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スローフードから始まる食のストーリー


食べるということは、私にとっては人生のかなり中心的な位置にある娯楽だ。人間が生きるために必要なことであるだけでなく、美味しいものを食べた時には最高に幸せな気持ちになって満たされる。なんて、一石二鳥な娯楽なんだと思う。

私は大学生になる頃には、身長はもう伸びなくなってしまったが、美味しそうなものを見るとホイホイと後先考えずに口に入れていたがために、胴囲はひび成長の一途をたどっていった。そのくらいには食べることがすきだった。しかし、食べることだけでなく、食のストーリーを知ることに興味を持つようになったのは、「スローフード」という言葉を知ったことがきっかけだったと思う。

スローフードという言葉を聞いたこともある人も多いと思うが、これは、イタリアから始まった食の草の根運動で、1,980年代にローマにマクドナルドが開店されることへの反対運動から始まり、どこでも均一的な食を提供するファーストフードに対抗し、その地域特有の食や食文化を大切にしていこうという運動である。

大学生の頃、まちづくりの研究室に所属していた私は、授業の研修でイタリアに行くことになった。行くまでは正直、イタリア旅行だ!いえーい!くらいのノリで、ピザやパスタが食べれればいいな、くらいにしか考えてなかった。

しかし、実際に行ってみると、
街の広場の広場では、日本でみたことがない、おとぎの国から出てきたようなカラフルで面白い形の野菜やきのこがごろごろと並ぶ。肉屋の壁には、豚の足そのものといった感じの生ハムが大量に立ち並でいるのをみて、冷蔵庫に入れなくていいんだとびっくりした。
日本ではすでに薄くスライスしたものしか見たことがなかったチーズは、丸かったり、四角かったり、ひょうたんみたいだったり、いろんな形があり、好きな量で量り売りをしてくれる。日本では、パズルのピースしかみえなかったものが繋がり、こんな形だったのかとはじめて一つの絵が見えたかのようだ。

無題 - 2021年2月21日 01.38.15

滞在中は、ワインの王様バローロの醸造所や、世界遺産のランゲの葡萄畑、食を専門とする大学の見学や、スローフードの祭典に参加したりした。

 その中で出会った、生産者や、楽しそうに仕事をするお店の人、通訳をしてくれていたイタリア人も、食への思いを熱く語っていた。人々から、そして街全体から、地域の食を大切にしようという意識や、自分たちの食への誇りをめちゃくちゃ強く感じとれた。そして何よりも、信じられないほど、どの食材もおいしい。
例えるならば、握り寿司とカルフォルニアロールが別物だというくらいに、日本で食べた生ハムやワイン、チーズと、現地の食材とでは、こんなにも違うのかと驚いた。

ヨーロッパのワインやチーズは、DOPやAOPといった認証制度があり、
(参照:知っておきたい美食の認証制度~AOC、AOPなどの用語解説)
限られた地域で、伝統的な製法に沿い、その他にも色々と厳しい条件をクリアしないとその食材の名を名乗ることができない。

たとえば、DOPに認定されるパルミジャーノレッジャーノ(でかくて丸くて硬いチーズ。パスタにかける粉チーズや、くりぬいてリゾットなどにされているをみたことがある方も多いのではないかと思います)は、イタリアの北部、エミリアロマーニャ州が主な生産地で、二年という長期をかけ熟成される。12カ月をすぎた時点で審査が行われこれ以上の熟成に耐えられないと判断されたものは、メッツァーノという名付けられ除外される。(さらには36カ月熟成とかもあります。)また同じような製造方法で作られたチーズもその地域以外のものは、パルミジャーノのとは名乗れず、パルメザンチーズと言われる。


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このように、チーズひとつにしても、食材には物語がある。その背景を知ることは楽しい。

私は今埼玉県に住んでいる。埼玉は、近年ヒットした映画「翔んで埼玉」でも表現されているが、ダサイタマ、東京に近いということ以外は取り柄がない不毛な土地と、自他ともに思いがちな県である。
だけど小松菜や里芋など出産額が全国で上位だったりと意外にも、農業が盛んな県だったりする。(参照:JAグループさいたま 埼玉の農産物全国トップ10)そして埼玉県の特産品の中でも、私は、狭山茶の物語が好きだ。

狭山茶は静岡茶や京都の宇治の抹茶のようなブランド力はないかもしれないが、「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」という言葉あるように、味わい深いお茶だ。そして、多くの茶園さんが、自園(お茶を育て)・自製(お茶を加工し)・自販(お茶を販売する)という販売形態をとっているため、それぞれの生産者のこだわりが違っている。狭山茶と言っても、生産者ごとに、それぞれのストーリーがあるのだ。

2019年に地域をテーマにしたクリエイター展に出展した際に、お茶の生産者さんに話を伺い、それをイラストと文章でまとめたものを展示した。
お茶の生産者さんの話を聞くと、おいしいお茶を消費者に届けるために、育てる時点、そしてそれを加工する時点、そしてどうやったら多くの生産者に届けることができるかという販売に関する時点で、それぞれが先代から受け継いだものと今の時代だからこそのチャレンジを組み合わせ、これからの茶業界を切り開いていくために、前向きに挑戦を続けていることが印象的で、とてもかっこいいと思った。

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ひとつの食材があれば、ひとつの料理があれば、ひとつのお店があれば
きっと食に関するストーリーは、幾千にも広がっているんだと思う。

コロナ禍で移動が制限されることにより、地元を知る機会が多くなった今、自分の身近な食に関するストーリーをもっともっと見つけていきたい。

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