吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。⑳マッチングアプリ編その5

前回の記事

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160後半
体型:ギリギリ普通
学歴:私立文系
職業:税金関係
スポーツ経験:バドミントン、水泳
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
中学生の頃の夢:ライトノベル作家

登場人物紹介

ベビー
たまたま俺に彼女できた報告をしたばっかりに、今に至るまで俺の無能童貞恋愛相談を受け続けているかわいそうな童顔の友人。ドラゴンボールGTには出ていない。圧倒的な恋愛強者でもあり、俺を本格的に恋愛戦場に引きずりこんだ元凶の一人でもある。彼が出てきた最後の記事は以下。

其れが湿気った火打石でも

気づいたら20記事目になってしまった。恥ずかしいことだ。

前回、鈍色に輝きだした地獄の星は、縁を目指して手を伸ばし始めた。

相手が俺を好きかどうかの前に、まず俺が相手を好きかどうかがこの戦いの真髄であることを悟った。それまでの俺は恋愛をしていたわけではなく、ただ彼女を作ろうとしていただけに過ぎなかったのだ。

一年以上の時を経て、ようやく恋愛戦場は劣等感と反骨心だけでは戦っていけないことに気づいた俺は、自分からフイにした出会いと、相手にフイにされた出会いの苦い記憶をダストシュートに蹴り込み、心機一転新たな戦いに臨むことにした。

戦場は変わらず。依然マッチングアプリ(タップル)である。

失礼すぎる言い方をすれば、石9割の玉石混交の掃きだめのような場所で、俺が心底好きになれる相手に出会えるのかという疑念はある。そういう相手と繋がれるのか、繋がれたとしてフェードアウトしてしまうのではという疑念と、義理も筋も通せないような相手に対する邪念もある。

依然終わりは見えない。だが、俄然やる気は出てきた。

…此処に在るのは湿気った火打石だけだ。

挫折と諦観の果てに湿ってしまった、己の魂の火付け役。

乾く気配はまだない。

ならば己の命を燃やせ。

我が身を燃やし、万象を焦がし、己の魂に火を灯せ。

童貞、油を被る

店予約して顔出し通話までしたのにブロックされてブチギレ、なんてこともままあったが、それがマチアプの常なので何日も引きずるわけにもいかず。

そんなこんなで切り替え、切られを繰り返しているうちにマッチング。

もうマッチングした程度では何の感情も湧かなくなってきたのは良いのか悪いのか…。

今回の女の子のことは、アルピニスト(28)と呼称しよう。趣味が登山らしいからな。

なんやかんやトントン拍子で会うことが決まり、「会う前に一度電話したい」との要望が。

「会う前の電話はドタキャン率を減らせる」とは誰かの言だが、会う前に電話して顔出して尚切られた身としては全く信用ならない。だが、会った時のミスマッチを減らせるというのは確か…のはずだ。俺は二つ返事で了承した。

アルピニストはよく喋りゲラな子だった。俺は時折相手と自分の常識・知識の違いに差を感じながらも、別にそこは大した問題ではないと捨て置き、二度も2時間程度の通話を経て、具体的に会う場所、お店を選び、当日まで眠れぬ夜を過ごしたのであった。

……

………

悲しいことに俺は根っからの童貞なので、会う前からストレスなく円滑にコミュニケーションが取れて受け身すぎない子であれば既に若干好きである。

だが、そういう気持ちに蓋をして、どうやって相手に俺を好きにさせるか、相手が俺のことを好きかどうかばかりを気にしていたから今までの失敗があったのではないかと思った俺は…我が身を燃やすために油を被った。

さあ、燃え上がる準備はできている。
好きになる準備はできているぞ!!

歪んだ時空を正したら

既に電話で声を聞いているとはいえ、やはり初対面。初顔合わせは何度やっても緊張する。

俺は必ず女の子を待ちたいので早めに到着することにしている。初見の女の子を探すのが苦手…いや、写真が盛られてたら探しようがないからだ。

──「snowで盛ってるのであんまり期待しないでね」とか言ってたっけ。盛った上でアレなら…。

今さら考えても詮無きことだ。覚悟を決めるしかない。

しばらくしたら、少し緊張した様子の女の子がこっちにやってきて、こっちに向かって手を振っている。

──アルピニストさんはまだかなぁ。

女の子が目の前までやってきた。

「こんにちは~!」

──ん?

