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【冒頭】夏目漱石は冒頭の名職人!!

「智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
兎角に人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、
安い所へ引き越したくなる。
どこへ越しても住みにくいと悟った時、
詩が生れて、画が出来る。」

これは夏目漱石の初期作
『草枕』の有名な冒頭です。
漱石は、冒頭がうまい。実に上手い。
  
「健三が遠い所から帰って来て
駒込の奥に世帯を持ったのは
東京を出てから何年目になるだろう。
彼の身体には新しく後に見捨てた
遠い国の臭(におい)がまだ付着していた。
彼はそれを忌んだ。
一日も早くその臭を
振い落とさなければならないと思った。 
そうしてその臭のうちに潜んでいる
彼の誇りと満足にはかえって
気が付かなかった。」

こちらは、漱石晩年の自伝的小説
『道草』の冒頭です。
この「健三」は漱石自身で、
遠い国というのは、
イギリスのことでしょう。
国からの司令でイギリスに留学し、
帰国したエリートの匂いを
漱石は意識的には軽蔑しながらも、
無意識では誇りにしていたという。
しかも、それを作家として
自分で分析して書いているこの凄み。
もはや、この冒頭で漱石の
作家としての技術の高さが判ります。

これ以外にも、
「吾輩は猫である。名前はまだない」
で知られる『吾輩は猫である』がある。

「親譲りの無鉄砲で小供の時から
損ばかりしている。」は
ご存知『坊ちゃん』の冒頭です。

夏目漱石は、
冒頭を作らせたら
ズバぬけて上手い達人だったんですね。
今さらながら気づきました(汗)。

冒頭は一番大事だなんてことは、
自然主義、リアル描写が尊いと
言われていた明治時代は、
冒頭はそれほど重要視されては
いなかったはずです。
いや、むしろ退屈な自然描写を
長々と書くのがセオリーでした。

でも、いち早く読者を 
自作に引き寄せねばならないのは、
いつの時代も同じはず。
となれば、冒頭が大事になるのは
火を見るより明らかですが、
それにしても、夏目漱石は、
元祖・冒頭職人だったのでしょう。
それはまちがいない。
森鴎外の作品で、
冒頭の見事さが有名な作品がすぐには
浮かばないことを考え合わせても
漱石の上手さがよくわかります。

冒頭は作品の顔、看板。
おっと、それなら、
このnoteの記事だって同じでしょうか。

この記事では、
いきなり『草枕』の冒頭を引用して、
工夫の跡がないかもしれませんね。
でも、私が四の五の言うより、
文豪の有名な冒頭こそ
チカラがあると思ったからですが、
さてさて、文豪の上手さに頼るのは、
新年早々、いただけなかったかしら?
(汗)。

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