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Episode4 【契約書】がない!〜映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP〜

JFPではこの度、映画の制作現場で働く女性スタッフの皆さん、9つの部署から11名の方にご参加いただき複数回インタビューを行いました。この「現場の声 Mash UP」では、インタビュー参加者が不利益を被ることがないよう全員匿名とし、発言者やエピソード詳細を入れ替え再構築し編集しています。

問題や課題を感じていても、発信しにくい立場の方々からの具体的な声を可視化し、問題点を共有しようという試みです。日本映画界の労働環境の改善に向けて、今後どのような取り組みが必要なのか?実際の現場からの声、第4回【契約書】がない!をお伝えします。
取材:近藤香南子・歌川達人 / 編集:近藤香南子

<インタビュー参加者>
年齢:20代〜40代(キャリア5〜15年)
部署:アシスタントプロデューサー、演出部、撮影部、録音部、メイク部


後出しジャンケン

AP:先日、人を介して受けた仕事でギャランティーの提示が合流の2日前ということがあったんです。私のいつもの額を知っている人の紹介だったから、安心していたら、かなり安い額で。でもすぐに合流で、断るわけにもいかない。そういうことが周りでもあまりにも多いんです。

演出部:ありますよね。口約束で、後になってやっぱり下げて、とか。

撮影部:契約書を事前に交わされなくて、特に今コロナ禍で、俳優さんやスタッフが陽性や濃厚接触者になった時に、どういう補償がなされるのか事前に決められていない。中止になった場合にギャラの何%保証しますということも話されず、メールでも契約書でも記録に残らないまま仕事に入ることが多い。今回は誰もコロナにならなくてよかったね、じゃなくて、なったらどうしてたの?と思ってて。コロナ始まる前からですが、突然キャンセルになる現場もあって、「ギャラどうだったの?」と聞くともらえてないということもある。

録音部:そう。「1~2月空けといておいてね」と言われていて、直前になって作品がキャンセルされることも。そのせいで間がポンと空いてしまったり、収入が安定しなくていつもヒヤヒヤします。

JFP:皆さん契約書って・・・。

一同:ない。

JFP:全然ないですか?

録音部:ゼロではないですが、ほとんどないです。友達がNetflixでも契約書がなかった、いつもと同じと言ってました。

制作部:大きい作品だとスタッフシートには記入します。名前・住所・連絡先・生年月日・緊急連絡先・振込先。労働条件については1行も記載なし。撮影保険加入用と、管理用ですね。

演出部:映画だと、それで働いた当月末に源泉徴収された額が入ってる。請求書すら出さないけど、どんな仕組みなんだろう?

AP:海外作品の時には取り扱いますが、普段は特にプロダクションから作るように言われないんです。

JFP:そうすると、どのように仕事を始めるんでしょう?

演出部:電話が来て「いつ空いてる?監督、ラブストーリー、興味ある?やるやらない?」みたいな。そこでギャラはいくらなのかとか、もちろん保険や交通費の話も聞けないし、あんまり細かいことを聞くと、こいつうざいなって仕事が他の人に行ってしまうんじゃないかと思ってしまう。

撮影部「こいつめんどくさい」と思われるのは本当によくわかって、助手のときに言いづらかったけれど、技師になると監督指名になるので、よほどのことじゃないとクビにならない。なので、技師の時は制作会社に「助手の分も含めてギャラのこと、オーバータイムのことをメールで送ってください」とやっています。契約書まで作ってくれるところはないんですけど、文章に残る形で、クリアにしてもらうようにしています。

録音部:「キャンセル・チャージのポリシーあります」って言うこともあるんですが、笑われる、引かれちゃうんですよね。制作側に、「なんで先にそんなこと言うんだ」という態度を取られることが多くて、迷惑なのかなと。後になって、あの金額だと厳しくて……と相談されることも多くて。交渉したいと思っても、色々理由をつけられてうまくいかないってことが多いですね。

AP:私も、1日いくらでやってねって言われて、1ヶ月だからこれくらいになるなと思って業務を開始したら、途中で予算が足りなくなってきたからこの日から来なくていいよとか。最終的にゴメン、やっぱり半分でと言われたり。実際にそういうことが起きてしまっても、メールとかでひどいですよねって伝えても、泣き寝入りするしかないんですよね。

フタを開けたら

制作部:お給料のことも含めて、実際にどういった仕事内容かということ、仕事内容の相違っていうのもありますね。口約束なので、フタを開けたら、あれもやるんだ、これも私が、みたいなことはもうほぼ毎回あります。毎度のことっていうか。

AP:確かにプロデューサー、上司によって仕事の範囲が違ったりします。みんなそれぞれのやり方があって。それが事前にわからない。

制作部:何でも比較的柔軟に対応できた方が次につながるじゃないですか。そう思って頑張ってしまうから、結局繰り返しちゃうんだろうなと思うんです。仕事の範囲をキッチリとやればやるほど面倒臭がられるんだろうなと思いながら、何か諦めてここまで何年もたってしまったなという感覚です。

