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Episode2 【プライベート】がない!〜映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP 〜

JFPではこの度、映画の制作現場で働く女性スタッフの皆さん、9つの部署から11名の方にご参加いただき複数回インタビューを行いました。この「現場の声 Mash UP」では、インタビュー参加者が不利益を被ることがないよう全員匿名とし、発言者やエピソード詳細を入れ替え再構築し編集しています。

問題や課題を感じていても、発信しにくい立場の方々からの具体的な声を可視化し、問題点を共有しようという試みです。日本映画界の労働環境の改善に向けて、今後どのような取り組みが必要なのか?
実際の現場からの声、第2回【プライベート】がない!をお伝えします。
取材:近藤香南子・歌川達人 / 編集:近藤香南子

<インタビュー参加者>
年齢:20代〜40代(キャリア5〜15年)
部署:アシスタントプロデューサー、演出部、撮影部、録音部、メイク部


やってもやっても終わらない

JFP:映画の撮影現場が長時間労働であるというのは、よく知られているところですが、具体的につらく感じているのはどんなところですか?

演出部:今私はサード助監督をやってます。1ヶ月くらい、毎日24時までスタッフルームで先輩と一緒に準備をしていて、面白い作品ではあるんですけど、やることがすごく多くて。調べなきゃいけないこと、作らなきゃいけないことがたくさんあって。毎日そんな生活をしていて、先輩と「この雇用形態、労働状況は変わらないといけないよね、おかしいよね」って話をしていました。どんなに好きな監督で面白い作品だったとしても、これはちょっとおかしいよなあって。

JFP:一人当たりの仕事の量がすごく多いんですね。

演出部:そうですね。出勤が遅いわけではなくて朝9時ぐらいから、やってもやっても終わらなくて、終電になる。楽しいっていうやりがいだけでは、ちょっと厳しい。結果的に下の子達がやめていく。作品の内容によって人数を増やすなり、調整して欲しい。私たちが合流して具体的な準備をする前に、作品のスタート時点でもっと考えて欲しいと思います。

AP:準備期間がたくさんある作品ってなかなかないですよね。常に準備期間がない。プロデュース部的にいうと、予算を削減するために人件費を削りたいわけです。十分な時間を与えるってことは、働く人を長く拘束しなきゃいけない。その予算を削りたいということだと思うんですよね。

演出部:そういうもんだってのが染み付いちゃっている。映像業界は大変なもんだ、無理して当たり前みたいな。

AP:その代償は、一日24時間フルで働かないといけないスタッフが払ってる。寝る時間、休む時間、家族と過ごす時間が、考えられていない。ほとんどの作品が、「足りない予算でどうにかやってください」という状況。

制作部:結婚していない女性の先輩から、「仕事は自分の頑張りで取り返せるから、まず結婚しなさい。結婚が全てではないけど、結婚しなかったことだけが後悔だ」って言われたこともあります。でも実際今、一週間後にインする作品を控えてるんですけど、自分の私生活全てを捧げることを望まれる。そう言われるわけではないけれど、実際そのくらいの気持ちでやってないと成り立たない仕事量。生きていくための仕事をしていて、常に全力でやらなきゃいけないの?となると、諦めるしかないのかなって。

AP:準備パート(制作・演出・美術装飾小道具・衣装部など)は撮影前の準備期間から拘束されるんですが、時間が無くて撮影に入る前にすでにヘトヘトということも多いです。

何でもかんでも制作部

JFP:長時間労働は撮影期間だけじゃないんですね。撮影に入るとどうですか?

録音部:日によって違うけど、カメラが回る時以外にも前後にそれぞれ仕事があるし、結局、拘束時間は長くなりがちです。

演出部制作部さんは一番最初に現場に来て、一番最後に帰るから・・・。

制作部睡眠時間がまともに取れないことも多いです。ロケハンや様々なセッティングなど仕事は本当に多岐にわたるのですが、一言で言えば”現場ではスタッフのお世話”ということになると思うんです。一番最初に現場に行って、「ここに機材を置いて。ゴミはここ。車はここに移動してね。」と準備をする。

演出部:とにかく制作部さんがいないと撮影にならない。

制作部:でも、決まった場所以外でタバコを吸ったり、言うことを聞かないスタッフや、制作部を小間使いだと思ってるようなスタッフもいるので、とにかく仕事量が多い。最近は改善されてるってよく聞くんですが、現場の最前線ではそんなに良くなっていないと思います。

JFP:現在、経産省主導で「映像制作適正化機関」を業界内で作って、撮影現場のルールを決めようという動きがあるんです。その中にこんなルールの検討案があるのですが、どう思いますか?

