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若さの秘訣は腎の強化!~若いうちからの「補腎」で腎の機能を高める~

「腎」の包括的な役割とは


「若さを保つ」において、「腎」の役割は重要です。
中医学においては、体全体を「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の5つの臓腑に分類し、それぞれが互いに密接に関係しながら体を構成するとされています。

今回の焦点である「腎」は、中医学において単に腎臓と同一視するだけではなく、生殖、発育、ホルモン、免疫、泌尿器、自律神経などの多岐にわたる機能とも関連すると考えます。近代の科学的な研究により、血液を生成するホルモン「エリスロポエチン」、血圧を調節するホルモン「レニン」、骨を強化し免疫機能にも関与する「活性型ビタミンD」などの重要なホルモンが腎臓で作られることが明らかになっています。また、副腎から生成されるコルチゾールは、肝臓における糖新生(血糖低下の防止)、筋肉におけるタンパク質代謝(アミノ酸の生成)、脂肪組織での脂肪分解といった代謝の促進(エネルギー供給)、さらには抗炎症および免疫抑制作用といった生命維持に必要な機能を果たしています。これら一見腎臓と関連性のないようにも思える体にとって重要な作用の研究が深まることは、普段漢方を実践している私たちにもとても有益であり、かつ中医学理論の奥深さをも再認識させられます。

また、最近の研究では、腎臓が人間の寿命と密接な関係を持つ「リン」の体内調整を行うことが指摘されています。東京大学医学部出身で抗加齢医学の専門家である黒尾誠教授は、リンの過剰摂取が腎臓の濾過機能を低下させ、結果として体内に細胞毒であるリンが蓄積し、老化に影響を及ぼすという研究結果を、自著(『腎臓が寿命を決める』)やネット対談などでも触れています。また同著の中にはリンの過剰摂取の原因として、添加物まみれ(リンを名乗っていないリンを含む添加剤/かんすい、酸味料、香料、乳化剤、pH調整剤、強化剤、結着材など)の日本の食品の危険性についても警鐘されています。

中医学において「腎」は「命門の火」と表現され、人間の生命そのものと位置づけられていますが、老化に関連する多くの問題が腎と密接に関連していることが、医学・科学が大いに発展する2000年前からすでに理論化されていたことは、現代医学を知りながら、中医学を学んだ際に受けた大きな衝撃の一つです。

耳や骨、髪、膀胱系のトラブルにご用心


腎は生命の源であり、人によって生まれつきの強さが異なります。また、加齢や生活習慣の乱れなどにより、後天的に腎の力が低下することもあります。腎が弱ると、耳や骨、髪、膀胱系などに問題が生じやすくなります。他にも体全体の免疫力が低下し、病気になりやすくなり、回復も遅くなる傾向があります。
腎の力を保つためには、無駄な消耗を避け、補うことが重要です。補うというのは、漢方の「補腎薬」を用いて腎の働きを強化することを指します。補腎薬は中医学で広く研究されており、慢性腎疾患に対する西洋医学の標準療法と漢方薬を組み合わせた場合の寛解率は95%と、高い効果が報告されています。
よく尿トラブルで宣伝・通販されている「八味地黄丸(はちみじおうがん)」も代表的な補腎薬です。八味地黄丸は元々が6種類の生薬(漢方の原料/ジオウ、サンシュユ、サンヤク、ブクリョウ、タクシャ、ボタンピ)で構成された六味丸(ろくみがん)がベースとなっている漢方で、この6種類の原料にケイヒ、ブシの2種類の生薬を加えて8種類にしたものが八味地黄丸です。
ちなみにケイヒ、ブシは温める力が高く、冬になると尿が近い、寒くなると調子の悪いという方が服用すべき処方です。逆に口が渇く、ほてる、暑がりといった方には下の図でもあるように、青字で書かれた腎陰虚(じんいんきょ/潤いが少なく、体の冷ます力が弱っている)の処方を使用すると良いでしょう。杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)は目を元気にする生薬、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)は手足のほてりが強い方に適切な生薬を、それぞれ六味丸に加えたものになっています。赤字の腎陽虚(じんようきょ/温めの力が弱い)と書かれたものは冷えの強く方が服用されると良いでしょう。ちなみに牛車腎気丸は八味地黄丸にゴシツ、シャゼンシの2種類の生薬を加えたもので、冷えやすく、むくみの強い方が服用されると良いです。六味丸、八味地黄丸、牛車腎気丸の3種は病院の処方箋でも取り扱いがある為、それぞれのお薬の性質を知って、上手に長く服用されていくのも老化防止対策の一つです。

