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チャージマン研!という日本史上最高に「雑」なサブカルアニメを語らせてくれ

「チャージ!ゴーゴーケン!ゴーゴーケン!その名も〜僕らの〜チャージマーンー♪」という声が聞こえてきたら画面の前に集合だ。最高で最低な10分アニメが始まるぞ。

もう言わずとも分かるだろう……そのアニメとは「チャージマン研!」だ。1974年に制作されたこのアニメは、その圧倒的な質の低さから、2000年代後半からサブカル界隈にて有名になった。

とにかくバンクの使いまわし、そして明らかな尺稼ぎ、鳴らないSE、合わない口の動きなど、とにかく観れば観るほど低クオリティ。その結果、ちょっとあまりにシュールすぎる名作になったわけである。

その作品性は「逆にプログレ」「制作仕事しろ」などの声があり、ニコ動や2ちゃんではほぼ祭り状態。そこからじわじわ拡散され2019年には渋谷にポップアップショップができ、2020年にAbema TVで全話一挙放送がされた。

個人的には「チャージマン研!」をどうしても見たくてUNEXTに加入し、65話を一気見した。もうすっかりファンになってしまったわけだ。なんかパクチーみたいな……美味いかといわれると微妙だが、なぜか食べたくなる。そんなクセになる魅力満載のアニメだ。

今回はそんなチャージマン研!について、やばすぎる5つのポイントまでを見ていこう。最後にとっておきの大好きな話も紹介するので、ぜひ5分だけ観てほしい。

チャージマン研!のあらすじ

チャージマン研!の主人公は泉研という少年。舞台は2074年の日本だ。そこにジュラル星人が地球侵略のためにやってくる。泉研は地球を守るため、チャージマン研!に変身して敵をやっつけていく。

こんな感じのあらすじ。ただし1話からまったく何の説明もない。なんで泉研がチャージマン研に変身できるのかも分からないし、そもそもなぜ彼なのかも謎だ。そもそもジュラル星人の初登場シーンでも「説明しよう!」みたいなギミックはなく、急に出てくる。超リアリズム。「え?これが普通だけど?置いてくよ?」みたいな顔して勝手に物語が進んでいく。

チャージマン研!がヤバい5つの理由

なんの説明もなく、地球防衛が始まる時点で、すでにこのアニメのやばい空気を感じてきただろう。ドン引きするのはまだ早い。ここからはチャージマン研!のヤバいポイントを5つ紹介しよう。

製作費は従来の6分の1! 明らかにやる気のない製作陣

チャージマン研!は10分アニメだ。そのなかにOPとコマーシャルが入るので、本編は実質5〜6分である。当時の30分アニメの予算が平均400万〜500万円のなか、チャージマン研!の予算は50万円。だいぶ低コストで作られた。

当然、製作陣の身入りも少なかったのか、スタッフのやる気もなかったらしい。勝手に海に遊びにいく者までいるという自由奔放な現場だった。声優のクレジットもなく、棒読みも多い。どうやら無名の劇団の役者を使ったらしい。

赤塚不二夫と対比しよう。彼の現場では、赤塚が全裸にエアガンを持って急にアシスタントを撃ち始める、みたいな遊びが始まることもあったと聞く。しかしこの場合は赤塚組の「遊び心」で、もちろん漫画としては納期も守るし、質の高いギャグとして成立していた。

チャージマン研!の場合は単純なサボりである。まさにこれが諸悪の根源。この後の「ヤバいポイント」が発生するのはすべてこのせいだ。いやもう本当にスタッフのやる気のなさが透けて見えるのがおもしろい。

このようにたまに陰毛のようなものも映り込む。実際はセル画の削れ or 窓ゴミであるが、その処理すらしない。これは「チャー研陰毛リンク」というタグでニコ動民から愛された。

また31話では、1カットだけ人の指が映り込む。おいおい、ついに、ここまできたか。

カットの目印のために撮ったものだろう。この消し忘れに気づかないのはおかしい。チェックで絶対に気づいたはずだ。そのうえで「……うん。バレないっしょこれ。オッケー!海行こうぜ!」リリースした説が濃厚だ。

作画枚数が圧倒的に少ないから尺を稼ぎまくる

もう……すぐに分かる。マジで絵が動かなすぎる。素材が足りてない。あるいは口だけがぱくぱく動き続ける。ほぼ同じ絵を10秒ほど見続けるのとか、もはやザラだ。最初は違和感だが、これが1話見終わるころには、我ながら普通になっているのがおもしろい。

また明らかな尺稼ぎもこのアニメの見どころだ。もう気が気じゃない。「最初の30秒間、セリフなし」とか余裕で発生する。本編5分しかないのに。

サブリミナル効果レベルのバンクの量

バンクとはアニメ用語で「同じ絵を使い回すこと」だ。例えば戦闘シーン→会話のシーン→戦闘シーンなどの場合は戦いの絵を同じ構成にすることで、作画の工数を削減しているわけである。

作画枚数の少なさにも通ずるが、チャージマン研!はバンクの量がもうハンパじゃない。もはやサブリミナル効果くらい同じ絵が出てくる。

突如として鳴らなくなるSE

基本的になぜだかSEがない場面が多い。戦闘シーンでは研がビーム銃を撃つが無音。ピュン!とかない。躍動感は皆無だ。

ただ全編にわたってSEが止まっているわけではなく、急に気まぐれで鳴るシーンもある。で、また止まる。「あれ?マイクの不調?」ってくらい急に止まるのだ。あまりにSEが無すぎて「これがリアリズムか」といじられる一面もあった。