*映像制作適正化機関に関する経産省の調査報告書 より

制作部:例えば、撮影が朝8時からだったら、制作部は遅くとも6時には現場にいる。その場合19時には片付けを終えてないといけないってこと?結局、13時間じゃどうしようもないから前日に準備して、となりそう。制作部だけじゃなくて準備パートは二班体制にしないと難しいのでは。

録音部今の人数と撮影期間では不可能に見えますね......。

制作部:「就業時間は制作部もしくは電子的な手段等で把握」とあるけど、これ以上制作部の業務を増やすのか......。一人それ担当の人を雇って欲しいですね。どこの部署にも該当しない仕事が発生すると、なぜかいつも制作部がやることになるんですが、だったら人を増やして欲しい。

演出部:衛生班(*コロナ対策を行う)も、小規模な作品だと制作部がやりますもんね。

制作部:そう。もう限界ですよ。

撮影部:「13時間を超える場合はインターバルもしくは翌日の休日の確保」とあるけど、「次の日休みだから朝までやろう」という事になりかねない。制作部さんは後片付けしたら翌日は休みじゃないですよね。

制作部:運転席に突っ伏して眠るだけですね。

撮影部海外みたいにオーバータイムのギャランティーが決められてたら、少しは抑止力になるのかな?長く撮影するとコストがかかるとなると。今は決まった額で、言ってしまえばいくらでも働かせられる。

AP:このルールを守るためには、確実に撮影日数を増やさないといけないし、かかるお金も増えますね。お金、予算をきちんと出してくれないと成立しない。


幻の撮休を求めて


録音部:「週一回の完全休養日」とあるのは本当に完全な休みなんでしょうか。

JFP:完全に何もしない休み、ということのようです。

AP:現状の撮休は、カメラが回ってないだけで仕事は休みじゃない。プロデューサーはメールの処理、演出部、美術装飾は先の確認や飾り込み、衣装メイク部も洗濯したり次の準備、技術パートも機材のメンテナンスや積み替え。監督も休めず、何かトラブルの処理に充てられることも多い。衣装合わせが終わってないとか、ロケ場所が一つダメになったからメインスタッフはロケハンとか。

録音部完全休養日+準備日が必要ですよね。トラブル対応する余裕を持たせたスケジュール、準備する日、移動日。それらがあった上で、完全休養日を設定して欲しい。

演出部:韓国で仕事をした時に、すごくいいなと思ったのは、休みの曜日を固定するんです。今回の撮影は毎週金曜が休みです、と。撮影の都合で休みを動かすときは、現場スタッフの了承が必要で、もちろん準備の日は別に確保されていました。

メイク部:すごくいいですね。今は撮影が1ヶ月なら1ヶ月間休みはないものと思っているから、そんな風に予定が立てられるような休みがあったら嬉しい。妊活中の友達が、やっぱり現場があると定期的な通院が難しいと仕事を休んでいるんです。

AP:休みがわかっていたら、家族と過ごす時間や、友達と会う予定、病院に行く時間なんかも取れる。今の撮影のスケジュールだと、たまたま早く終わった日に、電話して空いている歯医者に飛び込んだりするような状況じゃないですか。自分のリラックスする時間を取ることすら難しい。時間ができたらとにかく寝ないと持たないし。

演出部:今回のインタビューを受けるとなって、Netflixオリジナル作品をやった友達に、撮休がどれくらいあったか聞いてみたんです。

制作部:それは知りたい。やっぱり配信系はしっかりしてるって聞くし。

演出部:映画で、3ヶ月撮影があったそうなんですが、公式に準備や移動が入ってない撮休が、7日間だったそうです。しかも12時間ルールはあるけど結局守られていないと。

撮影部:3ヶ月で7日.......。

メイク部:1ヶ月に2日.......。

制作部本当の撮休が欲しい.......。今すぐ欲しいです。

休まず働く訓練

演出部:「6時間以上の撮影に30分以上の休憩を一回以上確保」というのも、現状30分の休憩のうち5分で食事して25分準備してる時もありますしね。わーって食べて、「次の小道具の確認しましょう」みたいな。

