見出し画像

特定社労士試験対策②~退職の意思表示の瑕疵~

おはようございます。
社労士の生地です(  ´-`)zzZ

特定社会保険労務士試験の対策
第2回目「退職の意思表示の瑕疵」についてです。
意思表示は「民法」の分野ですので、社会保険労務士試験では問われない科目となります。通常の社会保険労務士としての実務にはあまり馴染みがありませんが、特定社会保険労務士としての紛争解決手続を取り扱う際には、深く関わってくるので正確に理解しておく必要があります。


1.意思表示とは?

そもそも「意思表示」とはなんでしょうか?民法で取り扱う「意思表示」とは様々な法律関係において、法律効果を生じさせる※法律行為の要素となります。
労働契約関係においても、主に労働契約の締結(=使用者及び労働者の意思表示の合意により成立【民法522条1項】)、退職(=使用者及び労働者の意思表示の合意により契約を解除)や解雇(=使用者が単独行為により契約を解除するための意思表示)の場面で意思表示がなされます。

※法律行為とは
法律行為
とはそれを行う者の意思表示の内容通りの法律効果が発生する行為をいいます。
具体的には以下のような種類があります。
①「単独行為」:1個の意思表示による法律行為  (例)解雇など

②「契約」:2個の意思表示の合致による法律行為 

➂「合同行為」:2個以上の同じ方向の意思表示による法律行為
(例)一般社団法人の設立行為

「意思表示」とは一定の法律効果を欲する意思(効果意思)を決定し、この意思を発表しようとする意思(表示意思)を有して表示行為を行う過程を経てなされるものを指します。

2.意思表示はどのように成し得るのか?

意思表示は、口頭であっても有効に成し得ます
※例外として書面でしか成し得ない法律行為として、保証契約【民法446条2項】、定期借地借家契約【借地借家法38条】など

よって、雇用契約の締結や退職の意思表示口頭であったとしても有効に成立するため、書面で行う必要はありません。

民法上、意思表示とは、「個人が一定の効果を欲する意思(効果意思)を決定し、この意思を発表しようとする意思を有し(表示意思)、その意思の発表として価値のある行為(表示行為)をする」ことによりなされるものと解されております。

3.労働契約の場面における意思表示に関する問題

退職(労働契約の解除)の意思表示

たとえ、「退職(労働契約の解除)」の意思表示が行われたとしても、その判断については慎重を期す必要があります。
労働契約の終了は、労働者の生計の途を失わせることになりかねない重大な事態であることに鑑み、労働者による退職する旨の発言等(退職願(届)の提出も含む。)が退職の意思表示または合意解約の申込みの意思表示と認められるかどうかについては、当該発言等に至る経緯や当該発言等の内容等を踏まえて、裁判所は慎重に判断する傾向にあるといえます。
「税理士事務所地位確認請求事件:東京地判平成27年12月22日・労経速2271号23頁」では、退職意思表示の認定について、退職勧奨を受けたことがなく、面談時にも退職を決意するようなの動機が見当たらなかったことや、退職に関する発言が十分に熟考されたものではなく、感情的な反応から生じたものと理解できることや、発言後に後悔の念があったり、周囲からの説得を期待している様子が見られると、確定的な退職意思表示とは見なされないとして判断された事例があります。
一方で、「A病院事件・札幌高判令和4年3月8日・労経速2482号3頁)」では、労働者が事務部長からの退職勧奨を受け、面談で本人が退職意思を示した上で、有給休暇の消化や退職日の決定など、退職手続きを進める行動や、退職について異議を述べないなどの事実経過がある場合、確定的な意思表示とみなされ、合意解約の申し込みとして認められました。

4.意思表示の撤回について

退職の意思表示の撤回はいつまでであれば可能なのか?

退職の意思表示の撤回については労働者の申し入れの種類によって
異なります。

①労働者による一方的な労働契約の解約の申し入れ(辞職)
→相手方への到達前まで撤回可能。【民法97条1項】

②合意解約の申し入れ(=複数の当事者の意思表示が合致することにより成立する法律行為【民法522条1項】)
→使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、雇用契約終了の効果が発生するまで
は撤回できる(大阪地裁判平9.8.29・労判725.40頁)

5.意思表示の瑕疵について

「撤回」意思表示自体には何ら問題はなく、気持ちが変わるなどして、意思表示者が当該意思表示を将来にわたってなかったものにする場合を言います。
では、意思表示自体に瑕疵(問題)がある場合はどうでしょうか?「意思表示が無効または取り消し得る」のは意思表示に何らかの問題があるために無効(そもそも効力が発生しない場合)や表意者を保護するために取消権(取消権を行使して初めて、無効)が認められています。

民法では、意思表示に瑕疵がある場合として、
心裡留保(民法93条)
虚偽表示(民法94条)
錯誤(民法95条)
詐欺・強迫(民法96条)

を定めています。

①心裡留保(民法93条)とは

表示行為に対する意思(内心の効果意思)がない場合
「表意者がその真意ではないことを知って」なされた意思表示
(例)表示行為=「この本を売ります」⇔内心の効果意思=売る気がない
そのような真意でない意思表示をあえてした者と、当該意思表示を信頼した相手方のどちらを保護すべきか?
相手方が保護される
≪効果≫
(1)「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたとき」にのみ、当該意思表示は無効【民法93条1項】
(2)善意の第三者に対しては当該意思表示の無効の対抗ができない【民法93条2項】