そこにいたのは、アルピニストであった。まさかの逆パネマジ

カテゴリー的には可愛い系である。シンプルにビジュアルが良いというよりは、愛嬌があって可愛らしいといった具合。キモオタの残滓が未だ俺にこびりついている。似ている著名人を敢えてあげるのなら、声優の大橋彩香だろうか?一番可愛かった頃の。(殴られるぞ)

やはり理解できない。どれだけ偽ったところでお見えになるのが盛れていないご尊顔なら、時空を歪めたとしても意味ないのでは…?

……

………

アルピニストとは人気のお店でディナーをした。

おい、相手の胃袋のキャパも分からないのにコースにするな。

仮に相手が嫌で逃げようと思ってもコースだと逃げられない。ましてや、出された飯を残すことが〇人の次に重い罪とされるような家で育った俺のような男の場合、女の子がギブアップした物全てを腹にぶちこんで無事死亡する羽目になるので注意だ。反省。

ノリは電話で分かっていたので、話自体はそれなりに盛り上がった…と思う。そして、笑顔が可愛かった。それでゲラなのだからお得極まる。

特に何の葛藤もなく奢って、店を出る。

すると。

アルピニスト「何か飲み物ご馳走するよ~。何が飲みたい?」
俺「え?う~ん、水でいいよ

この空前絶後、驚天動地の愚か者が。”カフェでも入ろう”って意味だろそれは。

邪智暴虐ならぬ無知蒙昧の糞味噌の童貞は、相手の財布が最大限痛まないことただそれだけを考えて水と回答してしまった。まあ、結局カフェに入ったのだが。

俺「会った時から思ってたけど、写真よりずっと可愛いと思うよ」
ア「ありがとう…そんな…まじまじと言われるとさすがに照れるよ…」

はい、好き。

せっかく褒めてんだもん、やっぱそういう反応が欲しいわけよ男は。カラコンは言われ慣れてる感じあったもんな。詳細は以下を参照。

やはり話はそれなりに盛り上がった…と思う。何より、笑顔が可愛かった。それでゲラなのだから本当に楽しい。

あっという間に時間が過ぎ、解散の時。

この期に及んで最寄り駅を開示しないアルピニストに少し引っ掛かりを覚えつつも、俺は次も会いたい旨を伝えた。開拓したい店があるのだ。

ここまで楽しい時間を過ごせたのだから、無理と言うことはないだろう。

アルピニスト「土日のどっちかは空くから、分かったら連絡するね!」

…あれ?

地獄の底が抜ける音が聞こえたような気がするが、これは幻聴か?

それは”永遠に分からない”という前振りではないのか?

…"それ"で済めばよかったのだ。今思えば。

童貞、油を拭かれる

危惧していた通り、アルピニストの土日が両方埋まった。

諦めきれずに惨めにリスケの提案をする。

「来週なら会える」という回答を貰う。一縷の希望を抱く。

だが、俺をその辺の童貞と一緒にするな。相手からリスケの提案がなかったし、一度「実家の手伝い」と「俺とのデート」が天秤にかけられた挙句俺が負けた以上、そこまで相手が乗り気でないことくらい分かる。

案の定、しばらくして「やっぱり会うの無しでいいかな。ごめんね」という死刑宣告が下った。

…。

……。

………。

俺「対面で断りづらいなら帰った直後にブロックでもなんでもしとけよマジで〇ねよ〇ソ女がよおおおおおおおおどいつもこいつも無駄な時間使わせやがってよおおおおおおおおおおおおおおおもおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(深夜の鉄筋コンクリート造で絶叫)」

…。

……。

………。

俺「よし、次行くか」

既読もつけずにブロックして、アルピニストとの関係は終わった。

徹底検証:俺の何がダメだったのか

一体何がいけなかったのだろう?

