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アプリの人

 元夫とはマッチングアプリで知り合った。アプリを使って初めて会った人で、トータル2人会ったうちの1人。当時筑波大学の院生で、フランスに留学経験があり、本当は東大に行きたかったんだそうな。正直タイプではなかった。  卒業制作も本格的に作り始めた頃で、季節は移ろい夏になっていた。昼間の蒸し暑さから一転、オレンジ色に傾いた日差しの当たる待ち合わせ場所に現れた彼は、白いTシャツにジーンズ、黒のリュックサックという出立で、一見当たり障りのない服装の様に思えた。 お互いに目が合い、軽

    • 守護天使

       上野駅の中央改札、珠希との待ち合わせ場所である裸婦の銅像の前へ向かった。珠希の方が先についていたようで、私が近づいて行くと珠希がこちらに気づき軽く手を挙げた。二人で出口に向かって歩き出す時、自然と腕と腕がぶつかる。 「今日は有難う」 私が言った。  中央改札から歩いてすぐ、大通りから一本脇道に入った所に珠希が指定した店があった。二人で店に入る、こじんまりとした大衆酒場だ。店内は程よい間接照明でガヤガヤと賑わっていた。  自分の思いを言わなければと思うほど口が重たくなっ

      • 花束と栄養ドリンク

         一人暮らしも板についてきた大学4年生前期。大失恋を経た私は多少なりとも恋愛してもいいかという気になっていた。  他科の後輩であるみっちーにはこれまで何度もデートに誘われていたし、良く学校やバイトの帰りに連絡が来て家まで送ってくれていた。私がいかにも好きそうな庭園デート、その後神保町でカレーを食べて古本屋をめぐる。  女友達にいつも彼のことを相談してたけど、「絶対にじゅってぃのこと好きだよ」と決まって言われていた。 神保町のとあるカレー屋。 野菜がゴロゴロ入ったスープカ

        • 監禁事件/男友達

          監禁事件  私の親がサンクチュアリに組織を移ったのと時を同じくして、私に連絡をとってきた人物がいた。東山さんというその女性は、かつて統一教会の教義を学ぶための"修練会"と呼ばれる泊まり込みの合宿で同じ班になったことのある人だった。 「じゅんなちゃん久しぶり、最近何してるの?」から始まった連絡のやり取りは、気が付くと「勉強会に参加してみない?」といったお決まりの誘い文句に変わっていた。  当時ギリギリまだCARPの寮に住んでいた私は、自身のスケジュールを報告する際に彼女か

        アプリの人

          星の人

          一瞬の中に永遠を感じさせてくれる人...。 「星が綺麗ですね」 少し苦しそうに、消え入りそうな声でそう言われた。 東京だし、星なんてほとんどみえないのにね。 そんな事を考えていたら、何も返せなかった。 "そうですね"って言えば良かった。 後になって、この時のことを死ぬほど後悔する事になるとは、この時の私はまだ知らなかった。 * 「瞬いている星って、もう死んでる星なんですよ。星は死んでるけど光だけが届いてるんです。」 夜の静まりかえった早稲田大学のキャンパスで、そう言

          星の人

          プロローグ〜初恋

          最愛の夫と、最愛の女友達へ プロローグ 「セイテキカンケイってなに?」 5歳の私は母に尋ねた。 エデンの園で天使長ルーシェルとエバが不倫なる霊的性関係を結んだことが人類始祖の堕落の始まりだった。そう洗脳されて育った。恋愛はもちろん禁止。 親は教団の教祖によるお見合いで結婚した。教団内で結婚した夫婦から生まれた子供たちを祝福二世と呼び、そんな中で当たり前の事として"神の血統"として育てられた。二世が結婚適齢期になった時には親のお見合いによって永遠の伴侶が決まる。  夏休みな

          プロローグ〜初恋