君は翔んだ

なぜ夏は僕らを虜にするのか【PERFECT BLUE/BaseBallBear】

人は夏が好きだ。私も一年で一番好きな季節だ。
なぜ夏は、こうも人を虜にするのか。
イベントが多いからというのはもちろんだし、小学校の頃の楽しい思い出を想起するというのもあるだろう。
だがそれだけでなく、夏という季節が持つ「切なさ」に、人は惹かれるのではないだろうか。

メロディが駆け抜けている。景色を目で捉えられないぐらいのスピードでただ走っている。
歪みのない、だけど軽すぎない、絶妙な音作りでギター小気味良くをかき鳴らす。夏、青、サイダー、黒い髪、Boy meets girl……ベボベらしいキーワードで溢れている。PVを一言で表すなら「青春!!」
こんなにも眩しくて爽やかで美しい曲。それなのに、なぜかこの曲は切なさを忘れさせてくれない。
その秘密は、歌詞にあった。

むせび泣いたみたいな 通り雨がやんだ
いつかの慟哭のことを思い出してしまうな

このフレーズで歌が始まる。
雨がやんだのだ。嬉しいことのはずだ。
なのに、頭に残るのは、どんより暗い空と、大粒の雨が降る街の風景。まさに、「空が泣いている」としか言いようがない風景だ。

そして、サビの歌詞。

君は翔んだ あの夏の日
むき出しの太陽に口づけしようと
そっと目を閉じ
舞い上がった その黒い髪
凛とした青い空に溶けてしまったのにね
会いたいよ また、君に

これだけ見たら、「あ、黒髪の女の子のことが好きなんだな」ぐらいにしか思わないかもしれない。
しかし、2番の歌詞を見れば、全て意味が分かる。

散弾銃みたいな 強い雨が降ってきた
冷たくなった手に触れた夜もそうだった
あれから何度の季節がめぐったんだろう
あたらしい風が吹き
君の知らない季節が ほら、はじまるよ

「君」は、天国に旅立ったのだ。
だから「そっと目を閉じ 舞い上がった」のだ。「凛とした青い空に溶けてしまった」のだ。
そして、主人公は、「君」を失った数年前の夏の日を回想し、「君の知らない」今年の夏に思いを馳せている。
手紙を書いて、しかもそれを出せないぐらい、純粋に愛してた彼女のことは、未だに忘れられない……

歌詞に込められた意味を理解した後だと、この疾走感あるメロディが、悲しい思い出を断ち切らんと、一心不乱に走る青年の姿と重なる気がしてくる。
そして、PERFECT BLUEというタイトル。どこまでも青く澄み切っているが、少し物悲しさをはらんだ、8月の空のような濃い青が目に浮かぶ。


「切ない」という感情が一番似合う季節は、やはり夏だろう。
どの季節も、始まりや訪れという単語とは結びつくが、「終わり」という単語が自然に結びつくのは、夏だけだ。
「終わり」から連想されることといえば、虚無、喪失、別れなど、何かがなくなることばかりだ。
そして、それは、ある種の畏怖の念を私たちに抱かせる。
この切なさ、そして畏怖の念こそ、夏が私たちを惹きつける理由なのではないか。
8月も終わりに近づく中、そんなことを思う一日だった。

PERFECT BLUE / BaseBallBear
作詞 小出祐介

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