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ウィスット・ポンニミット(タムくん)展「Smile」 A/D六本木ヒルズギャラリー

タイの漫画家・ウィスット・ポンニミット。通称「タムくん」。彼の作品は海みたいだ。とても寛大で自然体。そしてやわらかい。どんな船もどんな人もゆるしてくれるし、風が吹いたら波になる。おなかのなかではいろんないきものを飼っていて、それもまた人のためにあたえてくれる。ただひとつ違うとすれば、彼は暴力的な津波や高波にはならない。いつも穏やかに、やすらかな答えを教えてくれる。

タムくんをはじめて観たのは2014年の6月だ。福岡の「circle」という音楽フェスで、クラムボンというバンドのボーカル・原田郁子とともにステージに上がった彼は、ニコニコしながらお客さんにお辞儀をして、かるく自己紹介をした。原田郁子はキーボードを弾き、タムくんは素手でドラムを叩きはじめた。ハイハットもスネアもぜんぶ素手で奏でてみせたのだ。上手いとはいえなかった。でも「来てよかったなぁ」と、強くおもった。

また曲中、急にドラムセットから立ち上がったかと思ったら、原田が弾いている鍵盤を横から好きに鳴らしはじめた。原田は驚いた顔を浮かべたが、すぐにはち切れんばかりの笑顔に変わる。お客さんもアハハと笑う。でもいちばんの笑顔を見せていたのは、やっぱりタムくんだった。数千人のお客さんの前で、タムくんはいちばん自由で、いちばんピュアだったと思う。

そんな彼が新作・「マムアンちゃん」を出版した。資金はクラウドファンディングで集め、予定額を大幅に上回るお金が集まった。

そりゃそうだ。こんなにも素直にみんなに与え続けているのだから。必ず戻ってくる。会場にあった「スマイル」という四行詩には、タムくんの人生が詰まっている。

タムくんは見返りを求めているわけじゃない。とてもシンプルに「誰かにスマイルを届けたい」のだ。苦しむ顔なんて見たくない。だから何をするにしても、ポジティブなきもちを込める。すべて自分に返ってくる。これは宗教でもスピリチュアルでもない。すごくプリミティブな、コミュケーションの鉄則である。

ものすごくありきたりで、きれいなことをあえて書こう。

世界中がみんなタムくんだったら、この世からいさかいがなくなる。喧嘩がなくなる。嫉妬が、いじめがなくなる。そして最後には戦争がなくなる。

与える、赦す、認めて、愛する。そこにはプライドなんてものはない。責任なんて言葉は使うだけ無駄だ。みんなが晴れ晴れとしていて、優しくて、あったかい。誰かの間違いをみんなで補い合える。

「でも、人間だから……そんなの無理だよ」って思うのは、間違っていると私は思う。人間だから思いやれるんだと。頭が良いから相手のよろこぶ顔を想像できるんです。

いろんな問題は、実はとってもシンプル。頭が良すぎるから、肩ひじ張って自分がかわいくなってしまう。自分を抱きしめたい。誰かに頭を撫でてもらいたい。それならば、まず誰かを愛することだ。

タムくんは「マムアンちゃん」の最後に、いろんな人への感謝を書いている。自分がつくったキャラクターにまで……。

タイだから、日本だから、ではない。
男だから、女だから、ではない。
年上だから、年下だからでもない。
誰にだってできることだ。

まずは電車の席を譲ったり、エレベーターのドアを抑えたり、他人が喜ぶことを話してみたりと、周りの人に小さな幸福を与えてみよう。
タムくんを見習ってみよう。そう思って周りを見渡すと、会場に集まった方は、みんながみんな、余裕のある幸せそうな表情だった。

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