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【編集後記】映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP 〜season1〜

今回のインタビューでは、2,3月にかけて11人の女性スタッフにご参加いただきました。毎回率直な声が寄せられ、ここに載せられなかったエピソードやご意見もたくさんありました。インタビューを通した声から、いくつかの問題点が浮かび上がってきました。

現場の声 Mash UP〜season1〜 記事
Vol.1【トイレ】がない!
Vol.2【プライベート】がない!
Vol.3【お金】がない!
Vol.4【契約書】がない!
Vol.5【訴え先】がない!
Vol.6【未来】がない!

旧態依然の組織

 まず、撮影所時代から変化していないスタッフの組織構成の維持が限界を迎えているということです。大手映画会社がスタジオを持ち、監督や脚本家以下のスタッフ、俳優から大部屋俳優までを社員として雇っていた時代には、助手から技師へとポジションが上がっていく中で技師にならなかったり、適性が合わないということがあれば会社内で別の部署へ異動になったり、管理職になったりという道がありました。
 今はスタッフのほとんどがフリーランスであるため、年齢によりポジションが上がっていくと技量が伴っていなくても監督や技師になるべきという状況になります。また、助手の報酬が少ないために、ライフステージの変化によってポジションの上昇を目指さざるを得ません。インタビューで発言があった「上が詰まっている」というのは、メインスタッフに対しての助手のバランスが崩れてしまっている現状を示しています。

ハラスメントの起きやすい職場

 次に、撮影現場にはハラスメントの起きやすい環境条件が揃っているという点です。商業映画の現場では、30〜120人ほどのスタッフが2週間〜3ヶ月程度集まって閉鎖的な環境で仕事をします。過重労働が常態化しており、撮影に入ると十分な休息を取ることができず、時間に追われ強いストレスにさらされます。ジェンダーギャップも大きく、監督とプロデューサーを頂点とした組織内の権力勾配が強い傾向にあります。

 また、撮影が終わると多くのパートは解散するため、ハラスメントを受けた人が撮影が終わるまで我慢してしまい、ハラスメントが表面化しないとういうことが「泣き寝入りするしかない」という多くのインタビュー発言でも確認できました。

そのため加害者に自覚を促すことができず、時が経ち権力が肥大するにつれハラスメントがエスカレートしていくケースも見受けられます。この4月よりパワハラ防止法の適用が中小企業にも始まりましたが、フリーランスへは適用は義務ではありません。(*2019年日本俳優連合他による厚労省への要望書提出  *3/24に監督有志の会により文化庁への要望書提出。)

フリーランス労働の問題点

 そして、以上の問題点の通底をなすのが、フリーランスに対する労働条件整備の未熟さです。フリーランスへの契約書や発注書の発行を義務付ける下請法は、現在資本金1000万円を超える企業に適用されるため、多くのプロダクションで遵守されていません。そのため多くのスタッフが口約束での案件受託により、報酬のダンピングやキャンセル保証がない、業務内容の相違などの問題に直面します。

 フリーランスは社会保険や税務、福利厚生に関しても一般の会社員(労働者)に比べてずいぶんと不利益な条件となっており、今後インボイス制度の導入によりさらに多くの税金を支払うことにもなります。

 そもそもフリーランスというのは個々の能力への評価として、先の不利益を十分にカバーする報酬が支払われるべきで、業務委託契約という形で業務の進め方や労働時間、報酬について企業と個別に条件をすり合わせる必要があります。しかし映画界では口約束という慣例によって、条件の交渉さえ許されない状況なのです。

 この点は今後下請法の改正による契約書義務の拡大が早急に行われるよう望むばかりですし、文化庁による文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議の内容が映画界にも適用され、契約書を交わすことが当たり前の状況にしていかなくてはなりません。

重い腰を上げて

 これらの問題点は以前より当事者やプロダクションも認識していたと考えられますが、映画界独自の組合が存在しないことから声を上げる先がなく、改善されないまま現在に至っています。問題解決には様々なアプローチが必要ですが、対処療法ではない、抜本的な構造の転換が求められるのではないかと思います。しかし慣習が強く根付いている映画界にとって、それは容易ではないでしょう。

 大手映画会社が重い腰を上げ、プロダクションに余裕のある予算を与え、そこからまず映画スタッフたちに労働者としての適正な賃金を支払い、休息を与えなければ疲弊している当事者は自らの労働問題に取り組むことすらできないのです。

 インタビューには辛いエピソードが並びますが、面白い映画を作りたいのだから、この状況をなんとかしたいという強い気持ちをインタビューに応じてくれた彼女たちの言葉からひしひしと感じました。彼女たちや若い映画人たちが希望を持って、それぞれの能力、クリエイティビティを存分に発揮できる映画界に変化していくことを願い、JFPでは引き続き、今回インタビューできなかったパートや、ポストプロダクション、上映者の方々などの現場の生の声の可視化を試みていきます。

〜Season2に続く〜

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。

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