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心のエネルギーを満たす朝食の記憶

心のエネルギーを満たしに帰る場所、それは記憶。迷ったり心が折れそうになった時、思い返すのはイングランド南西部デヴォン州エクセター。ここで過ごした数日間と、ホテルダイニングでの朝食は、心のエネルギーを満たしてくれる大事な記憶。


100年前のホテルとブレックファースト

仕事で滞在した、イングランド南西部の街エクセター。100年以上前から続くB&Bのホワイトホテルは、1階がパブで、2階は宿泊客のためのダイニング。3階から上が客室というこのスタイルは、100年以上前のイギリスではオーソドックス。石畳の中庭に抜ける出入口があり、柔らかい陽ざしを感じながらパブのドリンクを楽しむことができる。

中庭に面したダイニングの窓からは、透明感のないガラスを通して優しい陽がさしこみ、ダークブラウンの木の窓枠と、ギシギシ音のする床と、分厚い板でできた家具のアンティークさを、より一層際立たせる。

そこでいただくイングリッシュブレックファーストは、フルかチョイスかを選べる。フルを頼むか、それともチョイスにするか迷っていると、スリランカ出身だと言うウェイターさんに話す。

フルにすると、①ソーセージ ②ベーコン ③ブラックプディング(血のソーセージ) ④ハッシュブラウン(ハッシュドポテトのこと) ⑤トマト(ソテーしたもの) ⑥エッグ(好みの調理法で仕上げてくれる) ⑦マッシュルーム(ソテーしたもの) ⑧ベイクドビーンズ ⑨トースト 。丁寧に説明した後、たぶん食べきれないと思うよと促され、チョイスにした。

サイドディッシュはビュッフェスタイル。シンプルなハードタイプのパンや、小ぶりで天然の色をしたフルーツが数種類ずつ並ぶ。カットされていない丸ごとのフルーツは、テーブルナイフでカットしながら食べる。ワックスがかかっていない艶のないフルーツたちは、100年を超える建物のアンティークさと馴染み、絵画の世界にトリップしたような気分になる。

その世界の住人たちは、肌の色、髪の色、話す言葉も違う人たち。
特に地方の小さな街のB&Bスタイルのホテルでは、オリエンタルなお客は珍しく日本語は通じない。ウェイターと英語で会話する姿を見て、話しかけてくる人は多く、「珍しい」「日本人は年齢がわからない」から始まり、何をしに来たのか、日本はどんな国なのか、イギリスはいいところだなどなど、いろんな話をしてくれる。初めて顔を合わせる人たちが、会話をしながら食事をする。楽しくて仕方がない。

日本では、イギリスの料理は美味しくないとか、日本人には合わないと言う人がいる。でもそれはたぶん、イギリスのことを知ろうとしないから。イギリスの人と関わろうとしないからではないかと思う。

食はその国の歴史風土に根付いた文化。その国の人たちの命をつないできた大切なもの。その国の人と関わって会話をすれば、食の思い出は違ってくる。どこの国のどんな料理も、どんなシチュエーションで誰と食べたか、どんな会話をしたかで違う。全てが一つの記憶として刻まれる大事な時間。


心のエネルギーを満たす

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厨房スタッフが遅刻してまだお湯が沸いていないから、いつもより時間がかかるけど
スグ用意するから待ってねと言われた日のポリッジはいつも以上に美味しい気がした

朝食メニューは、イングリッシュブレックファーストだけではない。オートミールを煮たポリッジも定番で、メープルシロップをかけたり、ドライフルーツやナッツをトッピングして食べる。オーダーすれば牛乳、豆乳でも作ってくれる。春先でも少し冷え込むイギリスの朝にはホッとする優しい朝食。


帰国して数年絶つが、このホッとする優しい味が恋しくなることがある。
心が折れそうだったり、気持ちや考えが整理できない時に恋しくなりがちなのは、現実から逃げたいからなのかもしれない。

そんな時わざわざUK産のオートミールと、オイルコーティングしていないドライフルーツを購入しポリッジを作る。優しい甘さと程よい温かさに癒されながら、滞在中に刻み込んだイングランドのスピリットを思いだし、気持ちと思考を整理しながら心のエネルギーを満たしていく。

たくさんの情報が溢れ、たくさんの人の感情が入り乱れる今。
気づかないうちに、心と思考が疲れていることも多い。疲れを感じたり、集中できなくなっていたり、上手くいかないと感じた時、気持ちが帰れる懐かしく温かい記憶は、癒してくれるかけがえのない宝物だと思う。

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