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村田商會__「今も昔もこれからも。受け継がれる家具と記憶、そして数々の想い」

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「村田商會は閉店した喫茶店などの家具や食器などをお取り扱いしております。きめの細かいサービスを目指してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。」


村田商會さんのHPのaboutの頁に記載された2文。

私は惜しまれつつ閉店した喫茶店が、喫茶店を紹介する書籍などに掲載されている際に、店舗情報欄に「今は記憶の中にあります」と書かれているのを見て、ぎゅうと胸が締め付けられる思いがした。

と同時に、その「記憶の中にあります」という文言が素敵だと思った。
実際の店舗としてはなくなっても、人々の記憶には存在していて、いつまでも大切な、愛した喫茶店として残っていくことを思うと、温かい思いがした。

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新型コロナの影響で惜しまれつつ閉店されたお店も数知れず…。そしてその閉店の情報も大々的に周知されることなく、ひっそりとお店をたたまれたというニュースを後日聞くこともあった。

___「なんとかできないだろうか」

その思いで、私もこの「喫茶店巡り」の記事を、実際に喫茶店のオーナーさんに取材させていただいて書こうと思い至った、という経緯がある。

古き良き喫茶店。
多くの人に親しまれ、愛されてきた場所。
憩いの空間。

私の力では具体的にお店の方へのお力沿いにはなれないのが歯痒いが、そんな折、閉店されたお店の椅子やテーブルなどを引き取り、メンテナンスを丁寧に行って販売されている方がいらっしゃることをsnsで知り、感銘を受けたのを覚えている。

それが『村田商會』さんであった。

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村田商會さん

オーナーの村田龍一さんは、物静かな笑みをたたえて出迎えてくださった。

現在は奥様とお二人で西荻窪にある「村田商會」というお店で喫茶店を切り盛りなさっているが、元々喫茶店を経営されていた方ではなく、会社員だったとお話してくださった。

では閉店した喫茶店の家具を引き取り販売するという、前例のない事業をなさる村田商會が誕生したのはどのようなことが契機だったのか?


「そもそもの始まりはどのようなものだったのですか?」

____『以前ここは「POT」というお店で、私もここが好きだったんです。お店を畳まれるというお話をPOTのマスターさんに伺って、それで引き継いだのが始まりでした』

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____『村田商會自体は最初は実店舗のない、ウェブでの通販で。2015年8月に始めたので6年くらいですかね…。そもそもは個人的に喫茶店が好きで通ってたお店が閉店すると聞いて、マスターにお願いして自宅に引き取ったんです。』

これなんですけど、と写真を見せてくださった。今でもご自宅で使用しているという喫茶店のテーブル。

思わず「素敵ですね!」と声がうわずってしまう。

以前他の喫茶店さんを取材させていただいた際に、
「喫茶店の椅子が好きだっていって、椅子を写真に撮って作品にしている美大生がいるの」とお話を聞いたことがあるが、まさに村田さんの事業は、そうした方の需要にまさに応えるものだったのだと思う。


「村田商會さんのホームページでは、引き取られた家具があった喫茶店さんの紹介も非常に丁寧に綴っていらっしゃるのが印象的で、拝読させていただきました」

____『やっぱり買ってくださる方にもどのようなお店だったのか、知っていただきたいというのもありますし…できる限りのことがしたいという感じなのですが…(笑)』

「最初はどうでしたか?不躾です申し訳ないですが、軌道にはすぐに乗ったような感じでしたか?」

____『うーん、最初はやはりあまりまだ知られていない状況だったので、今ほど回ってはいなかったですね。
でも少しずつ知ってくださる方が増えて。
今では閉店しようと考えてるオーナーさんに、お客さん(常連さん)が「村田商會っていうのがあるんだけど」って話をしてくれるみたいで。』

「わぁ、いいですね。いろんなところにモノも人も繋がっていくんですね」

____『そうですね、今は自宅用に買ってくださる方が半分で、あとはお店用に椅子などを何脚も購入してくださる方も。自分で行ける範囲のところならば、自分で家具を乗せてお届けするようにもしてるんです。』

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お店の外に並ぶ家具
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店内に並ぶ食器たち

