吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉞マッチングアプリ編その15

前回の記事

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
恐らく叶わないであろうシチュエーション:家でクソ映画を酒飲みながら2人で鑑賞中、途中で「これつまんないね…♡」と迫ってきた彼女に、酔っぱらっているため何も抵抗できずそのままめちゃくちゃに射○させられたい

空を仰ぐ鈍色の星

この戦いを始めてから、どれだけの時が経っただろう…。

最近キャプション芸を覚えた。

もうすぐ半年だぞ。

一応、withとOmiaiの運営会社のnote的には、マチアプで彼女ができる平均期間は4ヶ月ほどであるらしい。

長すぎ…では…ないのか?一応…。

ちなみに、彼女ができて退会した人は平均63人とマッチングしていたらしい。確実にそいつは既に上回っているな。

誇らしいことでもなんでもねーよ。チャラ男メンタルをインストールしようが、人生の軸を恋愛にしなかろうが、俺はマチアプゾンビとなり女の子を探し求める行為そのものを楽しめるようなマゾヒストではない。

どこまでいっても苦行は苦行である。

それを苦痛と思わなくなったのは、ただ心が麻痺しているだけだ。

単に慣れたんだよ。痛みと、徒労感に。

学びは多い。得るものはある。さすがに目を合わせて堂々と会話できるようになった。お店のレパートリーは着実に増えていっている。…逆に言えば、それだけだ。

どこまでいっても地獄は地獄である。

犯した罪があるとすれば、それはもっと若い年齢から、もっと沢山傷つこうとしなかったことだろうか。早い段階で能動的に行動しなかったことのツケを、今になって俺は払う羽目になっている。

獄卒に嬲られ、悶え苦しむ罪人の如く。

俺は今日も今日とて地獄で指を走らせる。

確かに、依然惨めな気分には変わりない。けれども、下を見ても何もない。

ゆえに、鈍色の星は空を仰ぐ。

視線の先。月は出ていない。

だが…。

遥か彼方に見えるもの

俺がメガトンとの2度目のデートを承諾したのには、「メガトン自体を見極めようとした」以外にも理由がある。

それは、「予定が合わず、他の子とのデートを取り付けられなかったから」だ。

どういうことか?…つまり、まだ持ち駒はあったのだ。

それが今回の、リターニー(31)である。Returnee(帰国子女)。

日本には、海外かぶれの女性を指す「ポカホンタス女」という蔑称がある。ポカホンタス女は往々にして海外至上主義で、何かとつけて日本をsageる、そしてそんな自分を発信せずにはいられないような歪んだ承認欲求を抱えた女性のことである。(あと大体見た目がポカホンタスみたいになる)

俺がこの人をいいなと思った理由の一つに、そういうポカホンタス女のような、「コイツなんか鼻につくな…」感がないという点が挙げられる。あらゆる意味で貴重な女性だと思う。しかもこういう人は普通俺みたいなの相手にしないだろ。だって俺の何倍も稼ぎあるんだぜ??理系、院卒、外資系、年収…いやいやいや…。

俺は結構ニッチな映画の趣味をしているのだが、そこが合うという何とも奇跡的な噛み合い方をして、晴れてデートをすることになったのだ。

モノリッドも、メガトンも、そして恐らく姪御さんも俺より稼いでいた。しかしこのリターニーに至っては、それらを軽く凌駕する域にいる。本来、俺のような3低(低姿勢・低依存・低リスクではない。低身長・低学歴・低収入のことである)男の手が届くような女性ではない。

痛みには慣れたはずだ。だが、会う前から既に胸が痛みに怯えているのを感じる。

──本当に挑むつもりか?俺のような人間が?

祓いきれなかった闇の残滓が、再び集まろうとしている。

鈍色の星の視線の先に在ったのは、月ではなく巨大な摩天楼であった。

膝が笑っている。その威容に屈しそうになる。

けれど。

──他の男が屈し続けたから、俺にお鉢が回ってきたのではないのか?

多様性を尊重しよう。価値観は人それぞれ。そんな綺麗事を、この国はその本質を理解しないまま謳っている。故に男女同権・男女平等を叫びながらも、男は女を守るべきという旧きジェンダーロールに囚われ続けている。

ハイスペ女性というのは往々にして、「俺でもいけそう感」≒「俺が守りたい感」を全く醸し出さない。当然、強いからだ。
…何が言いたいのかというと、数多の男がリターニーに挑みもせずに諦めていったのではないだろうか?ということである。

前に自分で言ったはずだ。「振られちゃってもいいや」「ダメだったら次いけばいい」と。

ならば恐れる必要はない。挑む前に諦める必要もない。

目を逸らすな。遥か彼方に見えるものから。

……

………

俺はマッチングするだけならそこまで苦労しない。それは、これまで俺が貧弱ながら積み上げてきたものがあるからだ。それが確固たる自信…あるいは楽観となっているからこそ、リターニーに袖にされても問題ないと思えるのである。実際、普通に同時並行してるし。