JFP休憩してませんね。

録音部:東南アジアでロケした時に、お弁当がないから、みんなで食べに行くんですね。13時開始だって言ってレストランから車で戻るのに20分、12時40分にさあ店を出ようとなったら、バスが来ていない。現地スタッフは休むときは休むという切り替えができるんですけど、私たちは切り替わらないように訓練されている。そうそう簡単にはできないですよね、そわそわしちゃう。30分くらいの休憩取るには60分くらい用意しないといけないのでは?

制作部:休憩時間に作業しないといけないくらいゆとりがないってことも多いし、休み慣れていない。自分もそうだけど、とにかく休むのがヘタ。

撮影部:休まず働くように訓練されてきた。私たちは訓練受けた後だから.......。この訓練キツイな、って人は辞めちゃってる。

録音部:働いていること、頑張りを見せていることが美徳みたいなものがまだまだ残ってる。アメリカみたいに「だらだら残っている人は仕事ができないと思われる」ぐらいの意識になるといいな。

AP:欧米では「むやみに手伝って、他人の仕事を取ってはいけない」となることもあるし。日本映画は手が空いたらすぐ、他のところを手伝って。何から何までみんなで。いいところでもあるし、楽しいんだけど、「人が少なくても大丈夫」と思われているのかもしれませんね。

永遠の課題

演出部:拘束されている期間は休めない、という事になると、やっぱり私たちにのしかかってくるのは出産・育児なんですよね。

AP:運よくこの仕事に理解のあるパートナーと出会えたとしても、そもそもプライベートがない仕事だと、出産育児はすごく難しい。「家庭との両立と言ったところで可能なのかな、辞めないと無理なんじゃないかな」ってどうしても思いますよね。

演出部:男性の助監督で「結婚するために演出部をやめた」って話を聞きました。パートナーがこの業界の人なら事情がわかるにしても、どう考えても異常な仕事量だと思うんです。それで夫婦関係に亀裂が入っちゃう。

JFP:天秤にかけないといけないような状況は、男女問わずしんどいですね。

制作部:大変だから妻子は実家にいます、みたいな人もいるし、地方ロケから帰ったら同棲中の彼女が消えていたという話を耳にしたりもします。

演出部:カメラマンが子どもに顔覚えてもらえないとか。そういう話をずーっと聞いてるから、そういうもんなんだって、家庭は持てないんだっていう洗脳みたいなものがあると思うんです。今からでも、スタジオに託児所があったり、子育てをしながら働いている人を、若い世代の方が見ることができたら。私が若い頃ってそういう人はいなかったから、家庭と両立してるロールモデルがもっと増えるといい。

撮影部:最近機材チェックで機材屋さんにいると、男女問わず子供を連れてきている人が多くて、すごくいいことだなと。コロナになってからですね。

録音部:身の回りの女性が出産することが増えてきたんですけど、産後戻ってくるのはほとんどCMの現場。ドラマや映画をやってた方って、ほとんど戻ってきていない。それが個人的には悔しいというか。CMで撮影1日だと実家やパートナーの協力で何とかなるけど、それこそ1ヶ月地方に行くとなるとやはり難しい。長期の撮影で子どもがいる方が働けるようにというのは課題ですね。

メイク部:育休があるわけでもないし、子どもを産むとなると妊娠から産後までの期間は完全に収入が無くなってしまうので、躊躇する場合も多い。これはどんな仕事に就いても悩みが尽きない問題ですよね。

JFP:フリーランスでも利用できる育休制度があるといいですよね。声を上げてくれている議員もいるので、今後の国の施策も注視していきたいですね。

【関連リンク】

*フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(内閣官房・各省庁による 令和3年3月)
*経産省による映像制作現場の適正化に関する調査報告書

Vol.3【お金】がない!に続く


※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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