吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉛マッチングアプリ編その14

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これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
密かに思っていること:iPhoneに戻したくなってきた

登場人物紹介

メガトン(29)
前回マッチングした女の子。悪い人ではない。清潔感もある。
が、如何せん太すぎて俺のオブラートを突き破った。

ラウンド2:髪だけナドレにされたとて

メガトン戦から一週間後。

俺はデートの提案を再び承諾した。

…断っておくが、遊びではない。せっかく誘ってきてくれたわけだし。他の子とのデートが昼にあるから夜デートを同じ駅周辺でできたらなお良しだよねとか思ってたわけではない。どうせ一日潰れるなら用事は一度にまとめた方がお得だよねとか思ってたわけではない。断じてそんなことは思ってない。

…いや、思っていたとてそれがなんだ?(開き直り)全く付き合う気がないなら俺はメガトンに会ったりしない。実際、証券の営業ができる人間がコミュ障であるはずもなければ馬鹿であるはずもなく、俺よりずっと優秀だ。俺が税金関係の仕事に就いていて、かつFPの資格を持っているため株や投信の話が少しだけできるから、なんとか同じ土俵に立っているように見えるだけである。しかも姫思考でない。尊敬に値する女性であることは確かで、太さはともかく割と気に入っていた部分はある。(少なくとも前回は)

俺とて真面目にメガトンに向き合っている。

メガトン『ケツアナゴ(筆者)(呼び捨て…)の人生の目的って何?』

俺『今まで俺によくしてくれた人…まあ友達とか親とかに”ケツアナゴによくしてよかった”と思ってもらえるような人になるため、とか?』

LINEで飛んできたよう分からん質問に律儀に答える程度には真面目である。

メ『ねえこんな質問にちゃんと答えてくれる!!そういうとこ好き!!』

俺『うん、ありがと笑』

真面目である。

……

………

人生で初めてサムギョプサルを食べた。

山ほどマッコリを飲んだ。

俺「友達に”お前はアプリの女の子ひとりひとりに真面目に向き合いすぎ”って言われてさぁ」

飲みすぎだボケ。

マッコリ美味しいからね、しょうがないね。

メ「私はケツアナゴくらいちゃんと向き合ってくれてる方がいいと思うけどなあ イケメンで真面目って最高じゃない?

俺「ありがとう。気を遣い過ぎちゃうのがダメってことなんだよね。俺って結構気にしいだからさ。けど、メガトンさんにはあんまり緊張しないで済んでるかも。メガトンさんと一緒にいると楽しいし。何でも話せちゃうや」

飲みすぎだボケ。

メ「…うん」

俺「?」

若干の間を置いて、メガトンがモジモジしながら俺に問いを投げかけた。

メ「ところでさ、あのさ、髪ちょっと染めてみたんだけど…どう?」

──…。

──……。

──………。

──は?

ほの暗い韓国料理屋の中でメガトンを見る。確かに、微妙に赤みがかった…メッシュとはまた違うような…部分的に髪が染まっているようだが。

いや、ちょっと待って欲しい。前の髪色は何色だったっけ?