「ご自分で運ばれるんですか?!」

お忙しいのに、大変だろうと思っていると

____『やっぱり実際に会ってお届けしたいんです。
あとは椅子なんかは一つずつ梱包しているとさらに料金もかかりますし、自分でやったほうが良い時も多くて、』

購入者の方はさぞ喜ばれるだろうということが目に浮かぶ。北は北海道から、全国各地から村田商會さんにお問い合わせがある。

『今度は長野の松本に行くんです』と微笑みながら語ってくださった村田さんの笑顔が柔和で、非常に印象的だった。

____『店先に置いてある椅子なんかも担いで持っていかれるご近所さんも多いんですよ』

「え、担いでですか!?」

____『そうなんですよ。すぐ近くだから、って。肩に担いで電車に乗られた方もいます(笑)』

そうしてインタービュー中もグラスを手に来店し、購入されていった方がいらっしゃった。
最近はご近所さんにも認知されてきたので、今では近所の方が買って帰ってくださるという。


「サイトを拝見していると、コーヒー豆入りのテーブルが人気だと書かれていましたが…」

____『そうですね(笑)
でもあれは結構メンテナンスにも手間がかかるんです。
まず運び出す時が大変で。中に敷き詰められた豆の上にガラス板がただ乗っかっているだけで、くっつけられているわけではないので、そのまま崩れないように運ぶのも苦労します(笑)

それから中の豆のメンテも、ガラス板を外して、一回豆を全部取り出して、綺麗にするんです。

ガラス板も綺麗に拭いて。他の家具に比べると少し時間がかかりますね(笑)』


それでも村田さんの扱う家具は決して非常に高価で学生が手が出ないような価格に設定されていない。
倉庫で手間隙かけて丁寧にメンテナンスされて家具たちは綺麗に写真に撮られて、サイトに並ぶ。

家具たちからも喜ぶの声が聴こえる。

村田さんの手によって引き取ってもらい、綺麗になって、誰かの元に行くのが楽しみで堪らないとでも言うような、そんな妄想が透けて見えていく。


____『価格は学生さんにも使ってほしいなという思いがあって。
確かに椅子の皮を張り替えたり、手間がかかるものもありますが、使ってくださらなかったら意味がないというのもありますし。
できるだけ一人暮らしの若い方が買える良心的な値段にしたいと思ってるんです。』


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店内のものもレトロ

ネットからリアルな店舗で

____『三年くらいネットショップで家具の販売をして、それから今の西荻窪の「村田商會」のお店を構えました。ちょうど3年くらいになります』

「POT」という喫茶店だったこのお店を閉店するというお話を聞いて、「ぜひ私に継がせてください」とお願いしたのがきっかけだったという。
3年のネットショップでの経験から、さらにリアルに実店舗を持って、喫茶店をやりたいという思いがあったそう。

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外のガラスにはまだPOTさんのデザインが残っている


「POTさんを受け継ぐ際には前のマスターさんには何かここは、ということはお聞きになったんですか?」

____『特には言われなかったのですが、私自身がPOTの雰囲気を残してここを引き継ぎたいと思ったので、内装もほとんど変えていません。
テーブル席ふたつに、カウンターと小さな店内です。
ただ割合慌ただしく引き継ぎだったので、メニューなどは教えてもらえるという時間もなく、、。
なのでメニューは私になってから変わりました』

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コーヒー専門店という喫茶店ではないので、気軽に飲める味でコーヒーを提供しているという。とはいえ注文から豆を挽いてお出ししているので、しっかりとしたコーヒーの味を堪能できる。

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(POTさんのカップ&ソーサーを受け継いでいます。ロゴが可愛いですね)

Menu

____『コーヒー、カフェオレ、トーストなどが最初にあったメニューでした。今では少しずつメニューも増やせてこれるようになりました』

「これは一押し!というメニューはありますか?」

____『んー、数が少ないという意味では「フレンチトースト」ですかね。一日で出せる量が何せ少ないのでSNSでも見かけるのが少ないみたいで…。あとは「うどんのナポリタン」とか…』

「うどんですか?」

____『もともと家でうどん麺でナポリタンを作ったのがきっかけだったんですけど、美味しいのでメニューにしました。来てくださるお客さんの中には、「うどんのナポリタンしか頼まない」って方もいらっしゃるくらいなんです』

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ブルーベリーとはちみつのトッピングに


フレンチトーストはトッピングが選べるので、頼むたびにトッピングを変えて楽しむこともできる。
ふわとろの優しい優しい味は村田さんそのものを表したようなメニュー。

出来上がるまで店内に漂うフレンチトーストの香りがとっても素敵で、充満する香りのためにずっとここにいたいと思わせてくれる。

また村田商會のロゴ入りの紙ナプキンは帰り際に「もらってもいいですか?」と尋ねる男性がいらっしゃるほど。

奥様も丁寧な方で、「お店のマッチは…」と伺うと、「ありますよ!ちょっと待っててくださいね」とマッチ箱を入れるビニール袋とともに手渡してくださった。

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マッチのイラストは早乙女咲さん。レトロポップで可愛らしいですよね。

