得ず虻蜂取らず

後日。

俺「その姪御さんがさあ、財布を出す素振りすら見せなくてさあ。出してくれてありがとうございます!ってさあ。一言も奢るなんて言ってねーわ」

鳩「そこそんなに目くじら立てることか…?」

絵師「慣れてなかっただけなんじゃないの?」

絵師の嫁「もう30代ですよねその人?30越えて歳下にお金出されて、自分も出すって発想にならないのがもうヤバイですよ。仮に奢られて当然だと思っていても、パフォーマンスとして素振りくらいは見せるのが礼儀ってものじゃないんですかね?仮に相手に脈を感じていなくても、それは誰に対してもすべきですよ。そんなこともできないからずっと独身なんですねえ

俺「…でしょー!?ほれ見たことか!これは女子の中でも常識なんですー!!絵師!お前この子大事にしろよマジで!!」

──いくらなんでも火力高すぎないか?

自分以外が火力を出すとちょっと日和るのが俺のダサいところである。

……

………

「知人の紹介で知り合う」というのは、マチアプよりは安全だ。それは事実ではあるだろう。

だが、ここでいう「安全」とは、製造元が公開されているというただその一点に対する評価であり、品質が保証されているわけではない。ましてや、その紹介元が「職場の人」でも「友人」でもなく「親戚」となれば、品質に関して太鼓判など押せるはずもない。どちらも同じように最低保証の無いソシャゲの闇鍋の如しというなら…後腐れないアプリの方がコスパ高くね?

「そういうことは彼女作って一人でも抱いてから言ってみろ」という正論はやめていただきたい。ともかく、一日に二度のデートをして両方ともハズレとなってしまった俺は、失意のままにマチアプ村に帰っていったのであった。

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


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