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Episode3 【お金】がない!〜映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP 〜

JFPではこの度、映画の制作現場で働く女性スタッフの皆さん、9つの部署から11名の方にご参加いただき複数回インタビューを行いました。この「現場の声 Mash UP」では、インタビュー参加者が不利益を被ることがないよう全員匿名とし、発言者やエピソード詳細を入れ替え再構築し編集しています。

問題や課題を感じていても、発信しにくい立場の方々からの具体的な声を可視化し、問題点を共有しようという試みです。日本映画界の労働環境の改善に向けて、今後どのような取り組みが必要なのか?実際の現場からの声、第3回【お金】がない!をお伝えします。
取材:近藤香南子・歌川達人 / 編集:近藤香南子

<インタビュー参加者>
年齢:20代〜40代(キャリア5〜15年)
部署:アシスタントプロデューサー、演出部、撮影部、録音部、メイク部


お金がなくて命の危険

AP:ハードな撮影・スケジューリングに関して、お金がないっていうのが制作現場の常套句になっていると思うんですが、余裕があるスケジュールに変えるって、結局お金なんですよね。

JFP:やはりお金の話になってきますよね。

撮影部:CMや予算がある現場ではあまり無いですが、中小クラスの制作会社だと、カラコレ(*映像の色味等の調整)をカラリストに頼まず、編集の人がやるとか、プロにちゃんと頼まない状況があります。ドローンも、機材が安いので制作部が飛ばしますとか。プロにお金を払わない状況が発生していて、そんな状況で、余裕のあるスケジューリングが現実的とは思えなくて。

演出部スクリプターさんをつけないとか。録音部、編集部の仕事が増えて、現場でのミスが増えるし、結果的に作品のクオリティーが下がるのに。

メイク部:ヒーローものの現場に行ったら、昔は2週間で2話撮っていたのを、5年前には10日で2話になって……。昔はアクションだけに当てられる日があったけど、今はそれも無い。始発がないから「タクシーで4時に集合、地方で点々と撮影して、24時に戻ってきて、また4時集合」とか。基本寝る時間は2~3時間、メイク部がそれだから、衣装、美術部、制作部はもっと寝れない。もう死んじゃう、絶対やだって思いながら頑張ったんですが、こんなん無理じゃない?

録音部:予算がないから、録音車を自分で出してと言われることも。スケジュールすごくきついのに、自走して移動、現場が始まりそうなのに自分でパーキング探して、停めて……。そういうのが本当にきつかった。車のこと、運転に関して私は決まりを作って欲しいです。制作部さんがドライバーやったりするのが結構怖くて…….。移動は、忙しいスケジュールの中でも休める時間だと思うんですけど、自分と同じかそれ以上に寝ていないスタッフが運転していると思うと、怖くて休んでられないです。

制作部:そう、運転もしないといけない時は本当にしんどいです。過去に何度も事故が起きてますし、亡くなってる方もいます。

演出部:九州から東京まで全部制作部の運転で、という時もありましたね。運転問題に関しては、確かにいつ誰が死んでもおかしくないなって思う時があります。お願いだから車両部さんつけて欲しい。

昭和の相場

メイク部:この前広告の仕事をした時に、「うわ、こんなにお金もらえるんだ」と思ったんです。広告の中では適正なのかわからなかったんですが、現場も半分くらいは女性で、和やかに現場が進んで、幼児が出演してたんですけど撮影がおしててもピリピリしないし、媒体によって全然違うなって、びっくりしました。

JFPお金の余裕は心の余裕っていうことですかね......。

メイク:その現場で女性の美術さんと話してたら、「広告は女性が多いよ、いつもこのくらいですよ」と言っていて。広告と映画ドラマはギャップがあるんだなと。

撮影部:実際のところ、広告の仕事を入れないと映画だけでは食べていけないです。映画の業界は低賃金。広告と映画で、どのくらい差があるのか実際に示してみたい。相場が共有されていないから。パートによっても違うし。

演出部:映画では「1ヶ月〇〇万円で」と最初に話すんですけど、演出部、制作部の相場が、もう40年近く変わっていないらしいんです。

制作部:七五三って言われるやつですよね。実際そんなにもらえてなくない?

演出部もらえてない。チーフ70、セカンド50、サード30。これはある程度しっかりした大手の作品で、やっともらえる額。作品によって、実際はギャラにすごく開きがある。

制作部:しかもそこから、交通費、撮影用の防寒着などの経費、国民健康保険料と年金、住民税と所得税(*源泉徴収されるため確定申告が必要)を自分で支払うと......。

JFP:可処分所得は、かなり少なくなりますね。もし30万円のギャラでも、20万円切ります。今後インボイス制度で消費税を払うとなると、プロダクションが消費税を計上してくれない場合、自分でさらに3万円弱払うことになります。

制作部:それで2ヶ月なり3ヶ月なり、休みなく、早朝から深夜まで。

演出部:労働量に見合っていない。作品と作品の間が空くこともあるし。

JFP:40年前と比べると、物価も税金もかなり上がっていますもんね。消費税も無かったですし......。

制作部私が生まれる前の相場。昭和ですよね。それで現場で一番長く、早朝から深夜まで働いている制作進行の子が15万、18万とかでやっている時もある。それはやめていっちゃうよなって思います。一番たくさん貰ったっていいと思う。

協会もない......

