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Episode1【トイレ】がない!〜映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP〜

JFPではこの度、映画の制作現場で働く女性スタッフの皆さん、9つの部署から11名の方にご参加いただき複数回インタビューを実施しました。この「現場の声 Mash UP」では、インタビュー参加者が不利益を被ることがないよう全員匿名とし、発言者やエピソード詳細を入れ替え再構築し編集しています。

問題や課題を感じていても、発信しにくい立場の方々からの具体的な声を可視化し、問題点を共有しようという試みです。日本映画制作現場の労働環境の改善に向けて、今後どのような取り組みが必要なのか?実際の現場からの声を6回にわたりお届けします。
取材:近藤香南子・歌川達人 / 編集:近藤香南子


作品ごとに協働するたくさんのスタッフ

<インタビュー参加者>
年齢:20代〜40代(キャリア5〜15年)
部署:アシスタントプロデューサー、演出部、撮影部、録音部、メイク部


女性の多い現場、どうですか?

JFP:皆さんパートやポジションなど違いますが、若手スタッフ・女性という観点から映像制作フリーランスの労働環境についてお話をお聞きしたいと思います。映画の撮影は毎回スタッフが入れ替わりますね。男女比が毎回違うと思うのですが、それによって違いを感じたことなどありますか?

演出部:今撮影中の現場、制作部の進行の方が3人、みなさん女性なんです。

制作部:おお。技術パートの助手さんが全員女性とか、最近はそういうことも多いですよね。でも女性が多いからってきゃっきゃしたりとかは意外と無い気がします。スマート。

撮影部:ちょっと風通しがいいという感じはしますよね。

演出部:うんうん確かに。

制作部:他の組では怒鳴り散らしているような、往年のパワハラセクハラ大好き系おじさんでも、女性が多い現場では穏やかで猫かぶっていたりします。

撮影部:確かに。男性が多いと体育会系の雰囲気になっちゃうのかな?どうしてもポジションで序列があるから部活っぽくなりますよね。先輩、後輩という。

演出部:現場に入った頃、6〜7年前ですが、化粧とかを比較的ちゃんとしていたら、「まだそういうのやる余裕あるんだ」と制作担当の人に言われて。怖っ!てなって、お化粧全然できなくなっちゃって・・・。もう年齢上がってきたんで、最近は気にせずやってるんですけど。

AP:確かにそういうのはあるかもしれない。なに色気づいてんだ的な見られ方。

メイク部:他のパートのスタッフと話しちゃダメって言われたこともあります。

AP:衣装部のアシスタントさんが「チャラチャラしてるって思われるからやめて」って言われてるのも見たことありますね。

制作部:現場入りたての頃、何したらいいかわからなくなって手持ち無沙汰になっていたら、「遊びにきてんじゃないんだよ、お嬢ちゃん」みたいに言われることがよくありました。若い女性というだけでそう見られていたのかな。

メイク部:そういうのチクチクありますよね。衣装メイク部は女性がほとんどだから、そんな風に見られないように"真剣に仕事をしているんだぞ"って、すごく先輩たちは気をつけてきたんだなって感じます。

撮影部:ああ、なるほど。

メイク部:でも結構ツラいですね。撮影照明待ちはいいけど、メイク待ちはダメみたいに急かされることも多くて、待たせてすいませんみたいな感じでカメラ前に入らなきゃいけなかったり。ちょっと衣装メイク部が軽視されてるって感じちゃうことがあります。

演出部:確かに、急かしてしまっていたかもしれません。

メイク部:「メイク部は、現場で一番下だから底辺だから、意見しちゃダメだよ。」って先輩に言われたこともありました。広告・ファッション業界では同じ立場で作ってるって感じなので、すごいギャップがあったし、俳優部のケアっていう部分も大きいし、責任ある仕事をしてるのに、現場で小さくなっていなきゃいけない。

AP:やっぱりそういうことも女性が多い現場だと少しはマシだったりするんでしょうけど、まだ組(*作品を監督名で○○組と呼ぶのが通例)によって結構差がありますね。

男性向けの職場

制作部:どうしても男性に仕事の面で負けないぞって、ちゃんとできますよって振る舞ってしまう部分があるんですよね。誰に言われたわけでもないのに。

演出部基本男性仕様で撮影現場って用意されているんだなってことを感じます。コロナ禍前ですが、地方長期ロケで、低予算の作品で限界集落みたいなところで撮影することがよくあって。民宿とか公民館に詰め込まれるんですけど、結局お風呂がひとつしかないとか、内風呂がないということが結構ありました。男女時間を分けて入っても、生理が来たら大風呂には入れない。そもそも男性も女性もひとまとめで部屋に入れられたりしてたんで、パーテーションで仕切られてるだけで。みんな嫌すぎて車で寝たりしてました。

制作部:わかる。避難所みたいに雑魚寝して.....。体力的に、徹夜とか、風呂に入れないとかとなると、女性はきついと思います。寝る時間ない、車で仮眠してくださいとか普通に書いてあると、ちょっとかわいそうだなと思います。

JFP:仮眠ってスケジュールに書いてあるんですか?

