吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉒ソロハラ編その1

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これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160後半
体型:ギリギリ普通
学歴:私立文系
職業:税金関係
スポーツ経験:バドミントン、水泳
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
GW明け:メンタルが終わりすぎて仕事にならない

ソロハラってなんだ?

ソロハラとは、ソロ・ハラスメントの略であり、すなわち我々のような異常独身男性などの独りモンに向けられるハラスメント行為である。未婚であることをからかったり責めたりすることをそう呼ぶ。

ケツアナゴ寿司こと俺は、もはやそれが日常化しすぎて今さら被害者ヅラして騒ぎたてる気も起きないくらいには、今までの人生でソロハラを受け続けてきた。

多様性や〇〇ハラスメントという言葉が使われるようになって久しい。多くの企業はそういうものに敏感になっている(と、俺は信じたい)が、中小零細のワンマンで、上が昭和のカビ臭さを漂わせているとその濁流に飲み込まれてしまうというのが現状であろう。

断っておくが、我が社長は募集もかけてないのに社会不適合者の俺を拾ってくれた人であるし、食事に行けば必ず奢ってくれる。俺はやらかしまくっていて正直頭が上がらない。可能な限り従業員の頑張りや手柄は従業員に還元しようと努力してくれるし、話も聞いてくれる。そして何より士業であるから能力も高い。感謝してもしきれないくらい大恩人で、尊敬してもしきれないくらいには遥か高みにいる人間であることも事実。

ただ、それと同じくらい殺したい時があるだけだ。

本人なりに何がハラスメントになるか気を遣いながら、がんじがらめの息苦しい令和の世で若者相手に綱渡りをしようとしているのは接していて分かる。悪意を以て俺に接しているわけではないというのは理解できる。彼は彼なりに俺と距離を縮めたいのだろうよ。

ただ、悪気がないで済むなら警察はいらねえ。

「育休取得で認定企業だ。ケツアナゴも早く育休取れよ~」

「人を好きになったこととかないの?それとも男が好き?まあ全然それでもいいと思うよ。偏見とかないし」

「ケツアナゴって『飲み会であったことなんて覚えてないっすよ』とか言いながら一言一句覚えてそうだし気に入らないことあったらずっと根に持ってそうなんだよ」

よく分かってるじゃねえか。

ソロハラの先に

ある日。

業務提携先との懇親会。たまたま俺がいたのでついでに召集されることに。

相手も士業の先生方、上司も士業なので俺以外全員士業というなんだか非常にやりづらい空間。若いのも俺だけ。

そんな折。

俺「…(沈黙)」

上司「どうしたのケツアナゴくん、酔った?大丈夫?」

酔っ払い俺「いや…息子娘の話でしょう?私が混ざる余地なんてないじゃないですか」

先生方「?」

社長「あー、ケツアナゴはこのナリで独りモンなんで…」

酔っ払い俺「ほらねえ!聞いてくださいよォ先生方!この人私に日常的にソロハラするんですよ!」

社長「え、なんだよソロハラって」

酔っ払い俺「独りモンいじめのことですわァ!!」

と、いつものように内心泣きながら愉快なノリを演出してやっていた(後輩くん曰く”ダークケツアナゴ状態”)ところに。

先生「私の親戚もケツアナゴさんくらいの歳で独り身なんですよ。出会いが欲しいって言ってて。紹介しましょうか?

俺・上司・社長「……ゑ?」

ちょっと待て、なんだこの流れは。

ソロハラで得るもの

気づいたら先生に撮られ、その親戚の女性に写真が送られてしまった。

ほどなくして返事が来た。「会ってみたい」だそうだ。

親戚の女性は俺より歳上の30代前半。大企業勤めの穏やかそうな才媛である。

童貞の俺はほんの一瞬だけ燃えそうになったが、急速に冷凍された。

俺は思った。酒の席での”そういう話”ほど信用する価値のないものはない。どうせその場のノリか、あるいは社交辞令か、そんなところだろう。先生としても”こちら側”の俺を適当に煽てて媚びを売っておけば、社長からの覚えもよくなると踏んで…いやこれはさすがに考え過ぎだろうか。しかしまあ、女性の方も先生の顔を立てて会いたいと言ってあげているのだろう、先生が一人で盛り上がってるだけの可能性もある、と。童貞の猜疑心をなめてはいけない。そう簡単に俺の心の氷は解けんぞ。

