花束と栄養ドリンク
一人暮らしも板についてきた大学4年生前期。大失恋を経た私は多少なりとも恋愛してもいいかという気になっていた。
他科の後輩であるみっちーにはこれまで何度もデートに誘われていたし、良く学校やバイトの帰りに連絡が来て家まで送ってくれていた。私がいかにも好きそうな庭園デート、その後神保町でカレーを食べて古本屋をめぐる。
女友達にいつも彼のことを相談してたけど、「絶対にじゅってぃのこと好きだよ」と決まって言われていた。
神保町のとあるカレー屋。
野菜がゴロゴロ入ったスープカレーと別皿のライスが運ばれてきた。
「おれ、こういうのどうやって食べて良いかわからないんだよね。」
少し顔を赤らめて、かなりギクシャクとしながら彼が言う。
食べ方を丁寧に教えてあげた。
発達障害の傾向あり。
それからしばらく経ったある日の夜。私は展示の締切前で、アトリエに篭って徹夜で製作をしていた。
深夜、急にみっちーからラインが来る。
「今アトリエいる?お前にプレゼント持ってきてやった」
「アトリエいるけど、アトリエの場所知ってたっけ?」
「え?!アトリエって大学じゃないの?」
「ちがうよ、新富町。なに?真っ暗な総合工房棟の前にいるわけ?!」
真っ暗というか...4階だけはいつも灯りが付いてるか。4階の建築学科だけは24時間いつも煌々と明るかった____。
翌日。新富町のアトリエを早朝出て、自宅のマンションに帰宅すると、玄関のドアノブに花束と栄養ドリンクが掛かっていた。
花束かぁ、花束はやりすぎだなぁって思ったけど、素直に嬉しかった。嬉しすぎてドライフラワーにしたくらい。ドライフラワーにするとかやりすぎだなぁ、と思いつつ、そのまま部屋に吊るしておいた。
そんな付かず離れずな関係を続けたある日、
「おまえんち行っていい?」
彼が唐突に言ってきた。
「いいよ、映画でもみる?」
「映画デートじゃん、やった〜」
彼は家に着くなり、
「シャワー浴びて良い?、昨日徹夜で浴びてないんだ。」
と言った。
ん?と思いつつ、快く風呂場を貸す。
グッド・ウィル・ハンティングを観る。
「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」は、この頃の私のお気に入り映画だった。
私のベッドで2人して並んで寝転び、映画を再生するためのMacBook Proを彼が持つ形。MacBook Pro、重いんだ。
彼から、私のシャンプーとボディーソープの匂い。視界の隅には、もらった花束のドライフラワーが入っていた。
映画のエンドロールも終わりに差し掛かった頃、妙に甘ったるい空気が2人の間に流れる。
彼が少し体を起こして、私に顔を近づけてきた。
前歯と前歯がぶつかる。
最悪のファーストキス。
そのままベッドに押し倒されて、口の周りを涎でベトベトにされた。
これってキスなの?
キスって言えなくない?
しばらくそうされながら、頭の大部分でそんな事を考えていた。
すると、服を脱がそうと手をかけてきた。
「ちょっと待って」
私のことすきなの?そう言いかけて、、、
彼の顔が瞬時に真っ赤に染まる。
どこか恨めしい様な目つきで私の事をしばらく見つめた後、慌ただしく荷物をまとめてさっさと家を出ていってしまった。
ショックだった。何も話さず、彼が帰ってしまったことに対してショックだった。何で人の話、ちゃんと聞かないかなぁ。あの状況じゃ聞けないか...。
「お前は遊びだった」
荒々しく言われた。いつ言われたのかもよく覚えていない。どういう状況で言われたんだっけ?
あと、
「グッド・ウィル・ハンティング見せるとか俺のこと変えようとしてるだろ。ありのままでいれない時点で恋人とか向いてないんだよ」
とも言われた。
はぁ?カレーの食べ方教えてやったのこっちだぞ、て思ったけどこれは流石に言わなかった笑。
別に拒否ったわけじゃないの、ただ、ちゃんと言ってほしかっただけ。まぁ女友達に愚痴るよね。愚痴るし、即マッチングアプリを始めた。
当時女友達Oがアプリをやっていて、先駆け的にそれで彼氏を作っていたのでその真似っこというわけだ。
あと、大切な事がもうひとつ。
恋バナをした時の女友達の助言は信じないと心に決めた。
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