②虚偽表示(民法94条)とは

真意によらない意思表示(相手と通謀して行うもの)
「相手方と通じてした虚偽の意思表示」
≪効果≫
(1)当事者間では無効【民法94条1項】
(2)善意の第三者に対しては当該意思表示の無効の対抗ができない【民法94条2項】

➂錯誤(民法95条)とは

表示された効果意思と内心の効果意思が一致していないが、表意者がその不一致を認識せずに行った意思表示

錯誤には、表示行為の錯誤【民法95条1項1号:意思表示に対応する意思を欠く錯誤】と動機の錯誤【民法95条1項2号:表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤】の2種類がある。
≪効果≫
(1)当該錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる【民法95条1項】
(2)当該錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、
1.相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によってしらなかったとき、
2.相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
を除き、取消することができない。【民法95条3項】
(3)当該取消は、善意でかつ過失がない第三者には対抗できない【民法95条4項】

④詐欺(民法96条)とは

他人に騙されて(欺罔されて)、思い違いをし、(錯誤に陥り)、その結果としてなされた意思表示。

表示行為に対応する効果意思は有しているが、その意思決定過程に他人の不当な干渉(欺罔行為)があるため、強迫とともに、意思表示に瑕疵があるとされる。
≪効果≫

(1)詐欺による意思表示は取り消すことができる【民法96条1項】
(2)相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる【民法96条2項】
(3)善意の第三者に対しては対抗することができない。【民法96条3項】

④強迫(民法96条)とは

他人におどされて(害悪の告知)、怖くなり、その結果なされた意思表示
≪効果≫
強迫による意思表示は取り消すことができる【民法96条1項
表意者の自由な意思決定が妨げられる程度は、詐欺よりも大きいため、取消前に出現した第三者に対しても取り消しを対抗できる。

6.退職の意思表示の瑕疵が問題となった裁判例

「 テイケイ事件・東京地判令和4年3月25日労判1269号73頁」の事案では、虚偽の勤怠入力刑事罰に該当するとして、退職すれば警察には連れて行かない旨を告げられたためにした退職の意思表示は、錯誤による意思表示として無効(注:民法改正後は取り消し)と判断した事案があります。
また、「 日本マクドナルド事件・名古屋地判令和4年10月26日」ではリハビリ勤務を経て通常勤務となった後も、復職後のパフォーマンスが悪く、改善点が多いことなどから、割増退職金や再就職支援サービスの提供などを条件とする退職勧奨を受けてした退職の意思表示について、意思の欠缺(不存在)、表示の錯誤、動機の錯誤、強迫等の瑕疵を主張したものの、退職同意書に署名押印するまでに2回にわたり面談がなされていることや、同意書には退職に同意する旨の文言が明記されていることなどを理由に、意思表示に瑕疵はないと判断した事案となります。

7.動機の錯誤(民法95条1項2号)

意思表示をなすための動機の錯誤について、改正民法により、該当する基礎事情の錯誤は「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り」 取消しを認めることとしました。
その際の動機の表示【民法95条第2項】については「 明示」 または「 黙示」でも良いとされています。
「昭和電線電纜事件・横浜地裁川崎支部平16・5・28」 では、原告が受けた退職勧奨が「自主退職」か「解雇」かの選択を迫るものであり、原告としては、いずれかの方法を選ばざるを得ないことを当然認識しており、解雇を避けるため、合意退職の意思表示の動機(解雇処分を避けるための動機)黙示のうちに表示されていたと認めるのが相当であると判断しました。
つまり、退職勧奨の状況からみれば、解雇処分を避けるために辞職を選ぶという動機はたとえ黙示であってもわかるでしょ?といったことになります。

8.まとめ

1. 意思表示とは?

法律行為において法律効果を生じさせる行為の要素。労働契約においては締結や解雇、退職などで発生。

2. 労働契約の場面における意思表示に関する問題

退職(労働契約の解除)の意思表示が重要。慎重な判断が必要であり、裁判所は経緯や内容を踏まえて判断される。

3. 意思表示の成立条件

口頭でも有効
書面でしか成立しない法律行為もあるが、雇用契約においては口頭でも成立する。

4. 労働契約関係にかかわる申入れの撤回について

労働者の申し入れの種類によって異なる。
一方的な解約の場合合意解約の場合で条件が異なる。

5. 意思表示の瑕疵について

  心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫が瑕疵とされる。
民法に基づく取消権が存在。

6. 裁判例を通じた理解

裁判例において退職の意思表示が錯誤として無効とされた事例など。

7. 動機の錯誤について

意思表示の動機の錯誤について、改正民法で取り消しが認められるようになった。
明示または黙示での表示が認められている。

以上、今回は特定社会保険労務士試験の対策として「意思表示の瑕疵」について解説させていただきました!
社労士試験では問われなかった分野ですが、労使紛争の実務ではよく登場します!
特定社労士試験の受験生でも苦手とする人は多いので是非マスターしましょう!

それではまた(  ´-`)zzZ

この記事が参加している募集

#わたしの勉強法

361件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?