研が人の心を失っている

個人的にはここが好き。「人生3週目かな?」というほど研!に血も涙もないのだ。ジュラル星人を殺すマシーンと化している。

このアニメ、基本的にはフォーマットが決まっている。最初はジェラル星人が人間に化けて、友人などとして研に近づく。で、そこそこ仲良くなったタイミングで「ワハハ」と正体を表すわけだ。なので新しいキャラが冒頭に出た瞬間に「ジュラルだろこいつ」と視聴者からツッコミが入る。

ここで特筆すべきは研の切り替えの早さである。友人がジュラル星人と分かった瞬間にスイッチが入り、即変身して次のシーンで撃ち殺す。ゴルゴ13くらいプロ。少年だというのに。

奇跡的なバランスでシュールを完成させた神アニメ

とまぁ本当に見るも無惨な仕上がりになっているわけだ。しかし何がすごいかってめちゃめちゃ笑えるのである。なぜ笑えるかというと「笑かそうとしていないからだ。私たちはもう大人である。あからさまなギャグではもう笑えない。

チャージマン研!は、一見、めちゃ真面目なヒーローアニメだ。その仕上がりが明らかにひどい。しかし誰も突っ込まない。真面目な舞台、おかしな演出、ツッコミ不在という3つが合わさった結果、奇跡的にシュルレアリスムが生まれているわけだ。

そして「ツッコミ不在」は、ニコニコ動画との相性がすこぶる良かった。なぜならニコ動は視聴者がツッコミであり、コメントを含めて動画として完成しているからだ。

ニコ動の陰の住民たちはただの高品質なアニメなんてもとめちゃいない。動画を通してのコミュケーションを楽しんでいるわけで、チャージマン研!は彼らのコメントを含めて、作品として完成したのである。

チャージマン研!の動画はもちろんコメントなしでもおもしろいが、やはりニコ動のツッコミがあったほうが笑いやすいだろう。

特に好きな話は「第35話 頭の中にダイナマイト」です

最後にお気に入りのストーリーを紹介させてほしい。35話の「頭の中にダイナマイト」という話だ。もうタイトルでちょっとクスッとくる。

まず街を破壊するゴジラが映る。「版権とか大丈夫か」というほど完全にゴジラだ。鳴き声が1パターンしかなくて「よし。平常運転だな……」と思っていると横にステゴザウルス的なやつが出てきて喧嘩しはじめる。「今回はジェラル星人じゃないのか??」と思っていたら、研!と家族が映画館で見ているシーンに。三次元ではなく恐竜映画だったのだ。

まずこのシーンで50秒経っている。5分しか時間ないのに50秒もなんの伏線もないシーンに使うなよ。その後、いきなり研とロボットのバリカンが会話をしながら歩くシーンに。全く会話が噛み合っていない……と、急にボルガ博士(初登場)に激突。「ふふお菓子好きかい?」「うん!大好きさ!」という絶対にいらない会話の後、急に知らない男が2人きて博士を連れ去る。ジュラル星人が化けているのだ。

おっさんとぶつかって連れ去られるまでわずか15秒。と思いきや、男に銃で撃たれて博士が殺される。殺されるまでたったの30秒。もちろん銃のSEは無し。そして遺体を載せて走り去る車。

その後、これまた急に家でテレビを見てる研のシーンに。すると博士が学者たちのレセプションパーティーで普通に講演している様子が映る。「死んだはずなのに」と家を飛び出す研。一方ジュラル星人は「あと30分で学者がみんな吹き飛ぶわけだ。まさかボルガ博士が改造されているとも知らずにな。ははははは」笑う。この「ははははは」が棒読みすぎて一周まわってマジで怖い。

レセプション会場に来た研は「みなさん!そこにいる博士は偽物です!」と宣言するが、学者たちは信じてくれない。

すると研の顔のアップに。5秒くらい無音でアップの絵が映る。「放送事故かな?」と思っているとチッチッチッチッと急に時計の音がしてボルガ博士のボケーっとした顔面がアップに。

「そうか頭の中に爆弾が!」と気づいた研はチャージマンに変身する。なぜ分かったんだろうか。なんの説明もない。そして変身するついでに……くらいの感じで博士を小脇に抱えて空を飛ぶ研。そのまま飛行機に乗り込むが、もちろん乗り込む描写はない。

「なにをする?」とボルガ博士。「あなたは頭に爆弾を仕掛けられている人間ロボットなんだ」と研。そして「ボルガ博士お許しください」と飛行機から博士を落とす。博士はジェラル星人の飛行機に激突し、大爆死するのであった。

最後のシーンでは、学者たちが作り上げた海上工業都市を観ながら「かわいそうなボルガ博士!」と研が語る。

「いや殺したのお前だけどな!」と思わず声が出た。ちょっとマジで研の底が知れないのである。いや鬼と悪魔のハーフでしょこれ。

もちろんこの他にもチャージマン研!は名作だらけだ。ぜひ一度、騙されたと思って5分だけ観てみてください。本当に騙されますから。

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