喫茶店のマッチは収集している方もいらっしゃるかも知れないが、村田さんも負けず劣らずのマッチのコレクターだそうで、500個を超える村田さんが集めたマッチを展示する展示会も行われたそう。

お会計時にそばに置いてあった、閉店されたお店さんのマッチをありがたく私ももらって帰りました。

お客さんが描いてくださったというイラスト

喜びと

「喫茶店さんとお客さんを繋ぐ中で、今までで印象的だったエピソードなどありますか?」

_____『入谷にあった HANA NO OTOさんの家具を引き取った時です。実はこのお店の家具を買ってくださった方が、購入者でそのお店のファンだった人第1号だったんです』

入谷のお店さんについては村田さんが綴った文章があるので、ぜひホームページでチェックして見てほしい。

閉店を悲しく思っていた方が、たまたま村田商會さんでHANA NO OTOさんの椅子を扱っているのを見て、直ぐに連絡をとったと言う。

自分が愛していたお店の家具を引き取れるなんて……

そんな感動とともに、今も大事に使われていらっしゃるそう。

ただモノを受け継ぐだけでなく、人と人をも結びつけ、想いまで繋いでいく。何本もの見えない糸が、村田さんを通して色んな人に、モノに、思い出に、結びついていく。

実際に使用している写真を元のオーナーさんなどにお見せすると非常に喜んでくださるそうだ。

さらに詳しく村田商會さんの家具がどのように引き継がれているかを知りたい方は、『喫茶店の椅子とテーブル ~村田商會がつないだこと~』(実業之日本社)を手に取って見て欲しい。

実際に購入された方の想いも掲載されている。

(Amazonのリンクです)

お昼から開店の村田商會さん。
開店と同時にお客さんが来店し、すぐに店内は満席に近くなった。

年齢層も比較的均等で、ご高齢の方から若い方も来店されていた。
元々村田商會さんの販売事業がネットでの取り扱いだったため、若い方はSNSをきっかけに知ってくださる方が多いという。

これから

リアルとネット。どちらもやられていく中で、村田さんは今後どのようなビジョンを描いていらっしゃるのか、最後にお伺いした。

_____『今まではやはり閉店して、家具は引き取れても、お店自体が解体されてしまうケースがほとんどでした。
だからこれからは場所も残していけたらなと思っています。
その喫茶店の場所を引き継いでくれる人を、私を通してマスターと繋ぎたいですし、そのような手伝いがしたいですね。
ネットで呼びかけると、手を挙げてくれる人もいるんです』

年季が入り、手入れが必要な喫茶店の家具はアンティークショップやリサイクルショップでは扱ってくれなかった。
だから村田さんがそこを埋めるように、事業を開拓した。

もし閉店してしまっても、そのお店の空間や場所が残るようなお手伝いがしたいという村田さんの思いはとても芯がしっかりしていて、
私もそんな村田さんのように活動が出来たらと憧憬の念を抱き、温かい喫茶店を後にした。

気になる方はまずはホームページで村田商會さんの取り組みを見てみて欲しい。

TwitterやInstagram、各種SNSもやられているのでご自身がよく使うSNSでフォローもおすすめ。

私自身、
芸術を学ぶ中で、古き良きものを6年間研究してきた。
受け継がれていってほしい、その思いは私の根底あり続けている。

喫茶店は一見美術とは関係ないように思う方もいるかもしれないが、かつての喫茶店は芸術家の集うサロンとして大切な場所であり、
昔から人々に愛されてきた対象であるという点で、私は同じように、喫茶店も今後残っていって欲しいと願うものである。

村田商會さんの取り組みがさらに多くの方に伝わって、
目には見えない大切な糸が多くの太い糸になり、
鞠のように丸く、切れ目なく、繋がっていくことを願っている。

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