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【読書】作家との羨ましき遭遇〜沢木耕太郎

ノンフィクション作家、
沢木耕太郎の、 
作家にまつわるエッセイ集を集めた
『作家との遭遇』という一冊がある。
新潮文庫。630円プラス税。

沢木耕太郎といえば、
ノンフィクション分野で
様々な作品を書いてきたベテランだ。
そのテーマは余りに幅が広い。
スポーツ、
ボクシング、
政治経済、
テロリズム、
旅、
山岳、
映画論、
写真論、
それから、こうした作家論、
対象は文学者たちだ。

この本には、どんな文学者が
取り上げられているのか?
書き出してみますと、
山本周五郎、
開高健、
向田邦子、
吉行淳之介、
色川武大、
小林秀雄、
吉村昭、
瀬戸内寂聴、
井上ひさし、
山口瞳、
田辺聖子、
阿部昭、
金子光晴、
高峰秀子、
塩野七生、
山田風太郎、
柴田錬三郎、
土門拳、
檀一雄、
近藤紘一。

この文庫本では、沢木さんは
20人の作家を取り上げている。

土門拳はカメラマンで、
高峰秀子は女優ですが、
文章をものしてるから、
作家として問題はないでしょう。

沢木耕太郎が羨ましいのは、
出版社にしばしば顔を出すため、
上記の作家たちと
バッタリ顔を合わせたり、
言葉を交わす機会もあったこと。

そういえば、
ノンフィクションとフィクションとの
違いは何か?は非常に微妙。
沢木耕太郎のノンフィクションは
とりわけ、フィクションを多分に
含んでいる箇所も多いだけに、
単純な定義は難しいのですが、
この『作家との遭遇』を読むと、
沢木さんはもしや、
小説家、つまり  
フィクションを著す「作家」に
なりたかったのではないか?
という気がしてくるんです。

出会ってきた作家たちを
心の底では羨ましがっているような。

でも、書く対象をリスペクトしたり
羨ましく思うのは、ある意味、
ノンフィクション作家として
あるべきスタンスなのかしら。

それにしても、
上記に挙げた文学者たちは
全体的に保守的な作家が多い。
というか、ほとんどです。

それはべつに悪いことではない。
でも、ある意味、
沢木さんの読書傾向が
偏っていたことを表している。

リベラルな路線の
大江健三郎も、
丸山健二も、
中上健次も、
津島佑子も、
須賀敦子もいないんですね。

若い時、本好きなら一度は
沢木耕太郎のコラム集
『バーボンストリート』や
旅行小説『深夜特急』に
ハマってしまうもので、
私もそうでした。

ただ、若さを失うに伴い、
徐々に沢木耕太郎では
物足らなくなってきて、
離れていくところがありました。
沢木耕太郎はたしか、
コカコーラに擬せられたことがある、
とみずから書いていた。
「スカッと爽やか」コカコーラの如く、
爽やか佇まいだと、
寺山修司の夫人に言われたのです。
これは褒め言葉なのか、
そうだけではないのか?
微妙な気配の言葉ですね。

文壇通のノンフィクション作家が
作家と様々な場所で遭遇し、
彼らがどんな風に見えたか?
また、どんな言葉を交わしたか?
この『作家との遭遇』は
たいへん貴重なエッセイ集だ。

この本から、
好きな昭和の作家を見つける
足がかりになるかもしれません。

読書とは、常に人や時代との
「遭遇」なのでしょう。

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