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『僕が出会った風景、そして人々』④

まずはお酒の話から

本題に入る前に、お酒の話をしようと思う。

僕の父親は高校の教師だった。酒は飲むわバクチは打つわで、子供だった僕が起きている時間帯に帰ってくることはまずなかった。それでいて生徒に人気があったようで、卒業生たちがよく遊びに来ていて、楽しそうにお酒を飲んでいた。

きっと僕もその血をひいたのだろう。お酒は大好きだった。

○○由
僕が舎人に住み始めた頃、お酒の飲み方を修行した(笑)焼き鳥屋さん。
ご主人は元自衛官で無口で頑固一徹な人だった。空手の心得があり、酔客が暴れてビール瓶を振り回した際、他のお客を守るために剛柔流空手の技を使ったのを、一度だけ見たことがある。
 目にもとまらぬ正拳三段突きだった。

このお店に通い始めて間もない頃、自分がどのぐらいの酒量までイケるか試してみようと思い立ったことがある。
 僕は、焼き鳥を肴にひたすらお銚子を注文した。
 酒はどんどん進み、最終的に空のお銚子を11本まで並べたところで、マスターの「お兄ちゃん、もう止めときな」という一声で打ち止めとなった。
 おそらく、その時点でかなり酔っ払っていたのだろう。
 店を出るまではなんとかもったのだが、酩酊状態で下宿にたどり着いた途端、気が緩んで激しい吐き気に襲われた。

(ごめんなさい。ここから先は、注意してお読みくださいね。)

・・・トイレは2階の廊下の突き当りにあった。僕は玄関から階段を這い上ってひたすらトイレを目指した。しかし、階段を上がり切ったところで、我慢しきれずゲロを吐いてしまった。あとは、一瀉千里・・・。そのままゲロを吐きながら歩き、トイレのドアを開けたところでゲロが止まった。

・・・恐る恐る後ろを振り向いたとき、僕はそこに、自らが残した戦果を確認したのだった。

・・・階段の終わりからトイレまで、それは断続的に続いていた・・・。

その後の事はよく覚えていないが、後片付けが大変だったと思う。

僕が舎人に住んだ5年あまりの期間は、今までの人生のうち、一番お酒を飲んだ時期でもあっただろう。
 でも、あの頃は何というか、真剣にお酒を飲んでいたような気がする。お酒を飲むと、普段はなかなか言えない自分の思いや、心の片隅にしまってある、大切なことなどが、ぽろっと口をついて出ることがある。
 僕はそれを聞き逃すまいと、酒場で居合わせたお客の話には、一生懸命耳を傾けた。そう、当時の僕は、今よりずっと純粋で、貪欲で、他愛もないことで笑ったり怒ったり泣いたりしながら、心の内面と向き合っていた。

同時に、酒を飲んで騒ぎ、滅茶苦茶なことをしながらも、いつも自分の進むべき道を探しあぐねており、常に不安でびくびくしていたんだ。

ところでこの○○由、結構繁盛していたのだが、子供さんの教育上、あまりよろしくないという事情で、店を畳んでしまった。それで、前々回お話しした赤提灯Mに鞍替えしたのだった。

恋愛のお話
いよいよ本題に入ろう。ここまで読んでいただいた方は、とても優しく、他人に寛容な方だと思う。ということで、どうかもう少しお付き合いいただきたい。

至極当然のことながら、舎人に住んでいた5年の間に、僕は常に誰かに恋をしていた。

北海道から出てきた当初は、ある人気歌手にあこがれていた。浪人してまで、その人が一時在籍していた大学に入学したほど好きだった。沖縄出身で「17歳」という歌で華々しくデビューした元祖アイドル的存在といえばおわかりだろうか。(懐メロすぎてごめんなさい。)
 あとは、小学校時代のクラスメート。この人は北海道に住んでいたので、手紙だけのお付き合いだったが、中学時代から大学に入るあたりまで、断続的に文通を続けていた。

大学に入ってからは、最初のコンパで同級生の女の子に一目ぼれした。細身できりっとした目つきの美人で髪が長く、まさに好きなタイプだった。
 僕と同じくカソリック系の高校出身だったため、コンパが始まってすぐ、僕の所に近づいてきて「少し、お話ししません?」と言ってきた。今なら喜んでとことんお相手するところだが、なにしろ当時の僕はカソリック系の男子校に3年も通ったせいもあって、女子に対する免疫がほぼゼロ。しどろもどろになってしまったと思う。
「〇〇さん(僕の名前)は、△△高校出身ですよねー。」
「は、はいよくご存じで。」
 ご存知も何も、入学後のオリエンテーションキャンプのときに、一人ずつ自己紹介して出身高校を言っていたではないか。
 彼女は正真正銘のクリスチャンだった。そして、キリスト教の教義に関するとても真面目な話をしてきたのに対し、僕は「うーん、旧約聖書ですか。ボクはそれよりも、今一番考えている事はですね、自分は何をするために生まれてきたんだろうということですね、ええ。だからまずは宗教よりも哲学を学びたいです。生きる目的を探すためにね。あと、お酒も大事かな。やっぱり。」
 彼女はニッコリ微笑んで、「いいお話をありがとう。」と言って、席を立った。本当に、聖母マリアのような優しい笑顔だった。その瞬間、僕はフラれていたのだが・・・。

・・・ここまで読んでいただいた心優しく、辛抱強いあなた。本当にありがとうございました。次回はいよいよ、舎人でのラブ・ストーリーの佳境に入ります。乞うご期待!(・・・期待してね。)





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