ラウンド1:曇天の下で月を待つ

その日は蒸し暑かった。

しかしながら、俺の眼前に現れたリターニーは、どうやらそれ以外の理由で汗をかいているようだった。

リターニー「ケツアナゴさんですよね!すみません!家にスマホを忘れてきてしまったんですけど、電車に乗ってから気づいてしまって…!」

摩天楼は一撃で倒壊した。

──ああ、ちゃんと俺と同じ人間なんだ。

拍子抜けにも等しい安堵感が、俺の胸を突き抜ける。

スマホ忘れるなんてそんなことあるのか?と思って後々話を聞いたら、使っているスマホがFelica非搭載の中華端末だったことが判明した。やめてくれよォ!!ハイスペ帰国子女の使ってるのが中華製だったら好きになっちまうだろォ!!アンタみたいなのは最新のiPhoneにAirpodsで映画を観ながらジムのランニングマシンで走り、ヘソ出しのトレーニングウェアを着て鏡を使って撮った自撮り写真をインスタに上げるのが相場でしょうが。

一見高望みしていないようでその実ギッチギチに張り巡らされた俺の偏見フィルターは、リターニーによって一撃で破壊されてしまった。

……

………

前回の記事で、受け身女子をボロクソにこき下ろした俺だが、なんと驚くべきことに、リターニーはそれらとは対極に位置する女性だった。

デートに誘ったのは俺だが、リターニーは「気になっている店がある」と提案してくれた。

…ここだけ抜粋するとぼったくりバーの定員のように捉えかねないが、ンなこたぁないので安心していただきたい。

ああ~たまらねえぜ。もう一度行きたいぜ。

飯の味というよりお店そのものが最高や。仔細は省くが、俺のような懐古厨のおじさん垂涎ものの内装だったんや。

あ?「店の感想じゃなくてリターニーとのデートの感想を聞かせろ」?

過去一盛り上がったぞ。(ボジョレー・ヌーヴォー)

当たり前のようで意外と忘れがちだが、恋愛とはコミュニケーションである。コミュニケーションとはプレゼンテーションではない。双方向の意思の疎通なくして会話が盛り上がることはない。リターニーは、積極的に俺と会話する姿勢を見せてくれていた。しかも今まで俺がデートしてきたほぼ全ての女の子が潜在的に抱えていたであろう「イニシアチブは男が握るべき」という思想をまるで持ち合わせていなかったのだ。

俺「…」

そうこうしていると、ふとリターニーと目が合った。

リ「…」

俺「ん?どうしたの?(超作ってる声)」

リ「いや、だって、ケツアナゴ(筆者)くん、パッチリ二重で綺麗な目してて、まつ毛も長くてカッコいいから…そうやってじっと見つめられると恥ずかしくなっちゃって…」

俺とリターニーには、基礎スペックからして天と地ほどの差がある。リターニーほどの力の持ち主であれば、俺などたまたま目が留まった中でたまたま話が弾んだ程度の、木っ端のうちの一人でしかないと自戒していた。勝ちの目をそこまで期待していなかったからこそ逆に気楽になれたのだ。

当たり前だが、この戦いについては、自身が挑む側だと認識していた。

一つ、誤算があった。

どうやらそれは、リターニーにとっても同じだったようなのである。

数多の苦痛と絶望の果てに

リターニーは、積極的に話を展開してくれるし、俺の外見だけではなく中身を山ほど肯定してくれるし、なんでもポジティブに変換するし、俺が褒めると素直に受け取ってくれるし、頭も良いし、受け身じゃないし、連絡不精じゃないし、俺への脈を全開にしてくれるし、それでいて自分の人生を優先しつつ謳歌しているし、食べ物の好き嫌いが無いし、趣味も合うし、ヒールを履いてなお身長差に余裕が出るくらいちょこんとしていて、ちょっと抜けたところもあって…。

これまでの全ての女の子を過去にするほど魅力的な女性だった。

理系、院卒、バリキャリ。俺は無知故にその認識が無いのだが、他の男からするととっつきにくい部類の女性であるらしい。俺は自分よりも稼ぎの良い女性に気後れすることはあっても、拒絶感は無い。尻に敷いてもらえるならいくらでも敷いてほしいタイプの人間である。まさかここがブルーオーシャンだとは思いもしなかった…。

対して俺も正直、ここまで食いつきが良いとは完全に予想外であった。

今さら謙遜しても嫌味にしかならないので開き直るが、俺は割と見た目に関しては評価を頂くことが多い側の人間だ。

ただそれだけで戦えるなら、俺はこんなに苦しんじゃいない。かつて俺が美人はオプションパーツだとうそぶいたように、イケメンだってオプションパーツなのだ。そんなものは魅力の主軸には到底なりえない。そんなものは、あくまで最初のフィルターを突破するための多少便利な道具でしかないのだ。

自信のない男には、女の子は寄ってこない。

趣味が合うだけなら、大して盛り上がることはない。

ツラだけ見て寄ってくるようなヤツと、上手くいくわけがない。

相手の熱量を感じぬまま、アプローチしても意味が無い。

あまりにIQに差があると、会話が成立しない。

自分の人生を生きていなければ、健全に恋愛などできるわけがない。

相手に嫌われたくない一心で行動しすぎても惨めに映るだけ。

歳上相手にやらかしても、あまり気にならない。

浪費してきたと思い込んできた、数多の金と時間。

後ろを振り返ると転がっている、夥しい屍。

屍山血河のその先に、今俺は確かにいる。

認めたくないものだが、元が恋愛偏差値ゼロの童貞である以上は、

俺が今まで味わってきた敗北と屈辱は、

何一つとして無駄ではなかったのだ。

この程度の試行回数では、無数とは呼べない。だが、さすがに俺にとっては数多である。

数多の苦痛と絶望は、この地獄の通行料だ。

望むところ。

駄目で元々。当たれば儲けもん。

これでもまだ足りないというなら、俺はなお苦しむのみだ──!!

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


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