…そんなこんなで適当にその場をやり過ごし、週明け。

出勤し、PCを起動、メールボックスを確認。一件のメールを受信。

先生『先日はありがとうございました。ところで親戚の件はいかがいたしましょうか?向こうは会いたがっているようですが…

俺「ええ…」

上司「…まあ、うん、あとは任せた(肩ポン)」

社長「おもろ」

おもろじゃねえよ。

怠惰、独り者のプライド、その残り火

結論から言えば、俺は会わないことを選択した。

理由は三つある。

①死ぬほど面倒だった

普通に面倒じゃない?しがらみのある出会いって。

…いや、誰かがお膳立てしてくれるという機会は非常に貴重なものだし、加えて相手が本当に乗り気ならなおのこと貴重なことだろう。

他人の紹介、という「誰かからのお墨付きが付いている」異性と出会うというのは、地獄インターネットの電子の海で彷徨い、どこの馬の骨とも知れない(おまいう案件だが)人間に金と時間を使うよりは有意義ではあるだろう。

だが、これが地獄インターネットと違うのは、相手が俺について知っていることは年齢と見た目だけということだ。

先生がその女性に送ったのは「俺が座っている写真」だ。身長は不明。

年収なんて言ってない。それに対して相手は、日本人なら絶対に全員知っているであろう超大手の大企業勤め。

30を越えて、それなり以上に覚悟を持って真剣に婚活を考えている女性相手に、アプリのようにプロフィールを参照させるでもなく自ら年収を開示するのもかなり気後れする。それが某企業勤め相手なら尚更である。

趣味なんて言ってない。相手の趣味も知らない。何を話題にすりゃいいの?ぶっちゃけ旅行とか年一回くらいでよくね系男子だし、なんならずっと家にいても苦じゃないヤドカリ系男子の俺が、仮にド級のアクティブキラキラ日常系と対面した場合、物理的に蒸発する可能性がある。

つまるところ、アプリ以上に、お互いに「思ってたのと違った…」となる可能性が高いということだ。

まあなんというか、不自然な出会いコンテンツに毒されすぎた弱者男性の俺は、色々総括して面倒臭くなったのである…。

②ソロハラに屈する気がしたから

おまえは何を言っているんだ(ミルコ・クロコップ)

…後日別の業務提携先との会食で、社長が”この件”をくっちゃべりやがった。

俺は童貞であること(が因縁のA子にバラされたこ)と、普段の業務におけるやらかし具合も相まってすっかり社内のオモチャと化している。

社長は経営者として、恐らく本心で俺の恋路?の行く末を気にしているのだろうが、それ以上にオモチャとして面白がっていることは疑いようもないのである。

この俺が、この俺様が、その境遇をいつまでも受け入れると思うか…?

20余年、すっかり踏みにじられた俺のプライドの残り火が、

変なタイミングで再び燃え上ってしまったのだ。

その女性に出会うことで、事態がどう転ぶかについては会ってみないと分からない。

無事カップルが成立するかもしれない。童貞を卒業するかもしれない。そのまま幸せな人生を送るかもしれない。

何も起こらないかもしれない。失望のままその場を去るのかもしれない。あるいは燃えるような恋をして、それに無慈悲に水をかけられて泣くのかもしれない。

ただし、分かることが一つある。

どう転んでも俺は職場のさらなるオモチャ化を免れ得ないということだ。

それだけは、たったそれだけは童貞のまま死んだとしても御免だったのだ。

因縁のA子がデキ婚で退職しても、それは変わらない。

俺は職場にこれ以上借りなど作りたくないし、面白がるネタを提供したくもない。

…かつて、仕事に関する姿勢について、社長とこんなやり取りをした。

社長「ケツアナゴって、なんでも自力でやろうとするよな。全然頼っていいんだぞ。なんか自覚が無いだけでめちゃくちゃプライド高いんだもんな…」

俺「えー、私プライド高くなんかないッスけど…」

大嘘である。

③そもそも会ってる暇がねえ

そろそろオチを用意しようと思うんですよ。

アプリの女の子との予定が詰まってて、会う余裕がないんですね。

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。

……

………

ん?

「その1」?


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