演出部:仕事の内容まで明確に契約書で合意が取れていたら、準備でも撮影でも仕事の見通しが立ちやすい。あまりにイレギュラーな仕事が突然振られることもあって、そもそもの仕事で手一杯なのに。

撮影部:技術パートはそのあたり割と明確ではあるけれど、準備パートだと確かにやることの範囲が広いですもんね。

演出部:助監督が撮影前に取材するのはもちろん仕事のうちなんですけど、そこから何か借りてくるとか、許可取りみたいな事になると本当はプロデューサーがしなくちゃいけないはずなんです。でも、「やっといて」みたいになることがあったり。

JFP責任の範囲が不明瞭で仕事をするのは怖いですよね。

演出部:そこまで責任取れない。

わからないことだらけ

演出部:これまで口約束で契約書なくやってきて、今回コロナとなったときに給付金の問題が出てきて、自分が働いてきた証明をしなくちゃいけないのに、何もないって状況が周りでも多かったんです。Netflixの10万円給付というのがあったんですけど、私はエンドロールがあったからできましたが、契約書もない、働いてた証明がどこにもないというのは問題だなと思いました。

JFP:働いてきた、キャリアの証明がエンドロールしか無いと、これまでどんな待遇で仕事してきたかも証明できませんしね......。

AP保険とかの内容も、知らない人がすごく多いんじゃないのかなって思ってて、コロナ禍になってより意識するようになったのは、例えばコロナにかかったらどうしたらいいのか、PCR受けたいけどお金はどうしたらいいか。撮影中は撮影保険にだいたい入ってますが、準備中は入ってるのか?とか、特に美術など建て込みがある時など、網羅されているのか定かではないなって思います。

録音部:撮影保険の説明をちゃんと受けたことないですね。入ってるらしいよみたいな。

演出部:そもそも契約書以前に、そうした業務に関する丁寧なやりとりがほとんどないですね......。韓国で仕事をした時に韓国スタッフに聞いたら「一人一人撮影が始まるまでに、時給がいくらで、いつまで撮影で、と条件を折り合いがつくまで、場合によっては何度も交渉する」って言ってました。

AP:アメリカだと、一日の労働時間が何時間でいくら、オーバータイムの時間あたりの金額がいくら、こういう撮影保険に入っててと全部契約書に記載しててサインしてないとセットに入れてもらえない。

JFP:セットに入れない......。勝手に働けないわけですね。

AP:そして必ず1名、コールシート(*一日のスケジュールが書かれている。日本では日々スケとも言う)通りに制作が行われているかどうかを現場にインスペクションしに来る人がいるんですよね。セーフティの面でも同じで、危ないことしてないか、契約上書いていないようなことを、大丈夫大丈夫って危ないスタントしてないか。俳優の入り時間や、みんながご飯食べられてるかなど、チェックする人がいるんです。

演出部:チェックして違反してるとどうなるんでしょう?

AP:契約違反ってことで、プロダクションにペナルティがあるって聞きました。私がアメリカでついていたのは小さい作品でしたけど、それでもスタッフが強いというか。本当はてっぺん(*24時)で撮影終了予定だったんですけど、監督がどうしてもまだ撮りたいとなった時に、照明部のボスが照明をババーっと消して、プロデューサーに「スタッフ全員にここでちゃんとオーバータイムのギャラを保証して、残業してもいいって了承を取らないと照明を点けないよ!」って言ったんです。

一同:かっこいい〜〜〜

撮影部日本だったら、終わるまで、朝まででもみんなやるでしょうね。CMだと1day単価がだいたい決まっていてオーバータイムもあるけれど、長期作品にも必要ですよね。

学びが必要

演出部:韓国では組合が声をあげて、契約書ちゃんとやろうと、大きいところからやり始めて、浸透するのに10年かかったって言ってたかな。

JFP:スタッフ全員の契約書を交わすだけじゃなくて、その内容についての協議も必要ですし、それにかかるコスト・人件費・時間っていうのをこれまでナシにしてやってきていますよね、そこを改善しないといけないですね。双方に知識も必要になってきます。

制作部:現場のスタッフの中でも、契約書とかめんどくせえよ、ってタイプの人も多いからなあ......。

AP:そもそもビジネス教育が必要なのかもしれない。契約の権利とか。労働条件、保険、労災とか。日本人に足りてないところでもあるし、そうしてきちんと話せる人が増えてくるといいですよね。

メイク部大きいところから今すぐにでもどんどんやって欲しいな。できますよね?

AP:普通の企業だったら当たり前にやっていることですよね。

演出部:疲れちゃって現場を離れて、普通の会社、コールセンターで働いたことがありましたけど、契約書で管理されていて、残業代も出るし、それが当たり前。高校生のバイトでも労働条件を確認してハンコ押しますよね。

録音部:額面、キャンセルポリシー、撮影保険の内容、その作品の撮影時間設定とオーバータイム、休日の扱い、支払い期日、仕事の内容。事前に決めておくべきことがたくさんありますし、ちゃんと話し合わなきゃいけない。とにかく口約束で何となくっていうのを、自分たちの方も拒否していかないといけませんね。

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Vol.5 【訴え先】がない!に続く

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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