元カノのネイルの色が青から水色になった時は気づいたのに、もっと分かりそうな髪色の変化にまるで注意が向いていない。

俺「…ん?」

メ「部分だけ赤くしてみたんだよね」

答え合わせをさせた時点で大体詰んでいるような気がする。

そしてそれに危惧感をさして覚えなかった時点で、既に結末は見えていた。

メガトンが持っている、「肥満である」という容量の大きい視覚情報が俺のシナプスでスタックを起こして、それ以上の見た目に関する褒めポイントが全く処理できていない。

俺自身こうなるまで自覚しえなかったことだが、メガトンは俺の定義する「最低限の見た目」の範疇ではどうやらなかったらしい。

残念ながら、ヴァーチェが髪だけナドレになってもヴァーチェだ。

ガンダムヴァーチェの装甲をパージするとナドレになる。

俺「…い、いいんじゃない?似合ってるよ」

必死に絞り出した誉め言葉。逆に言えば、そうまでしなければ褒められなかったということ。本心では何も感じていないということである。

──ごめんよ。どうやら俺は、髪を染めるより先に、まずあなたに痩せてほしいらしいんだ。

こんな俺のワガママに付き合う必要はない。メガトンはメガトンできっと他の誰かが幸せにしてくれるはずさ。

……

………

メ「ケツアナゴって細くて羨ましいね」

俺「大したことないよ。運動そんなしてないし」

メ「私もジム行こうとしたんだけどすぐやめちゃった。運動嫌いだし面倒くさいんだもん

そして、この一言があまりにも致命的だった。

俺「…まあ、無理にやらんでもいいんじゃない?」

メ「でもなあ、ちょっと太いよねえ、私って」

俺「…」

先ほども言ったが、俺はメガトンに真面目に向き合っている。

故に、「そんなことないよ」とは言えなかった。

外見は内面の一番外側

…厳しい言葉だと思う。だが、生来の造形や美醜をこの論理に当てはめることさえしなければ、これは紛れもなく事実であるとも俺は思う。

体質や病気、薬の副作用で、抗いようもなくふくよかになってしまうことはある。もちろん、そこを咎めるつもりはない。

だから、致命的だったのはメガトンが太っていることそのものではない。メガトンが「太っている自覚がある」上で「ジムに行こうとしたんだけどすぐにやめた」と言ったということは、メガトンにとって肥満とは努力して改善できるポイントだったという点である。

今の俺が外見については(強調)概ね高評価を貰えるようになったのは、ひとえに俺が努力したからだ。適当な短髪をやめて伸ばし、眼鏡をコンタクトに変え、美容院に通いパーマをあて髪をセットし、ゲジゲジ眉毛をサロンに通って整え、朝と夜の洗顔後には必ず化粧水と乳液を塗ってスキンケアを徹底、爪を切る時に表面をみがいて甘皮をプッシュしネイルケアオイルを塗り、体毛・指毛・顔の産毛をこまめに剃り、デートの時はBBクリームを塗って綺麗に見せている。服だって割と頑張って選んでいるのだ。


…明確に直すべき欠点があってかつそれを欠点だと自覚しているのに、そこから目を背けた上で自分のことを好いてくれる人を求めているだぁ!?自分なりのこだわりを持って生きている人が好きだぁ!?真面目で誠実そうで知的でカッコいい男が好きだぁ!?自分の価値を高く見積もりすぎだろデブ!!テメエはまずダイエットにこだわれよ!!壁一面に姿見を置け!!

俺のイケメンはなあ!!砂上の楼閣なんだよ!!必死になって維持してんの!!己の老いに抗いながら!!必死に!!

「外見は内面の一番外側」。この言葉のように、メガトンのX軸の占有率は、己の怠惰な精神性が表出した結果である(断言)。不摂生による肥満化の自覚があってなお生活習慣を改善する気力も運動する気概もない。ありのままの自分を愛してくれる人は素敵だと思うが、それを他人に要求するのは筋が通らないだろうよ。

メガトンは、萎え切っている俺をよそに、肉ばかり貪り喰らっていた。

メ「…そっか~。元カノには酷い振られ方したんだね~」

俺「別にもうどうでもいいよ。俺って、自分に気持ちが向いてないって分かったら直前までどんなに好きでも一瞬で冷めるんだよね」

解散後しばらくして、メガトンから連絡は来なくなった。気持ちが向いてないのを察したのだろう。

自信と客観のバランスの難しさ

自己評価が低すぎる人間と一緒にいてもエネルギーを吸い取られるだけだが、「お前よくそのナリでそんな調子づいたこと言えたね?」みたいな人もなかなかに香ばしい。ただまあ、俺…低年収低学歴低身長のアラサー童貞の突出したストロングポイントが見た目しかないというのも、かなり問題であることは間違いない。明日は我が身である。日々反省し続けなければ。

こんな上から目線の批評を書いている時点で中身なんて腐りきっているが。

……

………

一つ弁明させてもらうと、冒頭で言及したように、俺はメガトンとの2回目のデートの前に別のデートがあった。

それも中々に終わっていたので元々テンションが低かったのだ。

どういうことか?次回をご覧いただこう。

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


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