ベビー「こうまで不作だと本当にお前に致命的な問題があるような気がしてきた。今度録音でも取ってきてくんない?」
俺「匙を投げるな」
ベビー「まあ運とかタイミングもあるからな。他に良い男がいたのかもしれんし、あんま深く考えてもそれこそ時間の無駄だから。てかいい加減そろそろ飽きたわ

一年もこんなやり取りしてりゃそりゃそうなるだろうな。

確かに反省しすぎも時間の無駄だろうが、反省しないのも時間の無駄な気がする。人は意味を求めたがる生き物だ。特に現代人は。特に男は。特に童貞は。俺はアルピニストとの出会いが、今後の出会いをより良いものにしていくために必要な、意味ある経験であったと自分で納得したいがために、エヴァ最終回のシンジくんの如く己の内にこもって思考を始めた。

①ウケた話を無限に擦り続けた

一発屋芸人かテメエは。クマムシ(芸人)未満だぞ。

俺は人と関わることそれ自体を楽しめる人間ではないし、大して面白い話もできない。それ故僅かな成功体験に縋ってしまった。さすがにくどかったろう。

②共通のトピックは多いが、共通の”アツい”トピックはない

これは仕方ない気もするが…

③身長が低い

これはもっと仕方ない気がするが…

④相手の常識・知識・語彙レベルに俺が合わせにいけなかった

俺は学歴厨ではない。そも私文のFランが偉そうに何かを言うこと自体おこがましいとは思うし、相手を責めようという気には全くならない。だが一方で、やはり全体的な水準として大卒とそうでない人の”差”は存在するというのも俺の持論である。

ただ、旧帝卒の父と短大卒の母の下で育ってきた割には、”そういう部分”の合わせ方というか寄り添い方のノウハウが俺には無かったように思う。”分からない人に分かるように話す能力”の欠如である。ちょくちょく謎の間や会話が噛み合わない瞬間があったりしたのはそれ故だ。

東大卒の幼馴染と特に学術的な話をしているわけではないのに、圧倒的な教養というか、常識や知識の”差”を感じたことがある。それと似たような感覚をアルピニストに味わわせてしまったのではないか?ボブは訝しんだ。

まあ、ここは恋愛に関わらず普通に俺が改善すべき部分ではあるだろう。

⑤やはり自分に自信が無い

これが一番大きいと思う。

「それまでの恋愛遍歴」の話になったときに、俺はギョーザとかいう元カノと呼称する以外にない存在の話しかできない。薄っぺらいのだ。恋愛人生密度(造語)が。
それ以前の人生は9割9分チー牛であったので、俺の過去を語ろうとすると必然的にチー牛がカットインしてくる。とはいえ多少なりとも誤魔化せばよかったものを、生来のクソ真面目さが邪魔をして、「俺は過去ジェラードンのアタック西本のような髪形でフレームの太い眼鏡をかけた彼女できたことも無い陰キャであった」という話までつまびらかにしてしまう。自分の過去の写真と共に。誰に要求されたわけでもないのに。

そりゃ「別人みたいだね」と言う他なかろう。その反応を期待してやっているわけで。

そんな魂胆でそんな行動に出られて、やられた側はどんな気持ちになるだろう?

「こいつの本性はキモイチー牛なのだ」か?

それとも、「今の自分は自分でもカッコいいと思ってるナルシストなのだ」か?

どちらにせよ悪手なことに変わりはなかろう。もしどちらでもなく、純粋に尊敬の念を女の子が俺に抱くのだとしても、デートはどこかのメンズコーチの動画ではない。俺の見た目の変遷を見せつけて、誰かを元気づける必要などどこにもないのだ。まあその可能性は相当低いだろうが。

馬鹿なことに、俺は今まで出会って来た女性全てにこれをやってきてしまっていた。気づくのが遅すぎたのだ。

結局、どれほど努力してどれほど自分を磨いても、童貞コンプレックスは魂にこびり付いたままだ。

だが、自覚があるだけマシだ。倒すべき敵はもう見えているのだから。

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


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