小太郎漢方/六味丸 引用


また、今ご紹介した補腎薬は全て原料である生薬が植物性由来のもので、他にも動物性由来の生薬を使用した補腎薬もたくさん存在します。例えば、皆さんに耳馴染みのあるものの代表として「プラセンタ」があります。元々は秦の始皇帝時代から妙薬として人体の胎盤を原料として扱われており、生薬名としては紫河車(しかしゃ)といいます。現在は、病院ならヒト由来のプラセンタ製剤、市販されているものですと動物由来(ブタやウマ)ものが使用されていますが、これも立派な漢方が発祥の補腎薬なんです。プラセンタは、更年期の不調の際に病院で治療目的として使用されていますが、ホットフラッシュがとても辛い症状の方は、プラセンタ自体が温性の漢方として分類されるので、使用を一旦中断して、上記の青字の補腎陰薬を優先させると良いでしょう。
中医学の分野では動物性のものの方が、植物由来のものより薬効が高いと認識されていますので、お近くの漢方に詳しい専門家に相談して、症状やご自身の体質に合った補腎薬を提案してもらうのがおすすめです。

更年期を快適に過ごすために「補腎」を


繰り返しになりますが、「腎」の役割は広く、具体的には腎臓だけを指すものではありません。免疫力を強化したり、貧血を改善したり、不妊症や生理不順、性欲減退、成長不良などをサポートすることも可能です。早期のホルモンバランスの乱れが見られる40代から補腎薬を服用すると、ホルモンバランスが改善し、それに加えて骨密度も増加したというお客さまの例もあります。
更年期を快適に過ごすための一つの方法として、若いうちから腎の強化を始めることが挙げられます。特に女性は35歳を過ぎたら、補腎に取り組むことで、その後の人生が大きく改善するとされています。特に中年期以降は、体質を応じてではありますが、動物性由来の生薬を含む処方を選ぶことで、少しでも体の持ち上がり・改善の早さが期待できますので、そちらを積極的に活用されると良いでしょう。

《日々の生活習慣で腎を補う》
補腎には、栄養バランスの取れた食事、適度な運動、十分な休息が不可欠です。 食事の面で「腎」を補う食べ物は 黒豆、黒きくらげ、黒胡麻、海藻、黒酢、黒米などの黒い食材や、ニラ、クルミなどが代表的なものです。
適度な運動も、血流を改善し、細胞の活性化や腎臓の機能維持または老廃物(リンの蓄積防止)の排出による老化防止にも重要だといえます。
質の悪い睡眠もCKD(慢性腎臓病)に罹る率が高くなるといわれています。厳密には、短時間睡眠(5時間以下)の患者さんでは、睡眠時間6.1〜7.0時間(平均6.9時間)に比べ、透析にいたるリスクがそれぞれ2.1倍に上昇し、さらに、長時間睡眠(8時間超)の患者さんでも、リスクが1.5倍に上昇したというデータもあるようです。寝過ぎも寝なさ過ぎもどちらも腎臓にはよろしくないので十分に気をつけましょう。
ストレスは腎臓に負担をかける大きな要因ですので、ストレスマネジメントも忘れてはなりません。ストレスによって起こる副腎疲労は、精神、代謝、疲労、免疫など様々な症状を引き起こします。マインドセット、認知行動療法、マインドフルネスなどでストレスとの上手な付き合い方を身につけることも大切です。

若さを維持するためには、補腎が大切であり、そのための具体的な生活習慣の改善も意識されると良いでしょう。
これを機会に、腎の健康が私たちの健康であり、活力、そして若さに大きく寄与することを知ってもらい、この人生100年時代を元気に乗り切る体づくりを身につけて頂けると嬉しいです。

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