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【農業】マサチューセッツ州の都市近郊農場と保全地役権

こんにちは。新小樽少年です。
最近、「メルカリ」と「ラクマ」を観ることにはまっています。
「新小樽少年」で出品もしていたりしますので、
チェックしてみてください(笑)

さて今回は連載記事の第4回になります。
テーマは【農業】です。
前回の「ニューイングランドの酪農協同組合と小規模酪農」では、
マサチューセッツ州を含むニューイングランドの地理的位置、
その農業経営形態の特徴などを紹介しました。

これらはアメリカ北東部における「農業の工業化」に対する、
オルタナティブとしての取り組み事例として紹介しています。
今回は都市のスプロール的拡大に、
都市近郊農場の維持、その保護制度、保全展開を紹介していきます。
日本も耕作放棄地という地方における農場の放置が問題になっています。
それゆえ今回の記事はそれに対処するためのカギとも言えます。

農業の工業化」やそれを取り巻く概念は以下の記事を参照してください。

保全地役権による農地保全

保全地役権は家族経営農場と急激な農地の減少のため、
ローカルフードシステムを含む、農地保全に大きく貢献してきた。
日本では、農地は政府機関が規制するものと捉えられるため、
オルタナティブ」としてのニュアンスがやや不明瞭に思える。
そこでアメリカの保全地役権制度の概要、
共同組織「ランドトラスト」の土地保全活動を踏まえ、
保全地役権による農地保全の展開過程を説明する。

保全地役権を次のように定義する。
対象地の土地環境の保全目的に反する行為を一切禁止する権利」、
また「ある土地や建物等の保全を目的として当該不動産に設定する地役権」とする。
要は、土地(建物含む)はいかなる理由であっても保護されるということ。

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表1から分かる通り、保存面積は徐々に増加している。
表は橋本(2019)ならびにNECDを参考に作成している。

ランドトラストとは土地保全に関する民間の慈善団体かつNPO組織のこと。
アメリカ全体でも大きなネットワークを所持している。
ランドトラストが土地の取引に介入することで、
土地の取引を円滑にし、土地保全の拡大に大きく貢献している。

他にも農地保全が拡大した理由はNPO組織などへの税制上の優遇措置があったとされる。

MA州における保全地役権制度による農地保全の展開

保全地役権によって農地保全の目的だけではなく、
環境保全森林保全に大きく貢献している。
なぜなら農地を維持するには、林業などの複合資源の管理を要するからだ。
これらの管理には小規模コミュニティの存在が大きく関与している。
根拠は第1回、第2回記事を参考

ランドトラストの特徴と活動

上記に加え、ランドトラストの活動が保全面積を押し上げてきたとされる。
ランドトラストの大きな特徴はネットワークの大きさである。
例えば新規就農を支援している「ニューイングランド小規模農業研究所」、
ボストン大学アマースト校エクステンションセンター」といった、
地域住民・農家への農地保全に関する情報提供・支援体制整備している。

農地保全制度(APR)による農地保全の取り組みの現状

農地の開発権購入制度(以下、APR)は、
MA州が農地に特化した保全地役権制度CR)であり、
土地の市場価格と農地の利用価格の差額を州が補い、
永続的に都市開発を禁止にするという制度である。
APRは農地の持続的利用、転用・開発の規制に主眼を置いている。

農業者側のAPR設定に伴うメリットは以下のようになる。
開発権の放棄により永久農地を保全営農を可能にする。
②開発権の売却によって得た資金は営農資金として利用可能。
③経営継承に携わるため、相続が容易になる。
④農業者が手ごろな価格で農地購入ができる。

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グラフは橋本(2019)を参考に筆者作成。

以上のグラフからAPRによる農地の保全面積拡大してきている。
ではAPR制度は農家にどのように効果をもたらしたのだろうか。

TM農場に見るAPR制度の意味

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TM農場を営むマシューさんはAPR設定の進められた農場を、
市場価格の3分の1で購入し、継続的な農業に取り組んでいる。
TM農場は元々別のオーナーが所有しており、
借地で営農を続けていく場合、将来的な農地利用は不確実だ。
APR制度は農地の継承、農家の購入ハードルを下げ、営農継続に貢献していることが分かる。

まとめ

ランドトラストAPR制度農地保全に大きく貢献していた。
これが農業を続けたいとする人々の思いをくみ取り、
農業の工業化」への対策、ローカルフードシステムの形成
になることがうかがえる。

ただ疑問点もやや残る。
それは今回の記事ではMA州において、
ランドトラストが農地保全に大きく貢献していると考察できたが、
評価上のヒアリング結果定量的な根拠がやや薄いようにも思える。
とはいえ組織行動並びに、制度が農地保全に大きく寄与していることは、
十分考えられる。
これが要因で小規模農家や、家族経営農業の継続に、
どのように関係しているのか、といったことが気になる。

次回以降はEUにおける農政と家族農業経営の現段階を紹介します。
お楽しみに!!

新小樽少年

参考文献・HP

この記事は『村田武「新自由主義グローバリズムと家族農業経営」筑波書房、2019年』を参考にして書いています。
橋本直史(2019)「第3章マサチューセッツ州の都市近郊農場と保全地役権」
p91-120

The National Conservation Easement Database (NCED)
(2020.03.15 オンライン)

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