JFP:賃金の面で技術パートの皆さんはどうですか?録音部さんは協会がかなりしっかり線引きをしていると聞いたことがあります。

録音部:そうですね。暗黙の線引きみたいなのはあると思います。

撮影部:絶対守られているわけではないけど、技術パートは何となくありますね。でも、そのあたりも制作体制によってかなり違ってきます。予算がないと言われると、交渉の余地がなくて結局安く引き受けて、という場合も多いです。

JFP:技術パートはそれぞれ協会があって、入っている入っていないに関わらず、一応相場があるんですね。

録音部:一応ですね。

JFP助監督や制作部など協会が無いパートが多いですし、そもそも、各協会は基本的に技師クラスが入るもので、助手のほとんどは協会に入っていません。

*映職連加盟の団体図

映職連(日本映像職能連合)HPより

演出部:他の人がどんな作品でどれくらいもらっているか知らないので、特に最初の頃は安いのが当たり前なんだって思ってましたね。

JFP:スタッフのうち、協会でカバーされている人たちがあまりにも少ないですね。お互いの相場を知ることや、ギャランティーの最低ラインの設定も、協会がないと共有しづらいですね

ギャラを決めるのは誰?

メイク部:皆さん個別に制作サイドとお金の話をするんですか?

演出部:そうですね。大体はラインプロデューサーと。

メイク部:......助手の方も?

撮影部:技術パートも大抵の場合そうだと思います。技師がまとめて交渉してくるときもありますが。

メイク部:衣装部もそうだと思いますが、メイク部は自分がついている師匠からお金をもらうんです。メイク費全体の中からアシスタントの人件費が出るから、「今回予算が少ないから、ゴメンこれで」ってことがある。

JFP:メイク部でかかる経費とか含めて全部の中から、師匠の采配で割り振られるってことですか?

メイク部:そうなんです。「一日いくらで来てね」という感じです。仕事をしているとミスもするし、修行中の身だとか色々考えると、自分の師匠に「これだけ欲しいです」と自信を持って言えなくて….。言われた値段で、それ以上言えないって気持ちになっちゃう。プロダクションと直接やりとりできなくて、自分は師匠のもの、所有物みたいに感じて、悲しいです。人として仕事の契約すら結べない。

JFP:メイク部、衣装部さんだけがそうなんでしょうか。

演出部:美術装飾部の助手や小道具さんもそうだと思います。部のグロスの予算から自分のギャラが出るということが多いんじゃないですかね。美術会社に所属していると仕組みが違うのかもしれませんが、自分の部署のボスと直接話すことになります。

APグロスで払われてるのって、お金がないと真っ先に予算の配分が減らされるパートなんです。撮影中にピンポイントで応援を入れたりもするので、グロスでお金を払って「これでなんとかしてね」ということになりがち。私も演技事務の仕事をすることがあるので、衣装メイクの助手さんと接する機会が多いんですが、本当にびっくりするほど少ない額で仕事されています。

演出部:例えば「美術費1ヶ月50万でよろしく」と。その中で美術費、自分と助手の人件費を工面するようなこともあると聞きます。もし余裕のある予算を制作サイドが渡していたとしても、会社で分配される過程でアシスタントのギャラが安くなってしまうこともありえますしね。

メイク部:映像もですけど、ファッション業界も最初はノーギャラが多いんですよ。修行的な扱い、弟子として。弟子なので、いつでも動けるようにしないといけなくて、おつかいみたいなこともさせられるし、ほぼ休みがない設定で働かされる。業界がこれを受け入れてるのが良くないですよね。

JFP:アメリカの労働環境に詳しい方から伺ったのですが、「労働環境改善の運動は、まず自分たちの給料をオープンにすることからスタートする。自分たちがこれだけ働いてるのに、これだけしかもらっていませんよ。でも、この映画を作っている会社の役員報酬はいくらですよね。」というのがベースにあると。諸外国ではそういう報酬の情報開示が進んでいるけど、日本はまだ。

演出部:制作予算の内訳すらスタッフに開示されませんね。だいたい予算5000万くらいの作品だよ、程度の情報しか知らされないです。

AP:アメリカだと、それぞれがインディーズでのキャリアを積んだ上で、組合員の推薦で組合に入る。レベルに応じて金額が決まって、賃金について明確な基準がある。

メイク部:私は上の人の心持ちひとつで額面が変わってしまう.......。せめて協会か何かがあったりして、生活できる最低のラインだけでも決めてほしいです。

【関連リンク】*日本にも組合機能を持った​​ 映画演劇労働組合連合会(映演労連)がありますが、映画フリーランススタッフの加入者は少ないようです。

Vol.4【契約書】がない!に続く

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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