制作部:仮眠って書いてありました。その時は。

演出部:撮影終わっても色々やっていたら、結局帰れずそのままマイクロ(バス)で寝たりとか。

やっぱり生理がツラい

録音部:そういう時、ハードな現場で生理の時、すごくきつくないですか?人によって差があって、平気な人もいれば、起き上がれないくらいきつい人もいるし。ピルを飲めばいいかと思うけど、それも。

撮影部:定期的に飲まないとだし、定期的にもらいに行くことがそもそも難しい。

録音部本当に体調が悪くても、言えなかったり、トイレに行きたいけど忙しくて行けなかったり、なんでそんなに具合が悪いのって言われて......。自己管理だろって言われて何も言えなかったり。とにかく数日青ざめた顔で現場をやり過ごすしかない。

撮影部:今なら男性も少しは、そういうことがあるのかって理解してくれるかもしれないって思うこともあります。現場が大変な時でも体調やメンタルがフォローされる環境なら、女性もこのまま頑張ってキャリアを伸ばそうかな、と感じられるのかな。

JFP:女性同士でもそういうことって言いづらいですしね。

演出部:「どうして、こんなにも男性って女性の身体のこと知らないの?」って思いますよね。毎月血が出るって保健体育で習ったはずなのに。山奥の撮影で用意されたトイレが男女共用で、捨てるところもなくて、使ったナプキンをビニール袋に入れて、ガチ袋(*現場用のカバン)の奥に隠して、帰ってから捨てたりすることがあります。現場の制作部さんのゴミ袋に捨てるわけにもいかないから。

制作部:そうなんですよね。制作部に女性がいないと、多分そういうことに気がつかないですよね。各組の制作部に一人は女性がいた方がいいなと思います。

今日はトイレがありません

演出部:ロケ場所にトイレが用意されてなくて、トイレが無いですってアナウンスもなくて。一日トイレに行けませんってことがあるんですよね。

JFP:トイレがない。

演出部:山の中とか、人気のない場所、廃工場とか。近くにトイレがなくて、トイレに行く時は制作部さんにトイレ便、車を出してもらわなきゃいけない。男性はその辺で......。もちろん、予算が潤沢な作品では複数トイレが設置されたりしますが。

メイク部:女性用にトイレ便出すとか、女優さんが言えばすぐ行けるとかありますよね。俳優部さんにめっちゃ聞きますもんね、「トイレ大丈夫ですか?」って。

演出部:めっちゃ聞きます。切実ですよね、山の中でしたこととか全然あります。でも絶対外ではできない人もいるじゃないですか。もちろん男性でもいると思いますし。

録音部:男女一緒のトイレっていうのもちょっと嫌で、ハウススタジオでの撮影だと、トイレの扉の向こうが現場だったりして、それも嫌だなって。

演出部さらにそれで生理だったりすると最悪。

保健室が欲しい

撮影部:そう言う女性特有の問題もわかってもらって、さらに現場中に頭が痛いとか、体調悪いとなったときに休めるといいですよね。あんなに大きい撮影スタジオがあって、保健室くらいあってもいいのに。カウンセラー兼保健の先生みたいな人が常駐していたらみんな助かる。

制作部:それはすごくいいですね!

演出部:確かに。最近コロナで、衛生班(*コロナ対応を行う)がつくじゃないですか。あれずっとやっとけばいいのにと思います。大きい現場だとプロの看護師さんがついてくれるときがたまにあって、「体調悪そうだけど大丈夫?」と聞いてくれたりするんで、それはすごくいいと思います。

制作部怪我したりすることもよくあるし。そうすると制作部が通常業務を中断して、あるもので手当てして、休む場所を確保して、現場にいる上司やプロデューサーが病院に連れて行くか判断するんですけど、プロがいたら安心できる。

JFP:確かに、託児所を作ろうって動きもありますけど、保健室もあったらいいですね。

演出部:普通の会社員には多かれ少なかれある福利厚生みたいな部分が、フリーランスだから全くないので、少しは利用できるようなシステムが欲しいですよね。

撮影部:とはいえ、託児所や保健室があっても、てっぺん(*24時)まで撮影してたらなんの意味もないんですよね......。

一同:・・・・・・。

【関連リンク】

*斎藤工が進める芸能界働き方改革「撮影現場にベビーシッター」
*全国芸能従事者労災保険センター

Vol.2【プライベート】がない!に続く。


※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。

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