【文体】令和を象徴する新しい文体を作り出そう?
「奥さん、一杯いかんかい?」
「酒はあかんのやよ」
「酒飲むと、頭が悪りなる血筋から、
恐ろして、よう飲まんの。」
「飲みなあれ」
「あかん、あかん」
「かまんのにい」
これはある小説の冒頭の
セリフ部分を抜きだしたものです。
関西弁ですね。
関西でも、大阪や京都でない
ことはたしか。
この訛りは、和歌山南部か
三重県西部の方なら
読んだだけで、懐かしさが
溢れてきてるんじゃないかしら?
私も和歌山南部出身なので、
東京にいながら、これを読むと
涙が出そうになります。
この小説は、
中上健次『岬』の冒頭の
会話部分です。
中上さんは、30歳の時、
この『岬』で芥川賞をとりました。
はじめて自分の田舎を
正面から取り上げた作品でした。
その後、中上は亡くなるまで
ずっと自分の出身である
「路地」(被差別部落)をテーマに、
46才の最期まで作品を書き紡ぎました。
ところで、中上健次は
19才から創作活動をしていました。
『岬』にいたるまでは、
回りくどくて長い文体でした。
それは大江健三郎そっくりな。
というか、
当時は大江健三郎モドキの
文体を使う文学青年が
たくさんいました。
中上健次が珍しい訳では
なかったんです。
おそらく、
スター作家が出る度に、
そのモドキ青年が増え、
多くは夢破れて作家を諦めていく。
そうして、1%位の人が
自分だけの道を見つけて
生き残っていく、、、
のでしょうか?
そうした、周りに圧倒的な影響を
与えるスター作家って、
例えば、
三島由紀夫、
石原慎太郎、
大江健三郎、
村上春樹らが浮かびますが…。
最近は、見回すと、
ここ30年間近く、
他人に影響を与えまくる作家や
文体は登場していません。
日本語は30年間、ほば大きくは
変わっていないということですね。
これは文学にとり幸せなことなのか、
不幸せな事態と見るか?
答えは何百通りもありそうです。
文体について意識的であったのは、
小島信夫や橋本治や多和田葉子、
保坂和志さんくらいでしょうか。
最近は本当に「文体」の価値について
軽視されているような…。
令和の新しい口語体、
なんとか作り出せないかどうか、
秘かに夢見ています…。
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